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第9話 褐色肌の襲撃者

ここらへんから改変しました。

違いを楽しんでいただければ幸いです!


 ひとまずはアルカナのくれた数少ない情報であるガイアカグラに向かうことにした。都市というくらいだ。この世界の情報がたくさんあるに違いない。


 そんな事はさておき、推しであるユイカちゃんの隣を歩いている。夢ようだ。草原の感触を踏みしめながら、全身で幸せを噛み締めている。ユイカちゃんの声が、細胞一つ一つを刺激して活性化させている。さっきから、可愛い、綺麗、美しい、幸せ、という気持ちがループしていてよく物が考えられない。これむしろ深く考えられなくなってね?



 でも─感覚はいつでも研ぎ澄まされている。


 肌に突き刺さる殺意と視線が降り注ぐ。音はない。ただ環境音が聞こえるだけ。瞬時に影纏いを発動。時雨を抜き、視線を上に向けた。


「っ!」


 その瞬間に視界に入ったのは、鋭利な短剣を2本構えた女性が木漏れ日に紛れ俺にめがけて降ってきた、という衝撃的なものだった。


 身長は俺よりも少し低め。おそらく170半ばくらい。年齢は20代半ば程度。光を反射するような銀髪のロングストレートが重力によって逆立っている。健康的で張りのある褐色肌。日本ではあまり見かけない銀色の瞳は殺気を宿し、キラリと光を放つ。装いはファンタジー系のゲームでたまに見る灰色のビキニアーマーと、漆黒の肩当て。6つに割れた腹筋と血管が少し浮いている鍛えられた腕、引き締まった足が見えた。降下しているのにバランスがいいし、何より─。


(音も気配も、この距離になるまで気づかなかった。手練れだね)


 見た目は人。さっき戦ったガーゴイルのような魔物ではない。しかし明確な殺意は変わらない。


 視線が重なった瞬間、一瞬だけ驚きの色が瞳に映し出されたがすぐに殺意に変わる。剣を振り上げようとした瞬間、女性が笑った。


「【ディスペル】」


 そう言葉を発した途端、俺たちの足元が光り輝き始めた。自分たちを中心にして円のように光が広がっていき、模様のようなものが描かれる。


(魔法陣…? まずい!魔法の種類によっては対応できない)


 この世界には魔法がある。それはさっきアルカナから聞いていたけど、どんな魔法があるのかはわからない。何よりも、俺たちの異能でその魔法に対抗できるのかは不明だ。


(下に張り巡らされている魔法陣が対処できない類のものなら…考えるな! 動け!)


 そんなことを考えていても時間は止まってくれない。眼前に短剣が迫る。魔法陣のことは後だ。今は考えても無駄だ。相手に専念する。


 迷わず剣を振り上げた刹那、武器が交錯し、ガツンッと衝撃が全身を走る。


 姿勢が不完全でそこに上からの落下スピードも上乗せされた短剣の威力は想像以上。人間でもこんなパワーが出せるとは驚きだ。受けた時の衝撃が短剣の切れ味を物語るけど、相当な切れ味だ。


「なっ?! なんで魔法が使えやがる! チッ」


「魔法─」


 魔法なんて使ってない─そう言葉を紡ごうとした時には次の攻撃が飛んできた。


 前蹴り。

 ガードするも少し後退。更に着地した瞬間に地面を蹴り、猛スピードで突進してきた。見た目にたがわぬ凄い身体能力。動きが尋常じゃないくらいにスピーディーだ。


 感心しつつ俺も迎え撃つために地面を蹴った。


 先に距離を詰めたのは相手さんの方だが、踏み込みの速さなら負けてはいない。武器が交錯した瞬間、強い衝撃が全身を駆ける。パワーで勝っているので俺の方がわずかに押し込んでいるが、ほとんど互角。


 だが鍔迫り合いにはならず、次の瞬間にはハイキックに切り替えてきていた。到底俺にはできないス軽やかな攻撃の切り替えに、目を奪われた。矢のような速さの切れのあるハイキックを腕で咄嗟にガード。


 鈍い音を置き去りにするように、鎧の上からでも骨にまで衝撃が響き渡る。想像以上のハイキックの威力に受けた腕がじんじんと鈍重な痛みが広がる。でも痛がっている余裕はない。ハイキックからすぐに切り替えて、短剣が振るってきた。応戦し、剣戟になる。



