第28話 この世界の魔法に触れる
遥か上空から落ちてきているために大きさはいまいちわからないが、このフィールド内には収まっているし壁とも距離がある。フィールド全体を覆いつくすような巨大さでなくて助かった。ただ…着実にこの地面へと落ちてきているわけだけどね。徐々に、そして着実にメテオストライクが迫ってくる。重低音も比例して大きくなってくる。
というか、あんなものが落ちてくれば発動者も無事では済まないだろう。
しかし、発動した瞬間のバルバロスの楽し気な表情を見るにおそらく全く問題ないのだろう。視線を戻せば、手を掲げながら相変わらず楽し気な表情でメテオストライクを見ている。こちらに向かってこれ以外の攻撃を仕掛けてくることはなさそうだ。
なら─防御に全力を傾ける。
この隙にユイカちゃんの方もチラリ。隕石ではなく俺の方を見ていたため目が合った。ライトグリーンの瞳にはわずかな不安の色さえも浮かんでいない。じっとこちらを見て、少し微笑んでくれている。かわいい!
俺を…信じてくれている。そう心から思えた。
『夢叶君─信じています』
そうユイカちゃんの声ではっきりと聞こえた。
これだけの距離があるのだ。普通なら聞こえるはずはない。幻聴か、妄想だろうけど、どうでもいい。俺は、信じてくれているユイカちゃんの期待に応えたい!心臓が大きく鼓動を放つ。力が漲ってくる。体の奥底からエネルギーが、活気が止めどなくあふれ出てくる。今ならなんだってできる。
(見ててね、ユイカちゃん──俺なら大丈夫)
小さく頷いて見せた後に、惜しみつつメテオストライクへと視線を戻す。少し目を離しただけでもその距離は格段に近づいてきていた。見た感じ、落下地点は先ほど俺が立っていた場所。追尾機能はない。影纏いで身体能力が上がっているおかげで、ほんの数秒しかなかったが何とか直撃は免れる位置まで移動できた。
おそらくフィールドのどこにいても隕石衝突の被害を受けることになるし、この程度の距離ならば直撃以外、ダメージはそう変わらない。あとは自分の防御力を上げて待つのみ。
出現させた盾を体に纏う。影纏いの真の力を示す。
「【影鎧─海神ノ玄武】」
纏った影が形を変える。
その瞬間、メテオストライクが地面に衝突。刹那の静寂。そして、音を置き去りにして衝撃波が一瞬にしてフィールド全体を襲った。体の下からめくりあげられるような激しい衝撃が、俺を飲み込んだ。あまりの速さに衝撃波に飲み込まれたと気づくのに、少しかかった。
視界が土煙に覆われてほとんど何も見えない。かすかに見える視界も吹き飛ばされ縦横無尽に転がり、方向感覚がなくなる。尋常じゃないくらいに気持ち悪い。三半規管が悲鳴を上げてる。その間にも礫が体中にぶつかり、衝撃の波で地面に叩きつけられる。微かに見えている視界と影を頼りに、無理やり受け身を取って体に掛かる圧力を分散して体勢を立て直そうと試みるけど、あまり意味はなし。
視界の隅、土煙の切れ間から光の壁がちらりと見えた。【絶対否定の闘技場】の端。もうすぐフィールドの端の壁にぶつかる─そう意識が向いた瞬間、背中から全身へと広がる衝撃が突き抜けた。メテオストライクが落下してから数秒にも満たない内に、とんでもない速さでフィールドの端である光の壁に吹き飛ばされた。転げ回されたことで全身が痛い。圧迫されるような苦しい痛みと、麻痺するような不快な感覚が広がっていく。
衝撃波が収まるが舞い上がった土煙に辺りが覆われる。収まっていた風が再び吹き付け始めて、土煙が徐々に消え去り太陽の光が差し込む。少しずつ視界がクリアになっていく。
「いたたたた……全く酷い目にあったなぁ。クラクラするし少し酔ったかも」
ゆっくりと体を起こす。流石にこれほどの衝撃で転げ回されるのは初めてで、受け身もろくに取ることができなかった。節々が痛い。全身の筋肉が張っている感じがする。肩を回したり、首をもんだりして感覚を確かめるように少しずつ動かす。少し頭がくらくらするけど特に怪我はなさそう。骨も神経も異常はない。ただただ痛い。そして少し気分が悪い。乗り物酔いしたような感覚。耐えられるけど、もうこの技は食らいたくない。
