第11話 世界の現状と自分たちの称号
「さて…そろそろ質問タイムといきますか」
相手さんに近づきじっと見降ろす。そういえば完全に目的を忘れていた。
悔しそうに睨んでくるけど涙目だし、さっきのような殺意はもうない。
「では私たちの質問に素直に答えてください。もし後々にでも嘘が発覚した場合は、必ずあなたを見つけ出し三日三晩に渡りくすぐり続けます!」
「ヒィッ!」
突き刺すような視線で真っすぐ相手さんの目を見ながらの宣告。一切視線がブレることはなく、言ったことは必ず遂行するという凄みがあふれ出ている。実際ユイカちゃんならやりかねない。でも1人で三日三晩というのは疲れるだろうから俺も手伝おう。
「わかりましたね?」
よっぽどくすぐりに対して恐怖心を抱いたのか、必死に首を縦にぶんぶん振る。
その様子に満足したようでユイカちゃんによって質問の口火が切られた。
「名前は?」
「メ…メリッサ・ベネット」
「年齢は?」
「26だ」
「なぜ私たちを襲ったんですか?」
「盗賊だから…金目当てて襲っただけ」
あっさりと正体が判明。ただの盗賊だった。いや“ただの盗賊”って普通なら使うこともないワードだけどもね。敵であるディアブロとは関係なさそうだ。よかったよかった。
「そうですか…あまり面白くない理由ですね。では今まで何人の犠牲者が? それ次第では罰が必要になってくるので確認したいんですが」
「お、お前らが初めてだ! ほかに犯罪行為はしてない! 本当だ!!」
この焦りようから嘘ではない…たぶん。嘘を見抜く力とか持ってないんだよね。にしても凄い慌てようだ。罰=くすぐり、だと思い込んでいるための焦りなのかもしれないし。よっぽど。くすぐられたくないんだろうね。
俺たちの命を奪おうとしたことは犯罪になると思うけど、ユイカちゃんも俺も無事だから俺は罪に問う気はない。ユイカちゃんはどう思ってるんだろうか。
「私たちを襲った罪がありますが、くすぐり拷問をしたことに免じて不問としましょう」
「流石ユイカさん!寛大だよ!」
俺達─主にユイカちゃんの反応を見て少しほっとしたように息を吐く相手さん。
「なにかしら肉体強化系の魔法を使っていましたか?」
「魔法じゃねぇ。【マナ・リンクス】って言って、マナを体に纏わせることで身体機能と魔法全般の効力が上がるんだよ。ついでに使える奴は少ない」
はぇー、マナって魔法だけじゃなくそういう使い方もあるんだ。やはり情報不足は否めない。勝つためにも、まだまだこの世界を知らなくていけないね。
拘束されているというのに得意顔を浮かべている相手さんこと、名前が判明したベネットさん。“使える奴が少ない”と言っているのは、自慢できるほどの事実なのだろう。
「異世界から来たことを聞いても、あっさり受け入れましたね。私たち以外で異世界から来た人間を知っているんですか?」
「知らねぇ。でも、魔王が侵略してる混沌とした世界で『異世界』とか言われても、なんら不思議じゃないからな」
「なるほど。あなたの実力は、人類ではどれほどのレベルなの?」
「自慢じゃないが、アタシより上の方が遥かに少ないだろうね。そこらへんの騎士が束になってもこっちの方が上さ」
「じゃあなんで、そんないい技量を持っているのに盗賊なんかを?異能持ちの俺よりも剣術は上で、おまけにそのマナ・リンクスとかいう使える人間が少ない技術もあるのになんで?騎士団的なものに入ってた方が、よっぽど力が生かせると思うけど」
そう質問をした途端、目の色が変わった。どこか空しそうな、色が失われたような瞳に。
「こんなの使えたからって何の意味もないだろ。騎士団も、人類も……外からだけじゃなく腐った内からも、ゆっくりと滅びていくだけだ」
吐き捨てるようにそう告げた。この悲し気な声色は何度か聞いたことがあった。諦めたくないけど諦めてしまった人の、叫びにならない悲痛な声だ。
「あんたら異世界から来たんだろ。いつ来た? この世界の何を知ってる?」
「魔法が存在し、魔王ルシファーの侵攻にあって人類は厳しい情勢にある…以上。この世界に来て、まだ一時間も経ってない。ガーゴイルと一戦交えたくらい。あいにくこっちの世界に俺たちを呼んだ本人も、あまり知らなかったようで他に情報はない」
「ふーん…ガーゴイルをね。目的は?」
「魔王ルシファーを倒す。倒さなかったら俺たちがいた元の世界が消滅する」
「パラディンか」
「パラディン? なにそれ?」
ゲームとか漫画であるジョブだね。なんか上位ジョブだったと思うけど、パラディンがどういうものか調べたことがないから実際に自分たちが言われると凄さが実感できない。
「元の意味は、中世ヨーロッパで高位騎士および役人の事を指す言葉です」
流石ユイカちゃん!博識だ!澄んだ声に癒されるよ。
「この世界では魔王に立ち向かう勇気ある者に授けられる称号。ようは勇者みたいなもんだ。でも魔王に挑むのに、たった2人だけでか?」
「今は2人だけで。でも、この世界の人たちにも協力してもらえれば─」
「300年。魔王の侵攻が始まって、人類が歩んできた歴史の長さだ。幾多のパラディンが魔王を倒そうと名乗りを上げてはうち滅ぼされ、他種族の連中にも資源目当てに狙われて、年々人類の領土は減る一方。士気が低くなった結果、騎士団はほぼお飾りになり下がり、特に解決の策のない人類は結果魔法の中に閉じこもって生活している。ほとんどの人間は英雄になんか期待してない。それが今の世界の現状だ。協力? 数人はいるかもな」
「…厳しい情勢だねー」
アルカナが強調していた『厳しい情勢』ってこのことか。今の話が本当なら、世界を救おうとしてるのに歓迎されない、か。厳しい!
「お前らは抗う気があるだろうけど、たった2人でなにができる。この世界のやつら全員が世界を変えようなんて勇敢な考えにはなれない。誰もが夢物語に出てくるような英雄にはなれねぇんだよ!誰もがお前らみたいに…強くない」
吐き捨てるようにそう呟くベネットさんの目は、俺たちに視線を向けているのに、俺たちではない人達を見ているように遠い目をしていた。手はギュッと固く握られ、悔しさや虚しさが合わさった複雑な感情がにじみ出ていた。
(きっとこの人は諦めたくなかったけど心が折れてしまった、一度は立ち向かった人なんだ)
「元騎士団に?」
「あぁ…どいつもこいつも死んだような顔をして、事態を好転させる気はなかった。集団の中では個は無力だ。少数派が世界を変えるには力がなさ過ぎた。でも結局はその状況で心が折れて盗賊になり下がったアタシが、一番弱い負け犬なのだろうな…ハハ」
そう力なく笑って見せた。諦める時にどれほど無念だったか…俺も少しだけその気持ちがわかる。でもある点を勘違いしているから、訂正したい。
「俺も…別に強くはないですよ」