「ユイカちゃん! ここは俺に任せて、魔法陣の外に出て安全確認をお願い!!」


「了解です」


 その言葉の間にも何度も剣がぶつかり合い、火花が散る。パワーでは勝っているのに剣術も体術も俺より上で、主導権は全く握れない。完全に分が悪い。


(本当に人か? 普通の人間が相手なら、圧倒的な差があるはずなのに、影纏いを発動させている俺と五分五分の身体能力だ。しかもこの剣捌きといい…只者じゃない)


 正直相手さんの身体能力は、俺の知っている人の限界というものを優に超えている。鍛え抜かれたアスリートの素晴らしい肉体をもってしても、このレベルに達するのは不可能だと言わざるを得ない。それくらい差が出るはず。


 魔法の類か?そんな予想が過るけどそれよりも、これほどまでの技量を持った相手と戦えていることにワクワクが止まらない。


 剣戟の流れで鍔迫り合いとなり、ようやく動きが止まった。

 こっちは俺の身長と同じくらいの大剣なのに対して、相手さんの武器は短剣。2本使っているとはいえ、一点にかかる負担が大きいだろうに上手くいなして鍔迫り合いを維持。微妙に芯をずれされていて、うまく押し込めないようにされている。修正しようにもその動きに敏感に反応していなされて上手くいかない。対処をミスればその瞬間、短剣を首元に差し込まれそうだ。凄い。こんな相手は初めてだ。


 でもこれでようやく少し話ができる。


「あんた何者─」


「お前、何者だよ…なんでそんな力が使える! なんで【ディスペル】の範囲内なのに魔法の類を無効化も減退もせずに!!」


 俺よりも先に質問されてしまった。そしてその質問の答えを俺は知らない。そもそも【ディスペル】ってなんだ?ゲームでしか聞いたことがない。でもこの口ぶりだと、もしやディスペルは魔法を無効化する系の魔法陣か? だから俺が影纏いの力で剣を出現させて、ガードしたことに驚いたのか。なら何となくわかるかもしれない。


「たぶん…『効果の適応外』、だってことかな?」


「は? 適応外?」


「俺は異世界から来た人間でさ、この【影纏い】は元の世界で身に着けた異能なんだ。その【ディスペル】というのが魔法“のみ”無効できるなら、異世界の異能である【影纏い】には効果がないんじゃないかな? あくまでも推測だけどね」


「…はぁ!?」


 俺の言葉を聞き終わると驚きの声をあげて目を見開いている。

 俺のあまりよくない説明は、うまく伝わってくれたらしい。よかった。もともと説明は苦手で、しかもただでさえ考えがまとまっていないから、更にあやふやな感じだったけど。


「異世界? 適応外? …はぁ?!」


 少しパニックにはなっているようで首をかしげてうなっていたが、数秒経てば『オッケー…』と、何となく受け入れようとしてくれているみたいだ。いきなり『異世界から来ました。だからその魔法は効きません』とか言われても、すぐには受け入れられないだろう。自分に置き換えても無理な話だ。ユイカちゃんと俺がこの世界に来た時と、似たような反応だ。


 でも一番凄いのは、この動揺を見せる状況でもしっかりと鍔迫り合いで優位を譲ってくれないことだ。なんて素晴らしい技術。羨ましい。


「じゃあ俺の質問にも答えてもらおうか」


「断る!!」


 剣を寝かせ、のど元へと刃を滑り込ませてきた。瞬時にバックステップを踏んで躱すが、短剣がわずかに喉の鎧を掠めた。危なかった…。


 突然襲ってきた人間がペラペラと自分のことを話すとは思えない。襲われた俺は呑気にも答えてしまったわけだけど。


 しかし、そんな彼女にはこれは予期できなかっただろう。


 影を操るとはどういうことかを。


「【影ノ水面(かげのみなも)刃ノ波風(じんのなみかぜ)】」


 這っていた影が刀の形に姿を変え地面から離れ、空振った彼女の短剣を弾き飛ばした。

 俺は影を自由自在に、変幻自在に操れる。考えることが多くて、たまに頭がバグりそうになるけど。


「しまったっ!」


「驚くのは早いよ─あなたは1つ、重要な事を忘れてる」


「なっ─」


 その声が上がった瞬間、相手さんが宙を舞った。


 ユイカちゃんが猛烈なスピードでタックルしたのだ。片方の手を太ももの後ろに回し、もう片方の手で相手さんの手首を掴んでの良い形のタックルだ。


 俺に効果がなかったという事は、彼女もその可能性がある事を考えておくべきだったね。


 【この世界には、異世界から人間は2人いる】。


 それはそれとして、なんてカッコいいんだ! 俺は推しの躍動を間近で見れている。なんて、良い日だ。


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