「大丈夫ですか?」
びくっとして後ろを振り向くと、光の壁を隔てた先にユイカちゃんが立っていた。しゃがんできて少し心配そうに俺の全身をくまなく見ている。心配して駆け寄ってきてくれたらしい。距離はいつもと同じくらいだけど、急に結構近くにユイカちゃんがいて心臓がドキドキしっぱなしだ。
「大丈夫です!! 痛くないです!」
心配をかけないためにサッと立ち上がって見せる。痛かったけど、ユイカちゃんを見たら痛みがものすごい勢いで収まってきたような気がする。
「いや『いたたたた…』って言ってるのは聞こえていましたし、肩とか首をもんでましたよね? 心配をかけたくないのはわかりますが、無理があります」
「うっ…」
普通に見られてたし、聞かれていた。咄嗟に誤魔化そうとしてけど、ぐうの音も出ない。
「で、でも大丈夫だよ! 見ての通り怪我はないよ!」
「そうは言っても影を纏っているので中が見えていないんですがね。それと見た目に関してですが……鎧が変わってますね」
そう。ユイカちゃんの言っていた通り、纏っている影の鎧はいつものとは違う。
発動した【影鎧─海神ノ玄武】によるものだ。
その名の通り玄武をモチーフにして作り出された鎧。肩や肘部分の鎧は亀の甲羅のような形状をしていて、正六角形の幾何学模様が浮かび上がっている。胴体の装甲も甲羅を重ねたような形になっていて六角の切れ目が入っている。背中には幾何学模様の楕円形の盾が付けられていて、完全に亀みたい。
「うん! 影纏いの鎧の一つで【影鎧─海神ノ玄武】っていうんだ! 防御に特化した鎧なんだよ! だからさっきの隕石もほぼ無傷だったんだ。影纏いの秘儀の一つなんだけど、結構重量があるから少しスピードが落ちるのが欠点だね」
「成程。影にも重さがあるんですね。興味深い。それにしても甲羅といい、全身の幾何学模様といい、確かに見た目の通り玄武ですね。似合っていますよ。良い感じです」
「本当!? よかったぁ、そう言ってもらえて嬉しいよ~!」
褒められて嬉しいけど、照れて顔が熱くなる。痛みなんて消えたわ。
興味津々のようで全身をくまなく見ていくユイカちゃん。背中の盾をよく見せてあげると更に目を輝かせてくれた。好奇心旺盛でかわいい!
「興味深いですね…知りたいことは沢山ありますが今はまだ戦いの最中。どうぞ気にせずに思う存分力を振るってください」
「うん! いってきます!」
何よりも心強い激励を背に、戦場へと意識を戻す。
土煙が晴れてその奥から無傷のバルバロスが姿を現した。バルバロスの周り、正確には魔法陣が描かれていた範囲内だけ何事もなく変化していない。どうやら発動して時に出現する魔法陣はシールドみたいな効果があるらしい。発動中は邪魔されないという事か。どれほどの耐久性があるかはわからない。光の壁と同じように不壊なのか、耐久性があるのか。少なくとも今の衝撃には耐えられるだけの強固さがある。魔法は奥が深いな。
周囲を確認すると、メテオストライクの衝突による甚大な影響が飛び込んできた。落下場所を中心にクレーターができ、フィールドは大きなくぼみへと変化していた。ごつごつとした岩肌はまばらになり、落下した中心部分は熱を帯びていているようでマグマのように赤く光を放っていて、中間付近は炎が散乱し揺れ動いている。土が焼け、焦げ臭さが漂い、端である今の位置でもほんの少しだけ熱を感じる。流石隕石。桁違いの被害。
メテオストライクを耐えて立っている俺を確認したバルバロスは、感心しているようで拍手を送っていた。そしてまた一段と闘志が強まっている。俺もこれだけの攻撃を仕掛けてきたバルバロスには敬意を表したい。
「今度は俺の番だ……!」
拳を固く握りしめ、気合を入れる。スピードを維持するために通常の影鎧に戻し、息を大きく吸い、姿勢を低くし地面を蹴る。細かな粒子を巻き上げて、風が頬を撫でる。




