とある町の風景
「H−R」
という言葉がある。
ご存じだろうか。
まあ、知らないだろう。
言っておくがホームルームの事じゃない。
H−Rというのは、宇宙の混乱を防ぐために設立した、超巨大な規模の機関の名だ。
誰が何と言おうが真実だ。
彼らは密かに地球に潜り込み、宇宙人による犯罪を防ぐために活躍している。
これは、H−Rの一員として数々の事件を解決してきた、屈強な戦士達の、真実の物語である。
ひろきまんは幸せだった。
明るすぎるばっとむ町の町並みを窓から眺めながら、モーニングコーヒーなど飲んだりしていた。
久しぶりにゆっくり過ごしている気がする。
今はじゅんぺまんはトレーニングに行ってるし、レイは買い出しに行ってる。
とっくまんは…どこかに居るだろ、たぶん。
―そして何より、たっくまんのアホが居ない。
奴が町をパトロールするのはそれはそれで不安ではあるが、あんなヘタレでもいないよりはマシだろう。
それにこんな時間から馬鹿やる宇宙人もいるまい…。
いた。 窓から見える大通りの一角が、ハリウッドアクションのノリで吹っ飛んだ。破片が四方に飛び散る。その中でもひときわ大きな破片がこっちに向かって猛スピードで飛んできている。いや、あれは…たっくまんだった。 たっくまんは窓を軽く突き破ると、私に向かって狙ったかのように飛んできた。全く、朝から騒がしい奴だ。とりあえずやんわりと叩き落としておいた。
「ごふぉっ!?」
床に叩きつけられるたっくまん。
痛そうではある。だがバネのように立ち上がると、私に詰め寄ってきた。
「テメー今わざとはたき落としたろ?!」
「いや、今のは避けきれないと思ってな…」
「嘘つけ!!思っきし冷静に対処してたぞ!!」
おお、対処とか難しい言葉使ってきた。
成長したな…何て感心してる場合じゃ無い。
「それよりお前、今回は何だ?STか?お前がただ単に騒ぎを起こしただけなら、今度こそお前捕まるぞ」
ちなみにSTとは、スペーステロリストの略だが、とにかく宇宙人には妙な連中が多い。
牛盗んだりわざとカメラに映ったり変なサークル描いたり。
そういうのはまだしも、もっとタチが悪いのを取り締まるのが宇宙連盟府直属のH−Rの役目だ。
「いや、今回は…じゃなくて今回もSTだ」
たった今突き破ってきた窓を見据えるたっくまん。
血まみれで焦げてなければそれなりにサマになるのかもしれないが…
「そうか、なら急がないとまずいな」
私達はテレビの電源を切り、ガスの元栓を締め、戸締まりをきちんとして、最後にもう一度全部チェックした後、少しおやつを食べて大通りに向かった。
大通りは酷い有り様だった。
ビルは崩れ、アスファルトは念入りに砕かれていた。
この短時間にここまで破壊できるとは… というか、朝妙に明るかったのは火事のせいか?
「こらテメー!さっきはよくもブッ飛ばしてくれたなぁ!!」
その三流悪役のようなセリフしか言えないボキャブラリー何とかならないのだろうか。
ともかく、騒ぎの原因は目の前にいた。
全身を黒いターバンのようなもので覆っており、手には《U,z》製の爆薬、そして発火金属デクマイト。
宇宙人に間違い無い…というか、こんな奴どこから来たんだ?ターバン男が口を開いたようだ。
「来たな、H−R。恐れをなして逃げちまったんじゃねえかと思ってヒヤヒヤしたぜ」
どうやらヒヤヒヤしてたらしい。最近こういう力試しをしたがる連中が増えて困る。
「さあ、これ以上町を壊すわけにはいかないな。お前はどうする、たっくまん」
「決まってんだろ、正面突破だ!!」
こんな事を真顔で言えるからコイツは凄い。
「うおおおおおー!!」
突っ込んでいった。いつものパターンで行くと、たぶんキックしようとするだろう。
「グラインドキーック!!」
普通の蹴りだ。
避けられた。
殴られた。
爆弾投げられた。
………………。
また私達のアパートに突っ込んだぞあいつ。
いい加減大家さんもキレるんじゃないか…ターバン男がこっちを向く。
「話にゃ聞いてたが、思った以上に弱ぇなあおめーら」
持っている爆弾をお手玉しながら楽しげに笑う。私もあんなふうに笑いたい。
「結論を出すのはまだ早い、後ろを見てみるんだな」
「?!」
ターバン男の背後で真紅のマントが翻る。
仲間の一人、じゅんぺまんのものだ。
じゅんぺまんの剣はターバンをわずかに削り、地面に突き刺さる。
「なっ…」
思わず口を開いてしまったらしい。
ターバン男が少なからず動揺しているのがうかがえる。
それもそのはず、今私が後ろを見ろと言わなかったら、間違いなく剣は男を捉えていただろう。
じゅんぺまんは持ち前のスピードと技の多彩さで定評のある男だ。
対人格闘では私以上かもしれない。そのじゅんぺまんが口を開く。
「もーひろきまんさぁ今の絶対当たってたってマジでぇ」
