ユーレイ大騒動・哀愁編
ヤバいくらい間が開いてしまいました。何かノリが変わってしまってるかもしれません。
「何なんだよ全く…」
ああ、いかん。なるたけ愚痴らないようにしてるのに…。
しかし止まらん。帰ってゲームしたかったのになぁ…。
「どこいったの?じゅんぺまん」
ここばっとむ町も一応東京のはしくれだけあって大通りは人多い。
雑踏の中人を探すのはたとえ対象が赤マントで帯刀してる野郎でも難しいだろうなあ。
「手分けして探すしか無いな。各自幽霊について聞きこみをしながらやってくれ」
ひろきまんが妥当な指示を出す。聞きこみか…苦手だなぁ。
「私は北の大通りに行く。とっくまん、後は頼む」
颯爽と向かうひろきまん。かっこいい人だなホント。
「んじゃ、オレぁ西んアーケードいくわ」
のこのこ歩いてくたっくまん。
まぁ大丈夫…かな。聞きこみならあいつの方が上手いだろうし。
「じゃあ…あたしは東…で」
渋い顔で遠くを見るレイ。
視線の先にはひろきまんがいるのは間違いないな。
「北に行くなよ〜」
「大丈夫ですよぉ。……はぁ」
レイはトボトボ歩いていった。
…さて、僕も行くか。
「南か…」
南には特に何があるわけでも無い。
ばっとむ町らしく適当に店やら家やら並んでるだけだ。
む、若い男発見。コンビニ帰りだな?
聞きこみしてみるか…気は進まないけど。
「えーっと、すんません。聞きたいことが…」
若い男がこっち見た。
「んぁ?んだよテメーウゼぇな」
んー、まぁそうだよな。夜中だしな。うんうん。
「あのですね、最近ここらで行方不明事件がありまして…」
「邪魔だっつってんだろコラぶっ飛ばすぞどけ」
かなりメンチ切ってくんなこの兄ちゃん。聞く奴間違ったな…。
兄ちゃんは僕をはねとばして逃げようとする。
せっかく声かけたんだからこっちも退くに退けない。
「なんか知りませんかね?幽霊が出るみたいなウワサとか…」
と、突然兄ちゃんは振り向いて胸ぐらを掴んできた。
「うっせえぞボケが、殺されてぇのか!あぁ?!」
……むむ、しかたないなぁ。
僕は兄ちゃんのすねを蹴りとばし、回り込んで腕を折れる寸前までひねり上げた。
たまらず倒れ込む兄ちゃん。
持ってた買い物袋も落としてしまった。中身は焼きそばUSO。
幸い大通りからはだいぶ離れてたので、辺りに人の気配は無い。
さらに声をあげさせないために口を腕できつく絞める。
「うるせえのはお前だよ、少しは話聞けや」
むーむー唸る兄ちゃん。
「んー?何だ?何言ってんのかわかんねぇぞ、ん?」
少しだけ腕に力を入れた。
さらに絞まる。兄ちゃんのむーむー声がさらにヒートアップする。
……………。
なーんて上手く行ったらいいんだろけど僕にはそんな真似できませんのよ皆さん。
え?今?うんまだ胸ぐら掴まれたまんま。だから腕捻ったり締め上げたりしてない。
ほら、
「うわっ」
とか言って引いた人たち帰って来てくれ、頼むから。
とか脳内で意味分からんイメージが膨らみながらも流石に胸ぐらを掴まれるのはきついので僕はとりあえず答えた。
「あ、すいません。邪魔でしたよねホント。何でもないです」
愛想笑いを浮かべて呟けば、兄ちゃんはケッとか分かりやすい悪態をつきつつ乱暴に手を放した。
「うっぜぇなマジで」
と一言吐き捨てて此方を少し睨みつけながら去っていく。
うーん殴りたい。青キャンかけて17分割したい。
「…まぁ、そんな真似できないけど」
ぶつくさ言いながら僕は再び夜の街へと溶けて行き……表現がアレだな何か。
僕が夜遊びしてるみたいだなコレ。
言っとくけど僕はとても真面目な人なので誤解の無いように。自分で言う奴は胡散臭い?黙れ。
そんな感じでおっかなびっくり聞き込みを開始して早小一時間。
ぶっちゃけダルい、眠い。
そもそも良心的に協力してくれる人自体あんましいない訳で……たまに話聞いてくれる人がいても幽霊の事なんて誰も知らんがな父さん。
親父会った事無いけど。
とか何とか聞き込みも放棄してぼーっとしつつ歩いていたら、いつの間にかニュースリポーターが歩いていそうな閑静な住宅街に来ていた。ノリコさんは見当たらないが。
軽く溜め息をついて見回せば、辺りは真っ暗。
闇を押しのけるには心もとない街灯の青白い光が遠くでチカチカと不定期に点滅している。当然人気は無い。
肌寒い…不意にそう感じた。まぁ夜中なんだから仕方ないっちゃ仕方ない。
腕をさすりつつ、ふと思い付いたように懐から通信機を取り出す。
皆はどうしているだろう、まぁ今日は収穫無しだろうけど。というかじゅんぺまんのアホは見つかったんだろうか…
通信機を耳に当てると、無意識に視線は前へと向く。
