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第15話 壊れかけの歪な平和

「あらあら、お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたわ。お楽しみはまた後でという事で……フフ。では本題に入りましょう。皆さんをここにお呼び立てしたのは、ガイアカグラの方針をお伝えするためです。知っているかとは思いますが、念のために」


「私たち2人は異世界から来た者です。なので、この世界の常識を知りません。何を言われても傷つきませんし、何なら様々な事を教えてくれると助かります」


「異世界?!」

「別の世界からの来訪者がパラディン!?」

「何が起きている!異世界が存在しているなどあり得ない!!」


 『異世界から』と言った瞬間、周囲の人間が一気にざわめいた。部屋中にざわめきが反響する。ベネットさんの時とは全然違う反応だ。めっちゃ驚いてるじゃん!しかし、シュヴァリエさんだけは変わらない。


「ほぅ…異世界から? そうでしたか」


 これはベネットさんと同じ反応だ。あっさりと受け入れた。反応は人によりけりなんだな。『このくらいいでは驚かない』と言わんばかり。それだけ様々な事を乗り越えてきたという事かもしれないけど、異世界から召喚された者として少し物足りない反応だ。


「では遠慮なく。薄々は感じているかもしれませんが、私たちユグドの民はパラディンに対して希望を持っていない。ガイアカグラだけではなくユグド全体として民も、王室も」

 こうもはっきりと直接言い切られると少しショックだ。わかりきっていたことだけども。


「魔法陣でパラディンだと知られた時、多少の驚きはあれど期待の眼差しを向けてくる人はいなかったのではないでしょうか?」


「……おっしゃる通り、だね」


 期待や希望などのポジティブな感情はない。世界を蹂躙し人類の脅威となっている魔王ルシファーに対して勇ましく立ち向かう者は勇者、英雄、革命児なんて呼ばれる存在になってもおかしくない。というか多くの物語ではそうだ。しかし称賛される反面、全ての人から夢を託され、押しつぶされそうな期待と希望という目には見えない重圧を背負い続けなくてはいけない。大いなる力には責任が伴う。当然なことだが、俺たち以外の全てのパラディンはその期待に沿えずに終わった。その結果が今の期待値というわけだ。


「異世界からとおっしゃいましたが、どの程度の話をご存じですか? この世界の現状を」


「魔王の侵攻が始まって300年。パラディンが魔王を倒せずに散り、事態は一切好転せず、他種族からも狙われて、結界魔法の中でひっそり生きながら疲弊してきている……です」


「概ねその通り。今は結界魔法の中でひっそりと暮らしていますが、世界樹からのマナも年々少なくなってきていて、ユグド国の端に位置するガイアカグラの結界はその影響で弱まってきています。あなた方の世界ではどうかは知りませんが、そのようないつ壊れてもおかしくない歪な平和の中にいれば、人は真の意味で希望を抱かないものです。わたくしはこの世に生を受けて16年しか経っていませんが、その気持ちを日々肌で感じています」


 もとの世界には似た環境はあった。


 俺からはすごく遠い場所だったから、体験したことはないけども想像はできる。自分の生き方を見つめ直す程度には、その境遇は察するに余りある。胸の中がギュッと締め付けられる思いだ。


「どういう経緯であなた方はパラディンに?」


「初めて知った上位存在に連れてこられた。魔王を倒さなければ元いた世界が消滅する…ってね。説明不足か何なのか、ベネットさんに話を聞くまでは自分たちがパラディンであることすらも知らなかったよ」


 アルカナであることは伏せておこう。さっきの門番さんの反応しかり、今の周囲の反応しかり、言ったら面倒なことになるのは目に見えている。


「なら、犠牲をいくら払ってでも魔王さえ倒せればいいとお考えで?」


「…フフ! 同じようなことを聞くんですね!」


「よかったですね、ベネットさん。同じような考えでしたよ。意気投合です」


「べ、べつにそんなじゃねぇ! たまたまだろ! 別に嬉しくなんかない!」


 シュヴァリエさんの鋭い問いがついさっきのベネットさんとあまりにも似ていたので、デジャブを感じて笑ってしまった。シリアスな雰囲気だったけど、耐えきれなかった。俺も耐えきれなかったけど、すかさずベネットさんに声をかけるユイカちゃんも耐えきれなかったようだ。俺たちの反応を見て、シュヴァリエさんや周囲の人もぽかんとしてしまった。


「すみません。さっき同じことを言ったら、同じようなこと聞かれたのでデジャブを感じて」


「なるほど。その様子ですとメリッサさんと同じ意見だったようですね。フフフ、これはもしや以心伝心というやつですか。わたくし達、気が合いそうですね」


 またも恍惚な表情でベネットさんを見つめる。めっちゃ嬉しそう。直前まで少しあったシリアスな雰囲気が完全に消えた。というか今のところ、シリアスな雰囲気の方が少ないような気さえしてきた。


