第30話 確信と違和感
大地による津波の高さはざっと15メートルほど。全てを飲み込むように轟音を響かせながら凄まじい速さで向かってきている。
これもまたバルバロスの地属性魔法なのだろう。
鉄壁の防御力と圧倒的物量が猛烈な速さで迫ってくる攻撃力。常人には対処は不可能だろう。これまでの人生で戦ってきた相手の中で、ダントツに強い。元の世界で戦ったラスボスよりも遥かに。比べる事すらもできない程だ。
でも─『予想通り』の圧倒的な実力。
「なるほどね……よくわかった。俺の“感覚”は間違ってないみたいだ」
点が繋がっていく。パズルが完成に近づいていくみたいに、気持ちが最高潮に高ぶり思いっきり口角が上がった。体の底からエネルギーが湧き上がる。
「もう少し……もう少し情報を集める。見ててね、ユイカちゃん」
その言葉を発した瞬間に海神ノ玄武からいつもの影鎧へと変化させて全力で地面を蹴り、岩が降り注ぐ前方へと駆けだした。
抜け出したその先は相変わらず砕けた岩と土煙によって何も見えない。盾によって少し軽減されていた轟音が、完全なる状態で響き渡る。空気の震えが肌に纏わりつき、その衝撃で脳が揺れそう。盾をしまうと同時に時雨を生成、飛んでくる岩を水面で作り出した槍で迎撃。先ほどまでよりも太く多く早く、そして強度を上げて作り出す。それでも処理しきれない岩は切り裂いて処理。
俺に動きがあったことを察知したようでバルバロスは警戒強め、大剣を上段に構えた。その剣先、左右に動いたとしてもブレることなく俺の芯をまっすぐ捉えている。
大地の波状によって何も見えない中でも敵の位置は正確に把握しているらしい。影で見ている俺とは違ってどういう原理で把握しているのかは分からないが、位置がばれている以上は隠れながら戦うという選択肢はない。そんな選択肢は最初からないけどさ。
「正面突破あるのみだ!!」
数メートル進んだ瞬間、巨大な影に飲み込まれた。押し寄せてく波状の大地はあまりにも高く、陽の光を遮ったのだ。まるでビルのような巨大な建物が迫ってくる圧迫感と迫力。人生で初めての体験に足がすくみそうになる。空気は震えるばかりで流れが止まる。
何もせずあと数メートル進めば、1、2秒後にはその巨大な波状の大地に飲み込まれるだろう。こんなにも巨大な物が迫ってきたことがなく、目の前にすると先ほどまでの威勢は少しだけ恐怖心によって削がれた気がした。でもすぐに頭に浮かんだのは『ユイカちゃんの姿』だった。
戦いで絶望していた時、フッと目にした『エレクトロン・アカデミー』という漫画。そこに登場する『星守ユイカ』というキャラを見た時、全身に雷で撃たれたような衝撃が走った。彼女に出会えたから生きる力や生きる意味が持てた。俺にとって、彼女は心の支えであり、人生を歩み続ける意味でもあった。俺にとって想い人であり、命の恩人となった。
その推しが俺の戦いを見ている。同じ世界にいてくれている。それ何でもできる気がする。一瞬にして恐怖は消え去った。勝つよ、絶対に。
気合を入れ直して影を操り、武器の名を口にする。
「【影ノ騎槍─五月雨】」
大剣が影に溶け込み、細長い円錐形が伸び、その下が人長ほどの大きな傘状の鍔へと変わっていく。ヨーロッパで騎兵に用いられた『ランス』と呼ばれるもの。側面には翡翠色の流線模様が入っていて、薄く光っている。まるで某モンスターゲームに出てくる武器のようだ。
これは元々『影纏い』の形にはなかったけど、あったら便利そうという理由で俺が一から作り出した。影纏いの武器の名前にはなぜか『雨』に関わる言葉が入っているのでそれに倣って、『五月雨』と付けさせてもらった。ネーミングセンスは…まぁこれが限界だったね。
ランスを構えながら押し寄せてくる岩の津波に突っ込んだ。それと同時に水面で作り出した槍も同じ場所に突き立てる。
