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ショートショート:地球文明強火オタが推しを応援している

掲載日:2026/10/26

 太陽系の重力場圏内、そこから数天文単位ほど離れた場所。


 そこに、彼らの観測拠点が存在していた。


「地球人、今日も愚かで萌えるわぁ~」


「見てよ、地球の中でまた戦争とかやってるの、いいわよいいわよ~」


「化学反応ベースの兵器で健気に闘ってるの、マジ推せる~マジ愚かぁ~」


 彼らは宇宙のとある星系に所属する知的生命体であった。数多く存在する生命体の中でも、彼らは好奇心旺盛で冒険心豊か、あらゆる所に目ざとくてあちこちに観測員を派遣していた。


 そんな彼らが最初に地球を発見したのである。


 大気圏脱出を単独で行うほどの科学技術を有する。だが相対性理論の壁に阻まれて光速を超える技術には至っていない。次元の壁も突破できていないので物質からしかエネルギーを取り出せていない。宇宙空間で生命維持ができていないため地表から離れて生息できない。限られた領土と資源を地球人同士で奪い合っているので争いが絶えない。


 観察者としての彼らにとっては、とてもいい塩梅の文明発展具合だった。他の星系ではそこまで文明が育っていなかったり、あっさりとブレイクスルーを達成してしまって他の星系と交流を始めたり、戦争で全滅して消えてしまったりと、なかなかその辺の美味しい文明が観測できないのだ。


 こんないい発展具合を見逃すわけにはいかない。彼らはそう考えて銀河連合の監察部局と法務部に働きかけを行い、太陽系の文明を保護対象に指定させることに成功した。外部と接触していない星の文化は貴重であるので、厳密に隔離して維持管理を行うべし。彼らはそう主張し、率先して太陽系の監視と彼ら以外のグループが太陽系に接触しないように警護と情報分析を行う事を申し出たのである。


 彼らの申し出は最初の発見者の権利として受理された。太陽系を囲むように防御スクリーンが展開され、微弱な信号すら届かぬように遮断された。太陽系から発せられる情報もそこで遮断されて、外部には一切出なくなった。今の地球文明の状態を維持して観察できるよう、念入りに管理がされたのであった。太陽系側からはこの状態を観測できない。地球の科学技術では見つけることすらできないよう慎重に丁寧に設置されたのである。そして単独の観測者を規定することで観測データの信頼性も担保することとした。このようなケースにおいては陣営を競わせて競争原理を働かせるのは粗雑な観測を引き起こす原因ともなるのである。


 銀河連邦側でもこの発見は価値のある物だった。それまでの記録に残っている星間文明の事例でも、未熟なうちに接触をしてしまいその文明を破壊してしまったり、うかつに情報を与えてしまって文明レベルを外的要因で引き上げてしまったりといった事例が数多い。今回の地球と呼ばれている惑星の状態は彼らにとっても貴重であるとされた。外部からの干渉がない状態で発達する文明の経過をリアルタイムで見ることができる、またとない機会と言えた。


 さて、地球の情報に対する観測の独占権を獲得した彼らは、そのユニークな文化をつぶさに観察した。そこで改めて彼らは地球文化に触れ、そして魅了されることとなった。


 宇宙に触れていないので完全に閉鎖した文化圏である。そこの人類は自分たちが最優良種であると信じ、世界全てを自分たちが握っていると信じて疑わない。同時に彼らの世界をコントロールできておらず、彼ら自身が自らを制御できていない。観察者である彼らにとって、ここだけでも大いに興奮する発見であった。なんと愚かで野蛮な連中であろうか。


 彼らが手を差し伸べれば、地球はたちまち外宇宙へのルートを獲得し、一段上の文明へと成長するに違いない。そうするのは極めて簡単だ。だが、彼らの自主性を重んじ、試行錯誤を繰り返しつつ苦しんで泥沼の中から成長の芽を自力でつかみ取る、そんな瞬間を彼らは見たいのだ。そしてそれらのデータを記録したいのだ。サンドボックス環境の中で純粋に隔離されている中、地球がどうなっていくのか?彼らは興味津々の目で見つめていた。


 観察のツールとして有益だったのは地球に張り巡らされている通信ネットワーク情報であった。地球人が使っているインターネット、SNS。これらは大量のデータを含んでおり、しかも地球人のミクロな行動履歴も採取ができるので彼らにとってはとてもありがたかった。そして彼らは地球人たちの振る舞いに夢中になった。地球においてもそういうコンテンツがあるという。「リアリティーショー」だ。特定の環境に参加者を配置し、時間経過で彼らがどう動くのかをパネラーと視聴者が楽しく見守る。まさに今回は地球が見守られる側として扱われているのだった。


 とある国家で特徴的なリーダーが誕生し政権が発足する。そのリーダーに対して他国から他国からの攻撃が加えられる。戦争が勃発する。情報空間でも争いが生じ、それぞれの国民がいがみあう。それらが混乱を巻き起こして内乱にまで発展する。


 観察者の彼らにとっては、それらに助言することも許されない。手も出せない。何とも言えないもどかしさとじれったさ。それが彼らの脳を焼き続けた。


 いつしか、彼らは地球文明にどっぷりとハマり、オタクと化した。彼らの間で国家推し、リーダー推しとの概念が誕生し、観察者同士で言い争ったり議論したり、はたまた理想的なまとめ方の思考実験を行ったり。観察者としての分をわきまえつつ、彼らは地球の未熟な文明のとりこになったのだった。


「ほんっとさぁ~、あんな情報工作で踊らされるとかマジ未開人~」


「分かってないなぁ~、それがいいんじゃん。伸びしろしかないんだよ~」


「わたしさぁ~、こっちの国家が派遣握るといい感じになると思うんだけどぉ~、どぉかな~」


「それ分かるぅ、でも国がちっさいから無理じゃね?」


「国の領土が全てじゃないわけぇ~、国民の質が大事なのよマジ卍」


「でもさぁ、国民が多ければ戦争で勝てんじゃん」


「でもホント、うけるぅ~、地球マジたのしすぎてヤバヤバ~」


 ……観察者たちは今も地球言葉を巧みに駆使して心から楽しんでいた。

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