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第10話 推しによる、痛くない拷問タイム

 相手さんは地面に倒され、ユイカちゃんは馬乗りになる。あぁカッコいい!


「このっ─」


「【調停者の鎖アンリーズナブル・セイフティ】」


 暴れようとした瞬間、その言葉と共に光の輪が相手さんの両手両足に出現。手足がX字のように広がった。拘束したようだ。


「な、なに?! マナが動かないだと!? クソッ!!」


 魔法が使えないようになってるようだ。強い!凄い!


「凄いよユイカさん!一瞬で制圧するなんてめちゃくちゃカッコいいよ!!」


「夢叶君が気を引いてくれたおかげです。ありがとうございました。いい動きでしたよ」


「はぅ…ありがとうっ!!その言葉を一生忘れないよ~!!」


 ユイカちゃんにお礼を言われたし、褒められた。今日は人生で最も忘れられない日だ。


「離しやがれっ!!!」


「あなたには聞きたいことがあります。その全部に素直に答えてくれたら、解放しますよ」


「誰がお前らなんかの質問に答えるか! フンッ!」


 この圧倒的に追い込まれている状況でも、強気に出られるその根性は称えたい所だ。


「では拷問します」


「「えっ?」」 


 相手さんと声が重なった。今、拷問とおっしゃった?もう少しやり取りがあると思っていたけど、ユイカちゃんの表情は一切変わらない。いたって真剣だ。


「そ、そんなユイカさん! そんな非人道的なことをユイカさんがしなくても! 俺が代わりに拷問するよ~!!」


「いや拷問をやめさせろよ!!」


 だって推しに非人道的な行為をしてほしくなかったから。拷問に特に知識はないから、“痛い”又は“苦しい”が伴う酷い事というイメージがしかない。拷問をしたこともなければされたこともない俺からすれば、それ以下でもそれ以上でもない酷いイメージだ。そんなことを彼女の手でしてほしくない。それなら俺が汚れ役になる。


「大丈夫ですよ。想像しているような酷いことはしません」


「そっかぁ! じゃあ大丈夫!」


「あっさり引くな! やめさせろー!! そいつのこと信じすぎだろ! 人の心はないのか!?」


 だってユイカちゃんが『想像しているような酷いことはしません』って言ってくれてるんだから、何も心配ないでしょ。全幅の信頼をおいてるし。


「【調停者の鎖アンリーズナブル・セイフティ】の効果は、相手を拘束し、そのほとんどの能力を封じることができます。しかしその代償として、拘束されている人間を傷つける暴力的行為はできないようになっています。どうやらこの能力は、この世界でも通じているようですね」


「そうなんだ! カッコいいし、すごい!!」


 別の世界から来た力なのに、魔法をシャットアウトしているわけだからね。すごい!


「お前はさっきからこいつのこと褒めすぎだろ…。暴力ができないでただ拘束してるだけだろ? フンッ、なら拷問もできねぇじゃないか」


「甘いですね。暴力的ではない拷問なんて山のようにありますよ。しかし周りにバレるのは面倒ですね…一気に片を付けますか」


「周囲から見えなくて、音が漏れなきゃいいんだよね! 任せてください! 【影幕えいばく煙雨えんう】」


 俺たちを包むように影がドーム状に広がる。わずかに薄暗くなるが、それほど変わらないで景色が見られる。広さは直径で約10メートル。何かあっても対処できる。


「影で作り出した幕で内から外は見えるけども、外から見れば環境に溶け込んだそこらへんにある薄暗い物陰にしか見えない。今ならうっそうとした森の中…みたいな景色が映ってる感じかな。そしてこの中で発生したいかなる音も衝撃も、外には伝わらない。いくらでも拷問しても大丈夫だよ!」


「夢叶君、ナイスです」


 満足げに頷いてくれた。嬉しすぎる。思わず力強くガッツポーズをしてしまった。

 本当の使い方は自分の身を隠すための術なのだけど、使えればオッケーなのだ。


「さて…別に私も好き好んで拷問をする性格が悪い人間ではないので、素直に話してくだされば拷問なんてしませんし、命の保証もしますよ。…話します?」


「くっ…お前らの好きなようになんてなってたまるか!!」


「そうですか。残念です。まぁ、あなたも人の命を狙ったので、それくらいの覚悟はできていますよね?」


 そう言いながら一歩ずつゆっくりと歩み寄っていく。一歩近づくごとと相手さんの手、足がピクッ、ピクッと動く。いったんどんな拷問になるのか…それにしても頼もしいなぁ。この凄みと鋭い視線、端から見れているだけでも嬉しくて仕方がない。


