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第8話 伝える想いと伝えない言葉

 まさかストレートに聞いてくるとは思わなくて、腑抜けた返事になってしまった。

 知られてしまった事実に恥ずかしさが込み上げてきて、心臓が破裂しそうな程の鼓動が鳴り響く。体にめぐる血の流れがとんでもなく早くなった気がする。


「せ、せめて髪型だけでも近づきたかったから店員さんに……ユ、ユイカちゃんの画像を見せて似た感じに切ってもらったんだ!」


 店員さんにユイカちゃんの画像を見せて、『同じ感じにしてほしいです!』と注文して切ってもらった。引かれるかもしれないが、そのくらいドはまりしていたから。


 初めてユイカちゃんを見た時に全身を雷が駆け巡るような衝撃が走ったけど、その感覚は回を追うごとに増していって。少しの登場やセリフで彼女の内面をたくさん知ることができ、もっと深くに引き込まれていった。

 もう1年位前の出来事だけど、切り終わって鏡を見た時の感動は今でもはっきりと覚えている。髪質が違うから全く同じとはいかなかったけど、それでも似ていて嬉しかった。


 端から見たら気持ち悪いと思われるかもしれないけど、お揃いになれて本当に嬉しかった。あの頃は心の底から浮かれてたなぁー。頼むから引かれないでほしい。ここで引かれたらもう一生立ち直れないかもしれない。


 不安で心臓が握りつぶされそうな圧迫感と食道付近に強い違和感が。目の前が揺れているようにも感じるけど、ユイカちゃんの事ははっきり見える。


「そ、その……ユイ──」


「最初の言葉は……本音ですか?」


「……え?最初?」


 推しに対する感想をくれるのかなと思ったけど、全く別の事を言われ予想外。

 最初の言葉って、なんだろうか。俺は何を言ってしまったんだ!


「最初のって……」


「この世界に来て、私と初めて会った時の言葉です。あ…あれは!…本音ですか?」


 頬を赤く染めて聞いてくる。可愛い!でもそう思うと同時に、その時の記憶がまざまざと蘇ってきた。


『ユイカちゃん大好きだよ!! 最高にかわいいよ! カッコよくて可愛くて魅力的で最強だよ!! 君と出会えて幸せだった。君のおかげで、今日この日まで生きて来れたんだ。生きる希望をくれてありがとう! どうか幸せになってね。愛してる…大好きだ、ユイカちゃん!!』

(はわぁっっっ!!!)




 一言一句間違うことなく、あふれ出して零れた愛の言葉の全てが頭の中で再生された。

 今思い返せば、初対面で伝えるにはあまりにもとんでもない発言だった。顔から火が出るのではないかと思うくらいに熱い。変な声まで出しそうになったがなんとか耐えれている。

 

 でもまさか、最初の愛の告白について追及してくるなんて…緊張と可愛さで心臓がバクバクしまくって止まりそうなんだけど。頑張れ俺の心臓。まだ始まったばかりだ。

 

 あの時はまだ、異世界に来たことが半信半疑で夢の中だと思い込んでいた。ユイカちゃんと対面できたことも非現実の夢だと思っていたから、後悔して夢から覚めたくなかったから、心の内を余すことなくありのままに口から零れ落ちた。


 でも今は違う。


 この想いをちゃんと伝えたい。


 そう決意を固めた瞬間、人生で一番の緊張感が襲い掛かってきた。


 視界から周りの景色は消え、この世界に自分とユイカちゃんしかいないかのような不思議な感覚に包み込まれていく。


 ライトグリーンの瞳は返答を今か、今かと待ち遠しそうにジッと俺の目をまっすぐ見つめていた。一つ息を大きく吐き出す。震える呼吸を宥める。今度こそちゃんと想いを伝えるために。夢ではなく、現実の面影夢叶としての言葉を伝えたい。