ごく自然な流れで通信機のスイッチを入れ……
なかった。
振り向き、通信機を仕舞うとその手で刀身の無い剣の柄のような物を取り出す。
「やっと来たか…」
ぼそりと呟くと路地の隅からゆったりとした動きで黒装束の男…ええと、多分男が現れる。顔は分からない。
「いつから気づいてたんです?」
頭巾の下で僅かに笑いを漏らしながら尋ねてくる。
何が面白いんです?何でこう敵って奴はイヤな笑いをする奴ばっかなんだろ。
僕は無言で柄を握り締める。柄の周りの空間が一瞬歪む。
次の瞬間には、6角形の金属棒…鉛筆のような刀身が現れていた。
通称ペンシルソード。剣としての切れ味は皆無だが様々な機能を備えている。
「…行方不明の人達を何処にやった」
両手で握り刃先を真っ正面に構えながら呟く。
正直つけられている事など気づいてなかった。
やっと来たか、というのは予感の事だ。これから起こり得る事の一連の予感。
「私の質問は無視ですか?ま、あの無警戒振りを見れば大体は分かりますからいいですけど。行方不明…さあて、何処でしょうね。明後日位には出荷されるのかな?」
額を大仰に押さえ、空惚けた口調でケラケラと笑う。
「…人身売買か」
苦々しく言葉を絞り出す。手にも力が当然入る。
地球という惑星は宇宙全体から見ればちっぽけな辺境惑星だ。だがその資源の豊富さと、発展途上の文化を持つ人類が住まう地球は、STならずとも利用価値があり、魅力的だった。
だから宇宙連盟府は地球への過度の干渉を防ぐ為に保護、規制を徹底しているんだけど、それは地球の産物の希少価値を高める結果も招いてる、と。
要するに地球人が裏ルートで高値で取引されてるワケで。鑑賞用、研究用とか色々あるらしいけどとにかく外道には違いない。
「ホントこんな奴ばっか…」
忌々しく吐き捨てると黒装束は肩を竦め、言い返す。
「それは此方の台詞です。良いじゃないですか地球人の10匹や20匹、大した数じゃないですよ。
それを貴方方は几帳面に規制して下さって…ねぇ?HーR。何処の惑星に行ってもゴキブリのようにウジャウジャウジャウジャ…邪魔なんだよ!!」
言い終わると同時、突っ込んできた。
極々普通の突進だけど…速い!
思い切り上体を屈めた体勢から、僕の肩辺りに向けて右の抜き手で突きを放ってくる。
迎え打つ事は避け、左斜め前に半身をずらして突きをかわす。
すれ違う時に分かったが実は抜き手ではなく指の間に針を挟んでいた。
卑怯だなんて言うつもりは毛頭無いけど、やっぱ性格悪いなコイツ。
無防備な側面から反撃しようかとも思ったが、とっさの判断で一歩後ろに飛ぶ。
お互い、一瞬前と位置が入れ替わった状態で硬直し、対峙する。
「へぇ、よく見えてましたね?」
黒装束がヒラヒラと左手に持った短刀を振る。右脇の下からこっちを刺すつもりだったらしい。
「いや、何となく」
本気で何となくだ。だって予感だから。
「大したゴキブリですね。HーRには勿体無い人材が沢山埋もれていて非常に残念ですよ」
楽しげに肩を揺らす黒装束。いやだから何が楽し……もういいか。
「遊びは終わりだ、ペンシルワイヤー」
ちょっと自分でも恥ずかしくなるノリで言いつつ剣を相手に突きつける。
距離は幾らか離れている。
だが剣先から高速で射出されたワイヤーが二人を結ぶ線のように伸び、黒装束が反応する間も無く奴の左手に巻き付いた。
釣りの様に柄をギリギリ握り、相手の動きを封じる。
「ジョディさんに頼まれたからには、お前をきっちり捕まえないとね」
相手の真似をして笑ってみる。多分上手く笑えてない。
と、突然黒装束がくっくと笑いを零した。
「ジョディねぇ…何の話?私がジョディですよ」
頭巾の下でもニヤリと笑ったのが分かる。頭巾を捲るつもりなのか右手を上げている。
…………これだったか、嫌な予感は。
薄々感づいてはいたはずなのに。
男にしては線が細い事。
そして不自然なメガハッピィだか一時期流行ったファービーだか言う馬鹿馬鹿しいキャバクラ宗教。
全て僕等を仕留める芝居だった訳か…
「隙有り。」
黒…いやジョディの呟きが聞こえた。
気づけば僕の喉元に針が突き立っている。痛みは、無い。
……あ、ヤバ。手に力入んない。
右手は頭巾を捲ろうとしていたのではなく針を投げる為に上げてたらしい。
柄から手が離れ、無意識に膝をつく。そのまま手をつきもせずアスファルトの上に倒れる。朦朧とした意識の中頭の中だけでジョディの言葉が響いた。
「安心して下さい、ちょっとした麻痺毒です。貴方の種族は大した価値も無いですがいないよりはマ………」
最後まで聞き取る事は出来なかった。