「く、来るな!」


「大丈夫です。酷いようにはしませんので。しかし…人によっては、死ぬほど辛い、かもしれませんけどね」


 ゆっくりと手を伸ばす。


「う…うぅ!や、やめろ!!!」


 ガタッ、と体が大きく動いた瞬間。

「こちょこちょこちょ」


「なっなにを!? んぁああっはっははははははきゃはははは?!!」


 相手さんのピンっと伸びた脇の下をくすぐり始めた。一瞬にしてくすぐったさに悶え大きな笑い声が口から漏れ出ていた。戸惑いつつも、体を捩じってその鋭い刺激から逃げようとするが、拘束されているのでそれは叶わず。


「『くすぐり』…くすぐったいのが苦手な人によっては、かなりきついはず。確かに暴力的ではない拷問でいいアイデアだね!」


「くすぐりに弱い人間からすれば、痛みよりも遥かに効果は大きいですからね。しかも、一見して子供の遊びのようで残虐には見えないので、している側としても心苦しくなりません。この人の場合、ぱっと見でくすぐりに弱そうでしたので選ばせていただきました」


「見ただけで弱点を見抜けたんだね! す、凄いっ!」


 くすぐりって自然と体が逃走行動をとろうとするよね。ユイカちゃんの見立て通り、この様子から察する相手さんはかなりのくすぐったがりで効果はてきめん。流石の観察力だよ!


 歴史の本でもくすぐりは古来から拷問として使われていたと書いてあった。人によっては窒息したり気が狂いそうになるらしいし。よく子供の遊びだと少し舐められがちではあるけども、それに反して“くすぐり拷問”とは実に恐ろしいものだね。


(それにしてもユイカちゃんの表情が生き生きとしてますねぇ~いいですね~。手つきも滑らかだし、カッコイイ!!)


 拷問しているユイカちゃんに癒される。もうずっと見ていたくなるね。自分でも異常だとは思うので決して口に出したりはしないけども。


 そうしてじっとユイカちゃんを見ていると、チラッとこっちを見て視線が合った。俺に視線を向けながらもしっかりのその手は脇の下をくすぐり続けている。


「どうかした?」


「…いえ、特に何もありませんよ」


 そう言って何事もなかったかのように視線を再び相手さんに戻した。しかし一瞬だけ見えた。くるっと視線を戻す瞬間に、嬉しそうに微笑んでいるのを。どうして喜んでいるのかはわからない…けど、それでいいと思う。いつか知る日が来るかもしれないし。


「や、やめっふぎゃははははああはっはははは!!」


「いつでも降参していいですよ。脇の下だけじゃなくここも弱点ですよね?」


「ぃぎゃははははははは!!! ひゃははははああっはははは!!!」


 スッと片方の手で腹筋をくすぐる。体が跳ね上がるが刺激からは逃げられない。あまりのくすぐったさにか腹筋がピクッピクッと震えていた。

 さらっと『ここも弱点ですよね』って言ってから攻めるのカッコイイ! 拷問する姿に惚れ惚れしてしまう。目が離せない。瞬き厳禁だ。あぁこの瞬間をすべて録画していたい。目と頭と心に焼き付けるよ~。


 拷問するユイカちゃんに惚れ惚れすること…どのくらい経っただろう? 


「くはははっははははっは!!! もふ止めててぇえへへへへひひひははは!!!」


「降参しますか?」


「しゅるぅあはっはははっはあああっははは!!!」


 口がうまく回っていないけども問いに首をバンバン縦に振って答え、くすぐりの手は止まった。なんて鮮やかなくすぐり拷問だったのだ! 見れて幸せ~。一生の思い出にするよ。


「ハァ、ハァ、ハァ…ひゃうぅ…ハァ、ハァ、もう…無理ぃ…」


 荒くなった息遣いと汗。目からは涙が零れている。これだけでくすぐり拷問の破壊力を物語っている。これもユイカちゃんの技術力の高さのおかげだね。くすぐるにも技術がいると、どこかで聞いたことがあるし。


「ユイカさん、お疲れ様! 見事だったよ!」


「いえいえ、それほどでも。大したことはしてないので疲れはありませんけど、誉め言葉は素直に受け取っておきます。ありがとうございます。ずっと私のことを見てましたね」


「気づいてたんだ! お恥ずかしい限りで…」


 俺の視線に気づいていたなんて流石だ。見ていたのを知られているなんて、少し恥ずかしいな。つい照れ臭くて頬っぺたをかいた。


「本当に、あなたという人は…」


「ふぇ?」


「いえ、何でもありません」


 そういうけども、表情は明るく満足げに笑ってくれていた。俺には読心術はないからどう思っているのかはわからないけど、良い笑顔になってくれているからなんでもいい。


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