三話
「ふざっけんな! 何が“3等・・・トランプ10万円分 2等・・・釘50万円分 1等・・・ポケットティッシュ100万円分”だ! 1等に至ってはハズレと同じじゃねーか! だいたい、トランプ10万円分ってなんだ!? 釘なら工場でそのくらい使うかもしれねぇが、トランプは1つで十分だ! 今時カジノでもそんなに要らねぇよ!」
人集の中心からそんな叫び声が聞こえてくる。
声の主は──
「何を言ってるんだ、光希。ポケットティッシュ100万円分は魅力的じゃないか。俺なんか、アレルギーのせいで秋以外は一年中ティッシュを持ち歩いているぞ。ポケットティッシュ100万円分といったら、1ヶ月は持つじゃないか。まさに1等に相応しい景品だよ。」
「黙れ! そして100万円分も貰って実際は1ヶ月程度しか持たないなんておかしいうえにポケットティッシュ如きでそんなに喜ぶのはお前のようなアレルギー重症患者か給食の味噌汁こぼした時近くに雑巾もティッシュもトイレットペーパーもなくて途方に暮れているガキくらいだろうがああああぁぁぁぁ!」
「おお! 凄い肺活量だな! よくそんな芸当ができたもんだ。」
「注目するところはそこじゃねええええぇぇぇぇぇ!」
声の主は、あまりにも手を抜きすぎた景品に憤りを感じた光希だった。
そして、そんな光希の怒りを更に強める物があった。
『特賞・・・爪楊枝10年分』
「この抽選大会の主催者は誰だあああぁぁぁぁ! 今すぐ出てきやがれえええええええええええぇぇぇぇぇぇ!」
怒り心頭する光希の言葉を聞き、『はい、私です。』と出てくるものはいなかった。
そう。“出てくるもの”はいなかったのである。
背後にオーラを漂わせながら拳を鳴らす光希とは他所に、旗を見て呟く者が一人。
「ん? 西海株式会社主催・・・? ・・・・・・・・ああ、そうだ! なんか見覚えのある景品だと思ったら、これ、俺が親父に推薦した抽選大会じゃねーか。通りで俺にとって必要なものばかり集められてるわけだ。なーんだ、そうだったのかー・・・。」
ポンッ! と手を打ち、呟く悠太。
言い忘れていたが、彼の父親は大企業の社長で、母親は女優をやっている。
しかし、そんな彼を見据える黒い影が。
「Is it ready? I kill you right now. (準備は出来ていますか? 私は今すぐあなたを殺します。)」
「ん? ・・・って、おわ!? ちょ、ちょっと待て光希! 流石に風圧パンチはやばい! リアルに死にかけた!」
「What is said? I am going to kill you from the beginning.(何を言っているのですか? 私は最初からあなたを殺すつもりです。) 」
「落ち着け! 今すぐ謝るから!」
「When you die, a pain does not give. Therefore, please die in comfort. (あなたが死ぬとき、痛みを感じる暇も与えません。なので、安心して死んでください。)」
「だー! 落ち着けー!」
直径1メートルの円の中で繰り広げられる死闘に、周りの人集が歓声を上げる。
・・・が、
「祭りに喧嘩持ち込んでんじゃねええええぇぇぇ!!」
「「ぶこはぁ!?」」
テンションが上がりすぎたせいで人格崩壊の道を歩んでしまった京香の飛び蹴りによって2人の死闘は中断され、
「おらおらおら! いつまでも寝っ転がってんじゃねぇぞ、コラアァ!」
「「ぼげぇ!」」
暴力の嵐が飛び交い、
「次、神聖な祭りに喧嘩持ち込みやがったら、ど頭打ち抜くぞ!」
「「すいませんでした!」」
1分後には、ズタボロになった光希と悠太が人集の中心で土下座していた。
(・・・なあ、光希。俺達、どこで間違ったんだろうな?)
(いや、どこで間違えたとか、そんな次元じゃない。生まれてきたことが間違いだったんだよ。)
そんな2人の嘆きの会話が交わされる中、本人曰く、『祭りを邪魔する野郎共』を粛清し終え、冷静さを取り戻した京香はというと、
「あ! そういえば私、まだ抽選してなかったんだった! 早く引いてこよー!」
さっきまでのドスの利いた声から一転し、更には口笛を吹きながら抽選へと向かっており、
「・・・はぁ・・・。」
「光希、人知れずジジくさいため息をつくな。お前はまだ花の高校生だろ。」
「疲れたのはお前たちのせいなんだがな・・・。」
何とも言えない哀愁を漂わせている光希であった。