「それは、その…そんなことは…たまたまだ! 別に嬉しくもなんとも…フンッ!」


 言われたベネットさんは完全にもじもじしてるし顔赤いし。これはもう確定でしょ!でもこのままだと話が進まなそうだから、この2人のことは後にしてもらおう。


「さっきの答えですけど……俺は面倒なお人よしなんですよ。自分の夢だけ叶えるために他を犠牲にとか考えられないし、ほうっておきますってできないんですよね。ただ聖人君主でも英雄でもないから、できること以上のことはしないし、勝手に自己満足のためだけに行動するだけ。救ってほしいとか、救ってほしくないとか関係なしにやるだけのことはする。そしてあとは前に行くも、後ろに行くもご自由に好きにしてくれって感じです。全人類を救いたいとか英雄みたいなことは思ってない。ただ、視界に入った人間は救いたい、それだけさ。俺たちと出会ったからには、勝手に救わせてもらいます。ついでに、これを言うのも2度目です」


「……」


 言い終わると空気が少し変わり、同時に視線がぶつかり合った。俺たちを見定めているかのようで敵意はないが力強く鋭くもあり、一切の揺るぎのない真っ直ぐな視線だ。自然の背筋が伸びるかのような重さが体に纏わりつく。これが上に立つ人の責任と重圧か。


「その言葉に嘘偽りはない?」


「ないです」


「……自分勝手なお人よしね」


「おぉーそこまで一緒なんですね」


「そこも一緒なんですか! ヨシッ……!」


 心底嬉しそうだ。シリアスな雰囲気というのは長続きしない。そういう雰囲気が苦手だからいいのだけどね。ベネットさんに感謝しないと。でもとりあえず覚悟は見てもらえた。


「いい出会いがあったことに感謝して、異世界から来たあなた方が知らない昔話と現状をお教えしましょう。魔王は今、『最果て』という場所に【封印されています】」


「えっ? 封印されてるの?! じゃあ大丈夫じゃないの? なんでこんなことに?」


「様々な種族で協力し【七つの聖剣】の力を使い、『最果て』と呼ばれる場所に結界を張り、その中にルシファーを封じ込めた。結界は強力なものですが、効果を最大限発揮するために対象を『魔王ルシファー』のみに限定しました。その封印を解こうとする魔王が生み出した『ディアブロ』という存在から侵攻が始まり、抵抗して300年経った……というのが世界の現状」


 知らなかった情報が一気に増えたぞ。


 『魔王ルシファーは聖剣の力によって最果てに封じ込められている』。

 『封じ込めるための聖剣が7つある』。

 『ディアブロはルシファーが生み出し、ルシファーを開放するために人類へ侵略行動をしている』。

 『他種族とは封印時に協力関係にあった』。

 

 いいね。実にファンタジーチックな世界観にワクワクしてきたよ。


「アルカナが施したと言い伝えられている古の魔法陣によって、多くの主要都市は守られ続けています。しかし、世界樹から流れるマナの量は減少の一途。その影響で魔法陣も弱まってきている。今の見せかけだけの平穏も、限界が近い…というのが人類の現状です」


「なるほど、ありがとうございます。魔王ルシファーが封じられている【最果て】とは、どこにあるのですか?」


「私にはわからないどころか、おそらく人類でそれを知ってる人はいない。魔王についての書物はほとんど残されていない上に、すぐにディアブロの侵攻があり、頻繁に情報が入ってくる環境ではなかったの。知るには外の世界に行かないとね。でも……人類の領地から出る許可は現状では出ないでしょうね」


「実績がないからね。なら作ります。何か敵の情報を教えてください」


「パラディンよ、それ以上の詮索はガイアカグラにも危険が及びかねない。王都に行って王室から直々に依頼を受けてほしい。シュヴァリエ様も、少々しゃべりすぎでは?」


 ひげを蓄えた貴族っぽい男性から厳しい言葉が飛んできた。

 厳しい言葉だけど気持ちはわかる。信頼されていないのだから、別の場所に行ってやってくれという事だ。

 その意見に賛同するように周囲の人間が頷く。蔑むような視線。


 これじゃまるで前科者みたいだ。


「ベイリーさん、そんなことを言っている余裕はないと思うけど? ガイアカグラ周辺にディアブロの発見報告が多数。…魔法陣の隠匿魔法が切れかかっているんじゃない?」


「なっ!?」


 その言葉に部屋の中のざわめきが、音の波となって押し寄せてきた。決して大きくない声なのに何重にも重なってきた。


 隠匿魔法が切れかかっている…そういえばさっき、世界樹からのマナが減ってきていて魔法陣が弱まっているとか言ってたね。…あれ、それまずくない?敵に見つかるんじゃない?


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