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第6話 ラグナロクと2人きりの旅路

「まぁその答えで納得してあげましょう。で、世界を救うには具体的に何をすればいいのでしょうか? ロードマップのようなものがあると助かります」


「ください」


 世界を救うために何をするべきか。まずはそれが分からなくては話にならない。この未知の世界をなんの当てもなく歩き回ってたら、先に寿命が来てしまう気がする。そしたらゲームオーバー。いやだなぁ…老衰によって世界が消滅するとか。

 

 ユイカちゃんがどんな大人になるのかには興味があるけど、苦しむユイカちゃんは見たくないからできれば早く救いたい。『ユイカちゃんを元の世界に帰す』。それが今の俺の夢だ。

 この夢を叶えたい、そう願っているだけでやる気が満ちてくる。


『ようやく前向きになってくれたね。いいね。じゃあ色々と情報を教えるよ。まずはさっき心配していた“寂しい思い”をさせるかもって不安だけど。その点は大丈夫。先に進めばご褒美的なものとして、元の世界から人を連れてくる事ができる。これはだいぶ先の話になるから今は全く関係ないけど、そういう話もあったなと覚えておけばいい。そしてこの世界についてだ。この世界の名は【アーク】。君たちの世界では親しみやすい名前なんじゃないかな』


「そうだね。神話に出てくる方舟…確かに俺たちや全人類の命運をかけているから、ふさわしい名前かもね」

 神々の争いで乗る方舟だから神話に出てくる本場のアークとは意味合いが違ってくるけど…いい名前だ。


『僕もいい名前だと気に入ってるよ。アークは、君たちにとってはファンタジー色が強い世界だ。魔法が存在し、マナという特殊なエネルギーを用いることで使用できる。あそこに見えるドラゴンや、今さっき戦ったガーゴイル、君たちの世界では架空生物と呼ばれた生物や、他にも様々な種族が栄えている。しかし、今この世界は【魔王ルシファー】の侵攻にあい、厳しい情勢だ。君たちがこの世界を救える最後の希望、【特異点】となるのだ。というのが神々の代理戦争─【ラグナロク】の内容だね』


 楽しそうに首を傾げてくるけど、神の代理戦争と言うのはあまりにも重い。神の化身が相手だよ?魔王だよ?確かに俺には【影纏い】という異能があるけど、それ以外はごくごく普通の人間だ。別に頭もよくない。テストの点もいまいち。不安は募るばかりだ。


『そしてルシファーの居場所だけど、【最果て】と呼ばれる場所にいるらしい。名前以外は全く知らない。あとは自分で情報を集めてね。そういうわけで…冒険の始まりだ!』


「あららーまぁそうなるよねー」


 場所を知っているなんて、都合がよすぎるからね。その名前がわかっただけでも御の字だ。自分たちで調べていく事になるし、長い旅になりそうだね。


 旅が長くなると必然的にユイカちゃんと一緒に入れる時間が増えて、幸せな気持ちでいられるけどそれと同時に、一刻も早く元の世界に返したいという焦る気持ちがぶつかり合う。そして今の俺には、ユイカちゃんとその大切な人たちの命がかかっているという重圧もある。今までに感じたこともないような重く、全身を包み込むような緊張感が水の様に張り付いてくる。人生で初めての感覚だ。


 でもこういう時に、何十億人の命と運命を背負っている気持ちになれないのが英雄気質ではない、と我ながら思う。元の世界で戦っていた時も負ければ人類は滅びるって状況ではあったけど、あの時は別に全人類を背負っているなんて気持ちはなかった。ただひたすらに今は亡き大切な人のため、自分のため、わずかに友人や周りの人のためだった。

 テレビやアニメで見ていたヒーローはこういう時に、全部背負ってやるぜ!ってなれていたと思うと本当に尊敬の念を抱くよ。


『僕もアークは初めてだからね。干渉できないし知らないことばっかりだ。でもだからこそ面白い。アークでのルールは君たちが探索しながら学んでくれ』


「こちらはまずは学ぶところから……ですか。ルーラーやルシファーは私たちの事は知っていますか?」


『そりゃ知ってると思うよ。なんたって対戦相手になるわけだからね。でもどのくらい知っているかまではわからないな』


「場所以外でルシファーについての情報は?」


『ない。僕も初めての世界で背景も少ししかわからないからね』


 どうやら引き出せる情報はないようだ。それはまぁいいとして、アルカナはなんでそんないい笑顔をしてるんだ。余裕がありすぎるだろ。意味が分からん。むしろ楽しんでないか?


