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第17話 推しを笑顔にできるスイーツ

 賑わいのあるアルビオンの中心街。

 綺麗な街路樹が等間隔に植えられていて、市松模様のように配置された石畳とマッチしている。お店や宿がたくさんあるし、道の両サイドには料理やアクセサリーなどの露店がにぎわっていてお祭りにいるような気分になる。露店ってなんか特別感があってテンション上がるよね。

 

 でもそんな事よりも、ユイカちゃんと一緒という事に胸の高鳴りが轟渡っている。異世界という部分はそれに比べたらもう些細なことだ。

 そんなユイカちゃんは、様々な露店をじっくり観察しては目を輝かせている。


「あぁ……おいしそう……」


 様々な食べ物を見て心の声が漏れていた。おそらくは無意識。何て可愛いんだ!晴天の空のもと、異世界の街をユイカちゃんと一緒にお出かけしているなんて、昨日の自分に言っても到底信じてもらえないだろう。特に『ユイカちゃんと一緒』の部分が。


 『ユイカちゃんに会える』と『異世界に召喚される』だったら、後者の方が信じられたと思う。昨日の俺よ、次の日は最高だぞ。でも心臓に負荷がかかりまくるから覚悟しろよ。


「……」


 ある露店の前で歩くスピードが露骨に落ちた。


 程よい甘い匂いを漂わせ、綺麗に飾り付けされたクレープ屋さんだ。


 露店の形態は祭りなんかで見るのとほぼ一緒。ただこの世界には電気という概念はないっぽい。機材を見ると、クレープ焼き器の見た目は祭りとかで見る業務用クレープ焼き器ではあるんだけどケーブルやコンセント、発電機などの類は見当たらず代わりに小さな魔法陣が刻まれていた。店主が握ると魔法陣が赤く光り、そしてクレープ生地が焼かれ始め、美味しそうな甘い匂いが風に乗って流れてきて空腹感を刺激してくる。


 魔法陣には世界樹からのマナを直接流し込んでる、とか言ってたし『マナ』は魔法のエネルギーだけではなく、電気の代わりにもなっているのかもしれない。

 ファンタジーとかでは『自然界に存在する、魔法を使うためのエネルギー』と設定されていることが多いが、おそらくこのアークでもそうなん感じではなかろうか。


 でも今はそんなことよりも、でキラキラした可愛らしい視線が大事だ。


 星守ユイカは甘いものが大好物だ。自分のキャラではないと、甘い物好きがみんなにばれるのが恥ずかしいと思っていて、自分の部屋でしか食べないし、買うことも誰かの目につかないようにこっそりと買う。何て可愛いんだ。しかしこんな感じでわかりやすいので、みんなには普通にばれていたのはご愛敬。


「ねぇユイカさん」


「……なんですか」


「少し小腹がすかない? ここのクレープ食べようよぉー!」


「仕方がありませんね。そこまで言うのなら!」


 乗り気じゃなさそうなセリフとは裏腹に、早口の即答で答えるとぱっと表情が明るくなって、サッとクレープ屋さんに並んだ。獲物を見るような目でメニュー表とにらめっこを開始。行動が早いし分かりやすい。そりゃみんなにばれるよ。でもそこが魅力的。


 異世界で初めて口にする食べ物はクレープで決まり。推しをこんなにも笑顔にできる食べ物は偉い。俺は今日からクレープ派になる。そもそも派閥とかあるのかな?


 綺麗に焼かれた生地にカットされたバナナ、適量のホイップクリーム、チョコソースをかけて、お菓子を刺して完成というシンプルなもの。その姿は元の世界と変わりのない。チョコもあり、バナナもあり、生クリームもある…食品はあまり変わらないのかもしれない。助かる。サービスで紙コップに紅茶を貰えた。


