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第28話 影が背負いし罪

 でも─。


(やるべきことは変わらない。隕石の衝撃にも耐えた玄武を着ているんだ。まずは情報を集める。慎重に……慎重に……攻める!!)


 俺の罪はこの戦いに関係ない。やるべきことをやるだけだ。


 息を1つ吐くと同時に地面を蹴る。細かな粒子を巻き上げて、風が頬を撫でる。

 重力と重量感が増して、圧が足にかかる。少しスピードは遅くなっているけども、さっきまでのトゥルーマンの動きを見ていれば、これでも十分に対処できる…たぶん。


 悠然と距離を詰める俺を、トゥルーマンはその場で剣を振り上げて、どっしりと待ち構えていた。それも余裕の表情で。不安が胸を掠める。本能が危機を知らせてきた。


 でも止まらない。


「【影ノ水面(かげのみなも)刃ノ波風(じんのなみかぜ)】」


 まずは影を先行。影の強度を強化。切れ味も耐久性もさっきまでの影とは一味違う。そして意識は、攻撃よりも防御。万全を期す。


 影が奴の間合いに入った瞬間、禍々しい剣が振りかざされた。その太刀筋は、先ほどまでとは比べ物にならないスピード。


 キンッ─接触した瞬間、鋭いクラッシュ音を残して影は一瞬にして砕けた。

 岩をも砕いた俺の影が、いとも簡単に散った。伝わってきた振動で腕がしびれ、不快な痛みが体全体に広がる。


「マジかよ…!」


 今の影の強度、元の世界では銃弾にも耐えられるし、なんならダイヤモンドよりも固いはずなんだけど、いとも簡単に破壊してくれたもんだ。しかもやつの動き自体が、明らかにさっきまでとはレベルが違う。体から一瞬血の気が引く。いやな未来が頭を掠めていく。


 だが、現実は止まってくれない。


 影を切り裂いた剣を切り替えし、その刃を俺へと向ける。


 突進し自ら距離を詰めたのに、俺の方が受け身に回された。その剣撃に合わせるように、俺も愛剣を振るう。


 剣が触れた瞬間─それは、想像を軽く超えきた。


 地面に足がめり込む程の強い衝撃が全身を駆け巡り、その直後に鼓膜が破裂しそうなほどの音が辺りに響き渡る。波紋の様な衝撃波が大地に広がり、地面が割れて土が舞う。骨や筋肉が一瞬軋んだ。


 そして鍔迫り合いになろうとした瞬間、剣を這わせるように刃が振るわれた。


 回避は─少し間に合わない。


 完全なる回避を諦めて、相打ち覚悟で剣を振るう。刹那、焼けるような痛みが上半身に襲ってきた。


「ぐぅっ!!…っ!?」


 直撃は避けられたが、腕と胸付近に剣先が掠めた。掠り傷。ダメージとしてはそう大きくない。でも、掠っただけにしては異常な痛み。まるで魂を直接傷つけられたかのような、不快で、意識が飛びそうなほどの痛さ。

 なお悪い事と言えば、俺の攻撃は直撃しているのにトゥルーマンには傷1つつかなかった。相打ちも回避も失敗。


 でもそんなことは些細なもので、何よりも深刻な事が襲ってきている。


 斬られたと同時に─【俺の罪】が頭の中に流れ込んできた。


 鮮明に。あの時の感覚のまま。


 おそらくはトゥルーマンの能力。見た光景は、想像通りのもの。


(罪…確かに罪だな)


 そう嘆いてみるけど剣戟は止まらない。恐ろしい速さで、『死』が迫りくる。

 こんなところで死ぬわけにはいかない。懸命に応戦。


 少し間違えばそこには─『死』。

 