「本音だよ! 俺は…ユイカちゃんの事が大好きです。仲間想いでまじめで実直で、ちょっと素直じゃないけどちゃんと悩んで素直になれて、クールになろうとするけど表情豊かで、熱い心をもって情に厚くて、譲れないことは絶対に譲らない気高さがあって、何事からも逃げずに立ち向かって、綺麗で、美しくて、可愛くて、かっこいい─最高に憧れる人です! 世界で一番幸せになってほしいと願ってます。大好きです!!」


「~~っ……!」


 言ってしまったぁぁぁ…絶対に言いすぎた…。途中から止まらなくなっちゃった。


 その言葉を全面的に受けてしまったユイカちゃんは顔全体、耳の先までほんのり赤く染め上げている。鋭さがない目で睨む形で見てくる。『付き合ってください』と言っていないだけの告白の言葉を、全部受け止めてくれた。


 でもこれで今度こそ想いを伝えられた。達成感と不安が入り交じり、自分の意思に反して体が小刻みに震える感覚になる。この次にユイカちゃんがどう返すか、全く見当がつかないし怖い。心臓を握るつぶされる感覚が襲う。みぞおちのあたりに圧迫感を感じる。


「そこまで言ったのに……『付き合ってほしい』みたいな事は言わないんですね」


「う、うん……それはまだ……」


 ユイカちゃんが大好きだ。星守ユイカが大好きだ。これからの人生の全て捧げたいと思うくらいに。一緒に入れるだけで、これ以上ない幸せだと思えるくらいに。

 

 でも俺たちは─今日、初めて『出会ったばかりだ』。


 漫画を通じて互いの事は知っていても、初めて話し、初めて心を通わせた。2人で過ごした時間は、あまりにも短すぎる。

 

 告白は一か八かでするものではない。互いの事を深く知らない今、勢いに任せて告白するのは間違っていると感じている。さっきの言葉はほとんど告白みたいなものではあったけどね。とにかく、『尚早』─この言葉が俺の中を駆け巡る。

 この気持ちを抱えて告白したくない。大好きな人には、どんなことでも誠実でいたい。


「漫画では知っていても、実際に出会ったのは今日。互いの事で知らないことがある中でまだ言うべきではない……そう思っていますね?」


 ドキッと心臓が跳ねた。全てを見透かしているかのように、的確に俺の心境をまとめてくれた。流石ユイカちゃん。何も言わなくても全て伝わっている。これが読心術か!?もしかして思考は読まれている?むしろ読まれたい。


 外していた視線を再びユイカちゃんに向けると、息を飲んだ。

 真っすぐ俺を見て、嬉しそうに微笑んでいる。全ての次元の中で一番可愛くて美しい。


「当たっているみたいですね。あなたならそう考えるだろうと思ってました」


「全部お見通しってわけだね…エヘヘ、ユイカちゃんにはかなわないよ」


 ユイカちゃんの嬉しそうな顔を見たら、こっちも嬉しくなって笑顔になれた。

 彼女には敵わないよ。


「私たちはこれから一緒に旅をします。同じ空間、同じ時を過ごします。そして互いの事を今よりも深く知ることになるでしょう。ですから…互いの事をもっと深く知れたその時に気があれば───言葉を紡いでください」


 そう最高の笑顔を持って答えてくれた。

 全世界のどんな景色よりも美しくて、可愛くて、綺麗な笑顔を俺は永遠に忘れることはないだろう。幸せに包まれた気持ちも、明るくなった世界も絶対に忘れない。この笑顔をいつまでも守ると心に深く誓った。


「はい! これからよろしくね、ユイカちゃん」 


 そして俺も聞いておきたかった。


「ユイカちゃんは俺の事を…その…どう、思ってるの?」


 気持ちを聞きたい。アルカナが言っていた精神的負担にならないって言葉と、そのことは後でゆっくり話すと言ってくれていた。だからどうしても、その真実が気になった。


 星守ユイカは男嫌いだ。自身でも偏見を持っていると語るくらいには、壁がある。エレクトロン・アカデミーの中では、主人公の男の子が誠実に向き合ったおかげで、男に対する偏見は少し薄れているような描写が最終話には描かれていたけど、俺のような一般人に優しくしてくれるほどのものではない。