 キラキラした眼差しでクレープを受け取るユイカちゃんを見て、こっちも幸せな気持ちになった。今日は世界が一段と輝いて見える。


 手招きして近くのベンチまでそろりと誘導。ベンチにハンカチを敷いて…完璧。映画で見たけど、こうするのがいいらしい。詳しくは知らないけど。


 キョトンとしながら俺を見るユイカちゃん。なんかまずい事でもしたかな?やはり映画で見ただけの知識を披露するのはよくなかったのかな?ちょっと不安になるんだけど。


 だが、その不安は微笑みによって消えることになる。


「ハンカチを敷いてくれた人は初めてで、嬉しいです。ありがとうございます」


 よかった…。にわか知識だけど間違ってなかったようだ。


「夢叶君がこういう紳士的なことをするのは意外でした」


「ハンカチを敷いたのなんて人生で初めてだよ」


「じゃあ、お互いに人生初ですね。では早速いただきましょう」


「うん! いただきま~す!」


 楽しみなのがこちらにも伝わってくるくらい、そわそわしている。


 近づけて匂いを楽しんだ後にそっとクレープを口に入れ、唇についた生クリームを舐める。ほんの一瞬の色っぽい仕草に鼓動が早まる。なんて美しいアングル!写真に収めたい。その写真は一生の宝物に…いやそれだけでは足りない。家の家宝にする!一生の宝物にするんだ。それまではできる限り全ての瞬間を脳裏に焼き付けるんだ。


「美味しい」


 美味しそうにクレープを食べる姿を見れただけで、幸せな気持ちで心がいっぱいになっていく。なんて幸せな空間なのだろう。

 

 浮かれ気分で俺もクレープを口に運ぶ。生クリームとバナナの甘さがマッチして美味しい。良い匂いが鼻を抜けていき、呼吸をしているだけで心が満たされる。生地も程よくモチモチしているし、もしかしたら今まで食べたクレープの中でも1番美味しいかもしれない。推しの隣で食べるクレープ…一生の思い出として胸に刻もう。



「夢叶君のあんな姿、始めて見ました」


「え?」


 クレープを食べ終わり、紅茶を飲んでいたユイカちゃんから突然口を開いた。『あんな姿』とはいったい…何か特別な事をした覚えはない。小首をかしげてみると。


「ベネットさんやシュヴァリエさんに決意表明をしたことです。勇ましかったですよ」


「本当!? えへへ、うれしいよ!」


 これまでの人生で褒められたことは何度かあるけど、ユイカちゃんから褒められたのがダントツに嬉しい。つい照れくさくて頬を掻いた。ありもしない翼が生えたように、この大空を飛び回れるのではないかと錯覚するくらい体が軽く感じる。


「勇ましいだけで、そんなに喜んでもらえるなんて思ってませんでした」


「ユイカちゃんに褒められたらそりゃ嬉しいよ! 人生で一番だよ!」


「まるで子供みたいですね。でも、そういう所もいいと思いますよ」


 このユイカちゃんの言葉に何度ドキドキさせられるのだろう。心臓が跳ね上がるのを感じながらそんなことを一瞬考えた。きっとアークにいる間はずっとこんな感じだろう。


「ユイカちゃんにはドキドキさせられっぱなしだよ」


「それはあなたが私の事を…だからじゃありませんか?」


「…~っ…はわぁぁ…」


 耳を赤く染め、少し恥ずかしそうにそれでいてどこか楽しそうに肝心な部分はぼかす。


 『好き』─数十分前に自分で宣言したばかりだから、当然言わなかった部分はわかる。言われていたら恥ずかしさで固まっていたかもしれない。今ですらその単語を浮かべただけでドキドキするんだから、口に出してしまえば…想像しただけでまた鼓動が加速する。


 一度出した言葉だけど、またその言葉を口に出すのはまだ先になるだろう。というかユイカちゃん、意外と踏み込んだ発言をしてくるよね。攻めてくるよね。自分で恥ずかしそうにしながらも果敢に攻めてきて、どっちにもダメージを与える。素直というか真面目で可愛い。そういう所もまた、彼女の魅力の1つだ。


「で、では! そろそろ行きましょう! やらなくてはいけないことは沢山ありますから」


 スッと立ち上がり紙コップをごみ箱に捨て少し早口で提案してくれた。これ以上ダメージを負わないように露骨に話題をそらしたのがまるわかり。でもこれ以上は心臓が持ちそうにないので助かった。


「そうだね! 行こう!」


「ハンカチは後で洗って返しますね」

 と、言ってサッとハンカチを回収するユイカちゃん。


「え? そんな─」


「ではいきますよ」


 有無を言わせないとはこのことよ。ちょっとの事も真面目で全力で返してくれる。こういうさりげない所で優しさを出すのもまた良い!!


 颯爽と歩いていく後ろ姿に追いつきながらそんなことを思った。


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