第18話 帽子と強行策
街を探索という名の観光する中で、あることに気付く。
「あ、暑い…」
シンプルに気温が高く、日差しが強くなっていて暑い。雲一つない晴天の空のもと、汗が額や頬から垂れて地面に吸い込まれる。水分を取っても、すぐに抜けていく真夏のような陽気具合。
元の世界でもここ数年は猛暑、酷暑の連続で『秋が消えた』だの、『温暖化』だのニュースになっていたが、今のガイアカグラもその時の夏と同じくらい暑い。今の季節は夏か?元の世界は冬真っ只中の2月だったのに…。あの気温が少し恋しい。
「暑いね、ユイカさん。大丈夫?」
「平気です」
心配してチラッとユイカちゃんを見ると、一滴の汗が頬から落ちていっていた。そして何食わぬ顔でハンカチを取り出し、汗を拭いている。しかもその頬は、リンゴの様に赤くなっていてどう見ても言葉ほどの余裕はない。
「平気です!!」
「平気そうじゃないよー! 無理はダメだよ! 日陰に行こうよー!」
どう見ても強がっている。彼女らしく可愛いらしいが、これは良くない。顔全体が少し赤くなっていて、健康的な肌色が汗で光を反射。色っぽい。この状況にドキドキしないわけがないが、早急に対策しなくてはいけない。
「帽子買いに行こうよ! この暑さに当たり続けたらタフなユイカさんでも倒れちゃうから! 行こう!!」
「そうしましょう」
思いが伝わったのか、それとも慌てふためいる俺に同情したのか、素直に行ってくれるみたい。2人で、買っておいた冷たいジュースを飲み干して足早に歩き出した。
メイン通りから少し外れた道に片隅にレトロな雰囲気を醸し出した帽子屋を発見。物静かな老夫婦が営んでいて、にこやかに迎え入れてくれた。
木製のそれほど大きくない店に、晴天の太陽から照らされた日光が差し込み、店全体を優しく包み込んでいる。店内にはレコードからジャズみたいな音楽が流れ、和やかな雰囲気になっている。音楽に対して疎いのでこれがジャズなのかはわからないが。
帽子の種類は様々あって、視線を少しずらせば全く種類の違う物が目に入る。
「いっぱいあるね!」
「そうですね。ファッションには疎いもので、こういう所に来るのは久しいです」
興味津々といった様子で目を輝かせている。しかし、こういう場には慣れていないようで、帽子を割れ物のように慎重に触れている。その姿がまた可愛らしい。
ある帽子を手に取ろうとして時、寸前でその手を止めて目を閉じ、首を軽く振った。そして別の帽子へと向かう。
手に取るのをやめたのは、薄い水色で少しフリフリがついている可愛らしい感じの帽子。名札にはフロッピーハットと書かれている。この帽子の種類だろう。
そのあともチラチラっとその帽子を名残惜しそうに見ていた。
もしかして。
「ねぇねぇ、これとかどう?」
気になる事があったので、取るのをやめたフロッピーハットを勧めてみた。
一瞬、目を見開いて驚いた表情をして後に、プイっと目線をそらした。
「私には可愛すぎて合いません! 素晴らしいものですが却下です」
やっぱり。
自分の事を可愛い系は合わないと思っていないから、欲しいものに対して自分から距離を置いている。
「よく似合うと思うよ」
「試着もしてないのにわかるんですか?」
「うん! わかるよ! 想像力が豊かだから頭の中で思い浮かべられるんだ!」
想像力の高さを堂々と言うのはいかがなものかと思うし、引かれないことを祈ろう。
少し前髪を触り、視線をそらしているユイカちゃん。この様子なら多分引かれてはいない。
「想像にも間違いはあります…」
やはり自信がない様子。ならば奥の手。もとい強行策といこう。
「じゃあ…そこでちょっと目閉じて。決して変なことはしません! 誓います!」
「夢叶君はそういうことはしないとわかっていますので、その点は何も心配していません」
「ゆ、ユイカさん…!」
信頼度の高さに嬉しくて感動した。ユイカちゃんから信頼されているなんて嬉しくて泣きそう。というか少しウルッときて涙目になっている。自信満々な表情で言い切る姿もかっこいい!一生ついていきたい。
「日ごろの行いのおかげです」
『日ごろの行いか』、か。何かした記憶はやっぱりないんだけど信頼度が高くて嬉しい。
「そういうわけなので…夢叶君の言う通りにしましょう」
目を閉じ、ビシッと背筋を伸ばして気を付けの態勢で待つ。目を閉じてバランスをとるのは難しいのに全くぶれないし、見惚れてしまいたいくらい姿勢が綺麗。流石だ。気配に敏感なユカコちゃんを凝視するのはよくないからチラッとだけ見て、作業に取り掛かる。
真正面からユイカちゃんを見る機会がなかったから改めて思うけど、まつ毛が長いし綺麗。眉毛も整っていて綺麗。口も鼻も頬も、ちらっと見えるおでこも全部綺麗。一瞬しか見てないけどいつまでも目に浮かぶ。
一緒にいると胸の高鳴りが収ますことはない。