性格は割と軽い。
「…まぁいいや、次は当てる!」
ターバン男が身構える。
じゅんぺまんの剣が閃…かなかった。
以前として地面に刺さったままだ。じゅんぺまんがボソッとつぶやく。
「…………抜けん」
辺りは静かになった。
……………………ちゅどーん。
じゅんぺまんは割と近くに落ちた。
彼の唯一の弱点、それは天性の運の悪さだ。
こればかりはトレーニングのしようがない。
これを打開すべく、最近風水に凝りだしたのだが。効果はまだないようだ。
「…ハハッ、驚かせやがって」
たぶん、ホッとしてるんだろう。
ターバン男が再びこっちを向く。
…やれやれ、私がやるしかないか…と思ったその時、
「ひろきまんさあああん!!」
レイの声だ。
チーム最高の紅一点(と本人が言っていた)で新人H−Rだ。
ターバン男を弾き飛ばしてこっちに駆けてくる。
「今飛んでいったのじゅんぺまんさんですか?!」
確か買い出しに行ってたはずだが、買い物袋を持ってない。
「あ、買った物はとっくまんに任せました〜」
…何も言ってないんだが。
「レイ、じゅんぺまんを頼む」
私は肩当てを外し、それを重ねた。
両端から棍が飛び出し、武器になる。アーマーロッドという私の得物だ。
「分かりました、気をつけて下さいね!」
元気に駆けて行くレイ。
風に乗ってたまにはひろきまんさんの面倒見たいなぁーとかなんとか聞こえる。
「くそっ!ふざけた奴等だ…」
弾かれたターバン男が腰を押さえて立ち上がる。
「ここまでコケにされちゃ、このダークマミーの名折れだぜ」
ターバン男はダークマミーというらしい。
…微妙だ。だがそんなことより、怒りだす前に決着をつけねばなるまい。決断は一瞬だった。数メートルを弧を描くように数歩で移動し、ロッドを左斜め下からダークマミーの首元に叩き込んだ。ターバンの隙間から見える瞳が驚愕に歪む。だが、浅い。何とか間合いをとるつもりなのか、勢いよく後ずさる。――させない。
「ロッド・スプラッシュ」
エネルギー増幅により高速化した打撃が、ターバンを縦横無尽に撃ち砕く。
さすがに、もう立てないだろう。
レイと文字通りミイラになったじゅんぺまんがやって来る。
いや、じゅんぺまんは無理矢理引きずられている。
私もそっちに向かおうとしたその時、背後で物音がした。
見ると、ダークマミーが仰向けになり、笑っている。
「へへ…油断したな、H−R」
ダークマミーの視線の先には、集まりだした野次馬がいた。
背筋が冷たくなった。まさか、爆弾を―――
「ヘェェッドバズーカァァァ!!!」
爆風が辺りを包んだ。
今の声は…たっくまんだ。
どうやらダークマミーより先に攻撃したらしい。
そして、自分は巻き込まれたらしい。
爆風にもまれながらひろきまんは思った。
爆弾魔にバズーカ撃つな、ボケ!!気付いた時、ひろきまんは病院の一室にいた。
「お、起きた?」
最後のメンバー、とっくまんの声がする。
そうか、彼が後始末してくれたようだ。
話によると、たっくまんがダークマミーより先に攻撃したおかげで、民間の人に被害は出なかったらしい。
ケガの功名というやつか。とっくまんの隣にはレイが座っている。
「ひろきまんさん、リンゴ食べますぅ?」
すでに皮をむきはじめている。
「…君も割と爆発に近かったよな、大丈夫だったのか?」
レイはニッコリ笑って答えた。
「ええ。じゅんぺまんさんが守ってくれましたから〜」
確かあの時彼は気絶して…
「守ってくれたんです」
……じゅんぺまんは向かいのベッドで死んだように寝ている。
実際死んでそうな気がして恐くなったので、話題を変えた。
「そういえば、たっくまんは?」
またパトロールに行かされているらしい。あいつなら例えテポドンをくらっても1時間くらいで完治するだろう。
とりあえず、今回の騒動は終わったようだ。
毎度毎度、良く生きてるなと思う。
「皆のおかげですよ」
レイが天使のような微笑みで呟く。
……彼女とは話さず意思疎通出来るかもしれない。
だが実際、その通りだ。
これまで体験してきたいくつもの事件は、このチームでないと解決できなかっただろう。
とっくに死んでいたかもしれない。
いや、きっと死んでいた。
私をリーダーとして生かしてくれる皆に、改めて感謝すべきだろう。
レイが切ってくれたリンゴはとても甘かった。
窓から見える夕焼けのばっとむ町が、一層赤くなっていく気がした。
その時、窓から見えるビルの一つが突然ハリウッドアクションのノリで吹っ飛んだ。
破片が四方に飛び散る。
その中でもひときわ大きな破片がこっちに飛んで来た。
もうだいたい察しはつくが……
たっくまんだった。
疲れました…でもまだ書きたい話はたくさんあります。誰か読んでくれる人がいたら嬉しいです。