 上回られたスピード差を、少しでも埋めるために玄武を解除。防げない以上は、ただ動きを遅くなるだけだからね。


 縦横無尽に剣が振られ、幾度となくぶつかり合う。


 トゥルーマンの剣に身体が切られるたびに、頭の中に『罪』が流れ込んでくる。振り払おうにも、強制的に映し出される光景が目障りで仕方がない。でもこれが俺の罪。


 一度鍔迫り合いに入る。先ほどとは何もかもが違った。一瞬でも力の入れどころをミスすれば、俺の体が壊れてしまう。骨と筋肉がきしみ、血の流れが圧力で淀む。体中の傷から血が滴り落ちる。


 俺の攻撃は入っているのに、ダメージはない。


 鉄壁の防御力と、圧倒的物量が猛烈な速さで迫ってくる攻撃力。常人には対処は不可能だろう。これまでの人生で戦ってきた相手の中で、ダントツに強い。元の世界で戦ったラスボスよりも遥かに。比べる事すらもできない程だ。


 絶体絶命のピンチ。


 【予想通り】の圧倒的な実力。


(俺の『感覚』は間違ってないみたい)


 点が繋がっていく。パズルが完成に近づいていくみたいに、気持ちが最高潮に高ぶり思いっきり口角が上がった。体の底からエネルギーが湧き上がる。


「ここまでだ─『人類』よ」


「くっ!!」


 一瞬のいなし。バランスを崩されるには十分だった。刹那、大剣が振り下ろされる。


 不完全ながら剣でガード態勢を取りつつ、影で体を引っ張りずらすことで無理やり回避するが完全には間に合わず。わずかにガードした剣をも巻き込みつつ、左肩上部から縦に一閃。


 先ほどよりも遥かに深い傷。斬られた瞬間、鮮血が噴出し、太陽の光に反射。


 致命傷にはギリギリならない…けど、この戦いが始まって初めてのクリーンヒット。

 焼けるように痛い。呼吸が一瞬止まるくらいに痛い。全身から汗が噴き出す。玉のような汗が額から流れ、地面へと落ちていく。気絶できたら、どれほど楽だろう。


 若干涙が出て、ぼやけた視界の端で時雨が欠けてしまっているのが見えた。元の世界ではどんな敵と戦っても欠ける事すらなかった愛剣が、斬れない物がなかった愛剣が、悲鳴を上げている。


 でも敵は待ってくれない。少し距離を取ろうとするも、トゥルーマンの剣が振られる。


 痛みなど無視して俺も剣を振るう。ここで動きを止めたら俺は…死ぬ。傷から血がしたたり落ち、影を赤く染める。でも大丈夫だ。しっかり動ける。


 無理に剣戟を続行。何度かの剣の衝突を繰り返し、受けた衝撃を利用して、後ろに数メートル吹き飛ぶようにその場から離脱。


 戦いの動きが一旦止まった。


 息をするのも苦しい。こんな強い相手と戦うのは初めてだ。世界は広いな。


 まっすぐトゥルーマンを睨みつければ、ニヤリッと満足げに笑う。余裕の表れか、それとも戦いへの渇望か。ヘルムから覗く瞳が禍々しくも爛々とした光を放たれている。



「どうだ?自分の罪の痛みは?」


「あぁ、嫌な痛みだよ。それよりも…『嫌な記憶』を見せてくれたね。魔法? 能力?」


 斬撃を受けた時に頭の中に流れ込んできた光景は─【俺がこの手で、最後の面影一族となった経緯と忌まわしい記憶】。


 『いつか語る時が来るかもしれない』と心の中で呟いていた、影の物語だ。片時も忘れたことはない。決して消えることのない、俺の罪。


「我が名は『トゥルーマン』。名の意味は『誠実』。ただ自分の罪と誠実に向き合わせるために見せたまでだ。そしてこれは魔法ではない。【アンフェイスフル】─我のみが持つ異能だ。我は罪を見ることができる。そしてその重さよって強さを増す。肉体だけではない。この大剣【ダーインスレイヴ】の切れ味も増す。尚、罪の重さを決めるのは我だ」


「ケッ…あんた基準とは随分と理不尽じゃねぇか。でもまぁ…どの世界でもこれは重罪になるかな」


「当然だ─【同族殺し】」



 俺の罪は─【家族を、人を殺めた】。


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