第5話 初戦よりも推しの戦いが重要
視界の端に見えるユイカちゃんも同時に動いたので同じタイミングで地面を蹴ったのだろう。嬉しい!好きな人と行動するタイミングが一緒だと嬉しいとは聞くけど、本当にその通りだ。ついにやけてしまった。こんな姿は引かれるかもしれないから見せられない。
敵との距離約15メートル。【影纏い】により身体能力も上がっているため一瞬でその距離は縮まる。風を切り裂き、音を置き去りにする。
ガーゴイルにはそれが予想外らしく禍々しい目を見開き、驚きの表情を浮かべている。だがそれはすぐに険しいものへと変わり、向かっていく俺たちを迎撃しようと右手を掲げ、鋭いかぎ爪を振りかざしてきた。一瞬、太陽の光に反射して不気味に煌めく。触れただけで傷つきそうなほど鋭そうで、見ているだけでも背筋に悪寒が走る。
かぎ爪が振りかざされた時、その動きははっきりと見えた。
これなら─当たらない。
地面を軽く蹴り、最低限の動きで瞬時に場所をずらす。顔の横約10センチ。かぎ爪が空を斬った。風と僅かな衝撃が頬を撫で、その直後に地面が破壊される轟音と衝撃波が伝わってきて、今の攻撃の威力を物語る。
きっと“普通の人間”が生身でもろに今の攻撃を受けてしまったら、たった一撃でその身はやすやすと切り裂け、肉塊へと変貌してしまうことは想像に容易い。
空振りしたことでガーゴイルの体はグラッと崩れ、隙が生まれた。その隙を見逃すことなく胴体に向けて、迷わず大剣を横薙ぎに払う。
剣が身を割いた瞬間、苦悶の叫びと共に傷口から人間と同じ鮮血が噴き出す。血が宙を舞うのを横目にしながら止まることなく背後に周り、振り上げた大剣を斜めに斬り下ろす。
声にならない短い叫びが一瞬、大地に木霊する。
今まで斬ったことのない、経験のない手ごたえ。人の肉質よりもはるかに硬く、分厚い。肉と言うよりも岩や鉱石の類を斬っているような感覚で、そのずれが少し気持ち悪い。
でも手ごたえは完璧なもので、勝負が決したことは確信できた。
念のためにバックステップをして距離を取る。
ユイカちゃんの方を見れば、大剣を巧みに扱い、ガーゴイルを鮮やかに一刀両断。その瞬間を目の当たりにした。さらに瞬時に背後に移動し追撃としてゼロ距離で銃弾を叩き込み、バックステップを踏んで俺と同じくらいの位置まで下がってくるという、洗練された動きを披露してくれてそのすべてに見惚れてしまった。
「かっこいい!!」
まるでアクション映画のような爽快でエネルギッシュな動き。惚れ惚れとして、口元を抑えるも言葉が漏れ、あまりのカッコよさに胸が高鳴る。こんなにも素晴らしいものが間近で見れるなんて、幸せすぎる。嬉しさで若干、体が震えている。
銃声も映画とかで見るようなエネルギー弾を出す近未来的な銃の音でかっこいいし、バックステップで返り血も華麗に避け、銃をホルスターにしまう姿なんてスタイリッシュと言う言葉はこの時のために生まれたのではないかと思ってしまうほどに良い。かっこいい!可愛い!
しかし惜しむらくは、ユイカちゃんの戦いを最初から見れなかったことだ。ガーゴイルさえいなければ一挙手一投足をこの目に焼き付けていたのに…悔しい!一生の不覚だ。
悔しさとユイカちゃんに対する胸の高鳴りで悶えが合わさって、じたばたしているとガーゴイル達に異変が起きた。痙攣していた体や噴き出していた鮮血は止まり、体全体が石化し始めたのだ。
『ディアブロは生命活動が終了するとあのように石化する。おめでとう、君たちの勝ちだ。と言っても、あまりの力の差に勝負にすらなっていなかったがね』
そう満足にアルカナは笑った事でようやく一息ついた。ディアブロは死亡した時に石化するという事実が判明した所で、この世界での初戦闘は幕を閉じた。
「まさか、面影君も戦えるなんて思いませんでした」
「俺も同じ気持ちだよ! 強いね、ユイ…星守さん」
テンションが上がりすぎてつい名前で言いかけた。だが、またも眉間にしわを寄せ、一瞬ムっとした表情を浮かべるユイカちゃん。何か怒らせるようなこと言ったかな?どうしよう…特に思い当たらない。怖い!