 気になる。どんなことよりも気になる。


 そよ風の音をかき消すように、鼓動が耳をつんざくように鳴り響く。


 聞かれたユイカちゃんは目を閉じて、息を深く吐き、目をカッと開いた。何か決意を固めたような真剣な表情になる。彼女はいつも何事にも真剣だ。本当にかっこいい生き様で、そんな姿にいつも憧れている。


「人として信じています。誠実なのも、素直なのも、仲間想いなのも知っていましたから。だから最初の言葉を聞いた時に私の知っている夢叶君なのだとわかり、安心して偏見なく接することができました。アルカナから説明を受けている時に、実際に人となりを自分の目で確認することができました。だから、真剣な言葉や想いも受け入れられましたし、あの言葉は素直にうれしかったです。改めて言いますが…夢叶君が、精神的負担になることはありません。安心してください」


 優しい目をしながらユイカちゃんが微笑んでくれた。最高に可愛くて美しい。心に纏わりついていた不安が剥がれ落ちていく。


 この微笑みは、ファンが選ぶユイカちゃんの好きな表情ランキング堂々1位であり、俺も一番好きな素敵な表情だ。幸せが全身を駆け巡り、自然と口角が上がっていた。この幸せな瞬間がいつまでも続いてほしいと願わずにはいられなかった。頬を涙が伝う。今日だけでも何度目になるだろうか。嬉しくて涙が流れるなんて、今日が初めてだ。全身に力がみなぎる。生きるための力がもらえる。霧がスッと晴れたように心が晴れやかになった。


「夢叶君なら、知っていますか?私の“テリトリー”を」


「…うん、知ってるよ。3メートルだよね?」


 ユイカちゃんは男を信用せず、嫌悪感を抱いて警戒しているので物理的な距離を取る。無断でその距離に入れば警告、更に近づけば迷わず攻撃。それが3メートルというテリトリーだ。それくらい離れていればある程度は対処できるらしいし、知らない人間には前もって話はするようだ。こういう所の詳細は明かされていない。打ち切り、許すまじ。


 なので俺はこの世界に来てから今この瞬間も、3メートル以上の距離を保っている。


「そんな事も知っているとは流石ですね。なら、動かないでくださいね。信じているので…」


「え?」


  『動かないで』と言われ困惑している次の瞬間。

 無言で1歩、また1歩とこちらに近づいてきた。近づいてきている!?テリトリーを力強く悠然と踏み越えていく。


「え、え、えぇっ!?」


 困惑とドキドキが入り交じる中、スッと止まった。その距離は約1メートル。

 近い!さっきよりもユイカちゃんがはっきり見える。やはり2メートルという距離の違いは歴然の差だ。胸の高鳴りが加速していく。


「こ、こ、これは…!?」


「夢叶君なら…この距離まで近づいてもいいですよ。信用していますので」


 微笑み満足そうに告げるユイカちゃん。俺を信じてくれて、2メートルという距離を縮めてくれた。嬉しくて心が震えてくる。この距離を大切にしてみせると、心の中で固く誓った。


「ありがとうユイカちゃん。めちゃくちゃ嬉しいよ!」


「いえいえ」


 得意顔でそう告げる表情は最高に可愛らしく、どこか誇らしげであった。この素晴らしく最高の笑顔を守りたい。いつまでも。いつまでも─。


 今日は人生で最悪な日だと思った。



 でも違った。



 人生最高の日だ。


 そして─これからの生き方を決めた日。


 彼女を世界で1番──全次元で1番幸せにしてみせる。


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