とある少女の雪語
『あっちゃあ、雪降り出しちゃってるね。』
空を見上げると曇天な空から白い結晶が舞い降りてきていた。
『ん、そだな。』
私の話し掛けに対して短く適当に答えながらゆぅ君は携帯の画面をジッと見つめている。
聞こえてくる音楽からして最近流行りのパ○ドラと言うのをやっているんだろう。
一度私にも勧めてきたから知っている。
パズル力のなさを理由に私は辞退していたのだがゆぅ君があんなに集中してやっているのを見ると少し惹かれるものがある。
『ねぇ、楽しい?それ。』
『うん。つか、雨香にも勧めたじゃん。パズル力がないとか言って言い訳してたけどさ。』
『あはは、まあね。』
笑って誤魔化しながら私とゆぅ君は校門を出る。
私達が高校生になって二回目の冬。
私とゆぅ君が付き合って始めての冬がやってきた。
まあ、冬が来たからってなにが変わるというわけでもないんだけれどね。
『ゆぅ君。今日は何処か寄ってから帰る?』
ボーッと歩きながら尋ねてみると後ろからは無言の返答が返ってきた。
彼にしては珍しい。
『ゆぅ君?』
振り向くと既にゆぅ君は後ろにはいない。
通りすがりの公園のベンチに座りながらなにやら真面目な顔をしてスマホを弄っている。
って、いつの間に。
『もう!なにやってんの?』
『…いや、ちょっと女○降臨が難しくて。』
そう言ってゆぅ君はまたスマホに向き直る。
…まったく、この男は。
本当に私の事が好きなんだろうか?
夏に告白してきたのは自分のくせに。
色々、無理矢理理由をつけにつけて結局私の髪が好みだから告白したなんて結局本音を言って私を笑わせたくせに。
私はゲームよりも価値が下なんだろうか?
そう思うと少しイラっとする。
ちょっとほっぺでも膨らませてみようか。
『…なんてね。』
彼に聞こえないようにそっと呟く。
本当はあんまりそんな事は思っていない。
彼が私を大事にしてくれてるのは知ってるしそれと同じくらい彼がゲームを愛しているのも知っている。
この男は夏休みの間ゲーム三日間耐久とか言ってぶっ倒れるくらいやりこんだ末に私に助けを求めるとか言う意味のわからない行動をしてきたくらいなのだから。
そんな事を考えながらゆぅ君の顔を覗き込んでみる。
いつもより数百倍真面目な表情にちょっと胸きゅんだ。
『受験か…』
来年、私達はこんなゆっくりとベンチに座る余裕すらなくなっているだろう。
受験勉強と言う物をやらなくてはならないからだ。
だからこそこんなゆったりと流れる時間を大切にしたい。
そう思ってるのは…私だけかな?
『よっし、勝った。落ちた。』
そう言ってゆぅ君はベンチから立ち上がり歩き始めようとしている。
その背中が離れて行くのを見て少し寂しくなる。
彼が私から離れてしまうような。
そんな感覚を感じているからだろうか。
『なにしてんの、雨香?』
『へっ?』
中途半端に歩いた後ゆぅ君は振り返り不思議そうな顔をして私を見つめている。
なぜそんな不思議そうな顔を…
『どっか!行くんじゃないの?ほら、寒いし、早く行こう。』
『…聞いててくれたんだ。』
『まあ、一応。大事な…彼女の話…だからな。』
ゆぅ君は照れくさそうに頭を掻きながら手を伸ばしてくる。
その手をじっと見つめ彼の意図に気付きニッコリと笑いながら彼の手を掴む。
『ゆぅ君。大好き!』
こうして二人は歩いていった。
真冬の寒空の中。
二人は暖かい気持ちで歩いていく。
この続きはまたいずれ。