「…その割にはずいぶんにやにやとしてますね」
「うっ…そ、そのあの…ご、ごめんなさい! 星守さんがあまりにもかっこよくて可愛いから見惚れてました! 深い意味はないです!!」
頭を下げて謝る。めっちゃ早口になってしてしまった。マイナス100点。
にやにやしてたのは俺が悪いし、やっぱりマイナス200点。
でも声をかけてきてくれるなんて嬉しいなぁ。でもにやけるのは気を付けなくては。完全に不審者だ。
『本当に好きだね。さっきまでに懸念を払拭できたのに、そっちの感想よりも出てくるのが別の感想になるなんてね』
少し呆れたような物言いのアルカナの正論にぐうの音も出ない。あと好きとか言うな!ユイカちゃんに好意はバレバレだけど言葉にされると恥ずかしいんだよ!
頭を上げてユイカちゃんを見ると少し照れたようでほんのり頬を赤く染め前髪を触っている。あれは!嬉しかった時や照れた時にユイカちゃんがよくやる仕草。尊い。心臓がバクバク言ってる。もう破裂する寸前かもしれない。可愛い!!俺みたいな一般人にそんなご尊顔を見せてくれていいの!?
「あまり恥ずかしことを言わないでください…」
そういうとプイっと顔を逸らすユイカちゃん。照れ隠しの言葉を聞けて、泣きたいくらい嬉しい。と言うか少しに涙が出ている。
「はわぁ…」
『そろそろいいかな?』
「どうぞ」
もう少し余韻に浸っていたいのにアルカナときたら本当に。どうぞどうぞ。全く。
『まぁそんなにがっかりしないで。互いに戦えないと思っていた二人が英雄的な強さを誇っているんだからさ』
「それで目的を果たせるのかは別だと思いますけどね」
冷静な正論がさく裂した。流石ユイカちゃん。確かに俺たちは戦えるし、かなり強い。ユイカちゃんの動きを少しだけ見たけど間違いなく、俺と同格かそれ以上の実力者。でもだからと言って、この世界で通じるかはわからない。
『おっしゃる通り!このままだと魔王には勝てないどころか、たどり着けもしないだろうね。強くならないといけないね』
なぜか嬉しそうアルカナ。今ので喜ぶ要素なんてあったか?
「ずいぶん嬉しそうだけど、私たちが負けたらあなたの立場が危ういのでは?」
『そうだね! ここで君たちが負けたら僕は“消滅”するだろうね!』
「アルカナも消滅するんかいっ!!」
それなのになんでそんなに余裕があるの?めっちゃ笑ってるし。何、神にとって消滅とかそんなに深刻なことじゃないの?いやそんなわけないよね。
『凄く深刻だよ。生き返るとかないし、こっちの世界の秩序や平穏が崩れるし、結構大ごとになるだろうね』
「なんでそんなに余裕な感じになれるのですか? 未来が見えているんですか?」
呆れた様子でユイカちゃんが聞く。この表情も見たかったんだ!実際に見れてる!嬉しすぎる…何て可愛いんだ!若干軽蔑したような冷めた目線…くっ、神相手にもできるなんて流石ユイカちゃん。最強だ。
『いや? 僕は君たちが知っている全知全能の神とは違うから、この戦いの未来なんてわからないさ。それにさっきも言ったけど、この世界に未来と呼べるものはない。今この瞬間が未来の最先端だとね。ついでに実は黒幕でした! とかもない』
「ならなぜ?」
『君たちなら勝てると、信じているからさ!』
満足げに微笑みながらアルカナが告げたのは、まさかの『信じる』ということだった。
すごくいい笑顔だ。さも当然のように曇りも一切存在しない、純真無垢に信じ切っている。
嬉しいけど、なぜそこまで信じられるのだろうか。ユイカちゃんはわかないが俺はアルカナと会ったことはないし、何か信じられる要素があるとは思えない。でもきっとそれは人間である俺には理解できない、神にしかわからない何かなのだろう。
1つわかったのは、『神を理解しようとするのは無駄だ』ということだ。神と人間では何もかもが違う。消滅するっていうのもなんか嘘っぽいけど、気にせず進むしかないのだろう。