 ユイカちゃんは呆れたような、あきらめたような感じでため息ついて首を軽く横に振っている。可愛いなぁ。癒されるなぁ。


「時間かかりそう…こんなんじゃ寿命きちゃうよ」


『あぁそれなら大丈夫! 君たちの世界の時間を止めているんだけどね、それによってこの世界で君たちは不老だ。寿命で死ぬことはない。詳細な仕組みは面倒だから省くけど、その点は安心してくれ。いくら時間をかけてもいいよ。まぁ…“かけれるなら”の話だけどね』


「えっ!?不老になってるの?年取らないの!!』


 流石神。もう何でもあり。この匙加減がもうわからない。

 でもこの世界にいる間は、ユイカちゃんと自分自身が大人っぽくなっていく姿を見られないのは少し残念ではある。


 というか今、時間を止めてるって…?


「時間を止めてるとは、その言葉の通りですか?」


『うん、その言葉の通り。色々と問題が起きかねないからね』


「何でもありだな…まぁわかったよ。他に強化はできないの?」


『不老以外はないね』


 もしかしたら干渉できないも神基準もできないなのかもしれない。考えるだけ無駄だ。

 神の争いに巻き込まれた人間代表なんだから、理解しようとしてはいけない。むしろ不老だけでよかったのかもしれない。不死とかなりたくないし。


 というか不穏だね。『時間をかけられるなら』って…。本当に何も知らないのか?


『アークに存在する言語は『現代日本』をモチーフに作られている。ひらがな、カタカナ、漢字、英語、和製英語など様々。君たちにとってはなじみのある言葉ばかりのはず。言語を理解するところから始めなくてもいいよ。日本人は扱う言葉が多いね。非常に興味深いよ』


 これは助かる。言葉が通じないとそれだけでもかなりの苦労を強いられるからね。

 異世界ファンタジー系でも問題になる、言語の壁をこんな形でクリアできるのはかなりのプラス。現代日本と変わらないのなら気が楽。


「それは大いに助かります。他には?」


『まずはあっちの方にいけば、『ガイアカグラ』という都市がある。そこは人類が暮らす国ユグドに属する都市だ。そこにいけばこれからの道筋が見えるはずだ』


 アルカナが指をさした方向は、あの山よりも大きな世界樹のような大木があるほうだ。ユグドって名前なくらいだし世界樹なのかな。世界樹と言えば創作の物語では結構重要な位置づけをされているイメージがあるけど、この世界でもそうなのだろうか。


 2つある太陽も気になるし、浮かんでいる大陸も気になるし、この世界はまるでVRでMMORPGの世界に入ったみたいだよ。気になることがどんどん増えてくる。


「そういえば俺たちが世界を救おうと奮闘している間、アルカナはどうするの? ついてくるの?」


『いや。僕は別の次元から君たちを見てる。僕もあくまで観戦者的な立ち位置だからね。よほどの事が何かしない限りは呼ばれても来ない。基本的には君たちは2人きりだ』


「そっかぁ…2人きりかー……ハッ!」


 2人きり。ユイカちゃんと2人きり…え?

 2人きり…2人きり…2人きり…2人きり…2人きり…2人きり…2人きり…2人きり。


 改めて“2人きり”だということを認識すると、その言葉が頭の中で何度もループする。

 全てを理解した時、正確にはこれからの未来を想像し受け入れてしまった瞬間に、心臓が一気に跳ね上がった。先ほどの比ではないくらい緊張してきた。心臓が破裂するのではないかと思うほどの鼓動を生み出し、全身の体温が急上昇するのが自分でもわかる。血管に流れる血が沸騰してるんじゃないかと思うくらい熱い。


(落ち着け、落ち着け、俺。いや落ち着くのなんて無理!!! ユイカちゃんと2人きりだぞ。落ち着いている方が失礼と言うものだ!!!)


 落ち着けるわけがない。緊張で震えた足は止まらない。『可愛くてかっこいい最高に魅力的な推しであるユイカちゃんと2人きりの旅路』とかいう、夢のような時間をこれから過ごすのだ。こんな状況、緊張しないわけはないだろ!


 チラッとユイカちゃん見ると視線がぶつかる。綺麗で大きなライトグリーンの瞳を縁取る長く艶やかなまつ毛。当然だが漫画で見た時よりもはるかに可愛くて魅力的。また心臓が跳ね上がる。目がそらせない。可愛い!!!!!


 なぜかユイカちゃんは頬をほんのり赤く染めてるし、でも目線はそらさないし、尊い! 心臓が破裂するかもしれない。しないでほしい。なんとか耐えてほしい。こんなにも幸福感に包まれているんだから頑張れ心臓!頑張れ俺!


「が…頑張ります」


 『たとえどんな過酷な旅になろうとも全力で幸せな日々を送らせてみせる』、そう心の中で固く誓った。


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