穂先が標的を捉えた瞬間、全身の骨が軋む。圧倒的物量によって経験したことの無い負荷が襲ってきて、神経や血管が切れてしまいそう。進むごとに負荷が大きくなり全身が押しつぶされまいと反発して震える。しかし前進は止めない。穂先から着実に突き刺さっていく。
影で全身を支えつつ歯を食いしばり、押し潰されそうになるのを耐えながら突き進む。
数歩進んだ時、先端から一筋の光が差し込んだ。それと同時にほんのわずかに手ごたえが軽くなる。迷わずにさらに一歩進んだ時、全身を光が包み込んだ。それが岩の津波を突き破った瞬間だった。時間にすれば僅か数秒だが、とんでもなく長く感じた。
土煙もない蒼穹のもと、陽の光が燦燦と降り注ぐ。
「やるな、影使い!! はあああぁっっっ!!!」
眼前に大剣を振りかざしたバルバロス。高ぶっている目には爛々と燃え滾る闘志の炎を宿し、嬉しそうに俺を視界に捉えている。俺もその闘気に当てられて、つい口元がにやける。
振るわれた大剣をランスで受け止めて、剣身を沿わせて穂先をずらした。そしてカウンターでランスを突き刺す。
狙い通りに胸の中央にヒット。当たった瞬間にけたたましい金属音が響き渡る。単純なパワーの差か、こちらから攻撃を当てたにも関わらず、後ろに弾き飛ばされそうになるほどの衝撃が全身を駆け巡る。その衝撃を押し返されそうになるのを耐えて、振り抜くとバルバロスが後方へと吹き飛んだ。
10メートルほど吹き飛んだがその一瞬で空中でバランスを取り、体勢を整えて着地。当たった場所から血がにじんでいるがすぐに回復。傷口は塞がり、まだまだ余裕の表情に変わりない。すぐに塞がったとはいえ完璧な手ごたえと感触による渾身の攻撃で、先ほどまで傷一つ付けられなかったのにダメージを与えることができた。これだけで御の字だ。
「よく我の場所がわかったな! それも影の力か?」
「あぁ。影を通じて全部見えるし、伝わってくる。便利だろ?」
情報量が多くてたまに頭がパンクしそうになるけどね。でもこれならいける!手ごたえを感じ、追撃するために距離を詰める。それを迎撃するためにバルバロスも剣を振るう。
至近距離で互いに攻撃を仕掛け、剣戟へ。
バルバロスの攻撃はガードを主体にしつつ受け流したりして対処。ランスを右に左に振るい自分の攻撃を仕掛ける。
大剣による攻撃はガードや受け流しでしっかり対処できているが、生物としての根本的なパワーの違いか、体の芯までしびれそうになるくらいにダメージが入ってくる。剣戟の合間に地属性魔法を挟んでくるが、これは影ノ水面で対応。
だが水面では魔法の対処が限界で攻撃には力不足。強度や威力不足のため、剣の軌道をずらす程度に留まっている。岩を破壊することはできたのにバルバロス本人には効かない。でも順調ではある。
このまま攻めていけば勝利に近づく!
しかし─わずかな違和感がよぎる。
(おかしい……なんでだ? 俺の動きは落ちていないの…)
違和感を払しょくするためにランスから使い慣れた愛剣に切り替え、剣戟に入るが違和感は変わらず。むしろ明確なものへと変わってきた。
『徐々に押されてきている』。
一度鍔迫り合いに入るも、先ほどとは何もかもが違った。一瞬でも力の入れどころをミスすれば、俺の体が壊れてしまう。骨と筋肉がきしみ、血の流れが圧力で淀む。
「ぐっ…!! ッ……どうなってやがる」
バルバロスの全ての能力が少しずつ上がっている。こちらの攻撃も入っていたのにまるで手ごたえがない。ダメージも与えられないどころか、攻撃を当てたはずなのに腕全体がしびれるほどに押し返されてしまっていた。更には攻撃スピード、切れ味に対応できなくなってきている。俺の動きは落ちていない。むしろ上がっているのに。
「どうやら、ここまでのようだな─『人類』よ」
「くっ!!」
一瞬のいなし。バランスを崩されるには十分だった。次の瞬間、大剣が振り下ろされた。
不完全ながら剣でガード態勢を取りつつ、影で体を引っ張りずらすことで無理やり回避するが完全には間に合わず。
左肩上部から縦に一直線に斬られた。




