第24話 世界のルールに触れる時
ユイカちゃんへと駆け寄っていき、合流。
純白の戦闘着には汚れや破損は一切なく、息は全く上がっていない。敵への警戒は怠らず、銃と大剣を構えている。チラッとだけ俺を確認した後にすぐに敵に視線を向け、眉間にしわを寄せて強く睨みつけた。
「お疲れユイカちゃん! あれが円卓の騎士かな?」
「そうでしょうね。見るからに、雑兵とは桁が違いますね。左にいる方は違うようですが、さっきのレーザー攻撃は中々の威力でした」
敵ながら素直に称えるけど、俺もその気持ちは同じだ。魔法陣への攻撃は盾越しに衝撃がかすった程度だけど、どのくらいの威力は理解できた。本当にあっぱれだ。
俺達の視線なんてどこ吹く風で不敵な笑みを浮かべつつ、ゆっくりとこちらに歩みを進めてきている。レーザー光線を撃った方からは殺気は感じるが、円卓の騎士らしき方からはそういう鋭い気配は何も感じない。
まるでお風呂にでも入るに行くような肩の力を抜いて、リラックスしているような感じ。その雰囲気が逆にプレッシャーになる。
警戒しつつも距離を縮め、15メートルほど離れたところで互いに歩みを止めた。
「やぁやぁパラディン諸君。ずいぶんと派手にやってくれたものだな」
円卓の騎士らしき方が気さくに話しかけてきた。
身長は戦った兵士と変わらない3メートルほどだが、ナチュラルに醸し出された威圧感か、余裕の雰囲気からなのかこちらの方が大きく見える。口角は上がり不気味な笑みを浮かべ、深紅の瞳で俺たちを見下ろしてきている。少し離れているのにもかかわらず圧迫感がひしひしと肌にまで伝わってきた。
「派手にしたのはあなたの隣にいる方では? レーザーのせいで綺麗な自然が台無しです」
「そんなに悲観する事ではない。形あるものはいずれ壊れ、消え去る。ただそれが早まっただけだ。ルシファー様や我々は─『例外』だがね。特にお前らのような若い人間は、弱いからより壊れるのが早い。にもかかわらず我らの兵は見るに堪えない結果となったのは、お前らが少し例外側だったからだろうな」
「そうかもしれませんね。まぁ……逃げた兵士を塵も残さず無に帰して、見る事すらできなくしたのはそちらですがね」
「いくら強者を前にしても、背中を見せてまで逃げるような貧弱な兵はディアボロには必要ない。それには例外などない」
「それについては肯定も否定もしないよ。悪の美学?的なものはわからないからね」
実際は、逃げられるなら逃げた方がいいとは思うけどね。後々チャンスが生まれる可能性があるわけだし。無様だろうと生きていれば、どんなことでもチャンスは生まれるわけだからね。現に俺は逃げまくって生き延びて、ユイカちゃんの隣に立っているわけだし。
俺の言葉にニヤリと笑みを浮かべた後、手の平を上に向ける。すると空に向かって朱色と紫が入り交じった不気味な光の柱が舞い上がった。
「なにが悪で、なにが善かはそれぞれの視点によって変わる。魔王ルシファー様に歯向かう人類やパラディン、ひいては他種も含め……我々からすればそちらが『悪』だがね」
「確かにそうだね。これは──『正義』VS『正義』だ」
正義は視点によって異なるっていうのは、よくある話だ。
だからこそ譲れない思いがある。
不覚ながら、敵の言葉で一層気合いが入ったよ。
先ほどまでの少しだけ緩んでいた空気が一気に重苦しいものとなった。何もしていないのにプレッシャーによって大気が揺れ、つむじ風が巻き起こった。
「蒼穹をも揺るがす聖なる光……これこそが、ディアブロにおける【スペリオル】の証。我が名は【バルバロス】。栄光なる【円卓の騎士─Ⅶ席に座する者】。さぁ……殺し合いをしよう」
そう宣言すると同時に周囲の景色が一変。澄み渡る蒼穹は薄暗くなり、帯状の緑や紫が混ざったようなオーロラ色の光りが埋め尽くしていく。そして俺達とバルバロスを中心に光が円状に広がり、おおよそ100メートルくらいの位置で止まり、天へと伸びる光の壁を作り出した。光の壁は半透明なため外の様子がわかるようになっている。
「これは……?」
「どうやら、この世界のルールに触れることになるそうですね」
好奇心旺盛なユイカちゃんはこの場面で表情を緩ませ、ライトグリーンの瞳をこれでもかというくらいに輝かせて、まじまじと辺りを見渡した。その様子が可愛くてめっちゃ癒されるし、緊張感が解れて俺の表情も一気に緩んでしまう。
フッと前に目を向けるとバルバロスの隣にいた奴がいなくなっていた。見渡すとフィールドの外にいた。いつの間に!
「なに、驚くことではない。あいつは【スペリオル】ではないからな。【絶対否定の闘技場】から外へとテレポートされただけの事。その様子だと……【リミテッド・トリニティ】はこれが初めてのようだな」
「おっしゃる通り。色々あって名前しか知らない」
「人間界では【リミテッド・トリニティ】に対する教育が遅れているのだな。哀れで嘆かわしい事だ」
そうバルバロスが肩をすくめるけど、俺だってすくめたいよ。こういうルールって普通は味方サイドから聞くんじゃないの。
そう思っていると俺たちの目の前の4、5メートルほどの光輝く石板のような物体が3つ出現。左は剣と盾が重なり合っているような紋章が浮かび上がっていて、下の方に綴り字で『SOLO』と書かれている。真ん中は左右から手が出て握手をしている紋章に、下には同じくつづり字で『DUO』と。そして右は×らしき紋章が浮かび上がり、下にはまるで血文字のような不気味な筆記体で『UNLIMITED』。
「簡潔に教えておこう。何も知らずにあの世に逝ったのでは報われまい」
「ありがとうございます」
明らかに俺達の事を下に見ている、舐め切っている口調ではあるが、教えてくれるには素直に嬉しいからお礼だけは言っておくことにした。
「雑兵達を葬った者へのほんのわずかな慈悲だ。素晴らしい虐殺劇であったぞ」
なんて嬉しくない褒め言葉だ。人生で褒められたことは何度もあるけど、こんなにも言われて嬉しくないことはなかった。




