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転生先は崩壊した未来世界~世界再生機構Venus~  作者: 光影


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第4話 緊急事態 ―― 通信回復


 この世界に来て約一年が経過した。

 最初の半年は専門の教育機関で座学を中心にこの世界について学び、戦場について学んだ。

 そして、卒業試験を受けた。

 一発合格を果たし、比較的簡単な任務に就くことになった。

 任務と言っても経験豊富な分隊に合流し、実践を通して戦場に慣れていくという目的の元、比較的危険度が低い任務の同行が主な仕事である。

 そこで戦場のノウハウを学ぶと言うのが、新米異世界転生者に与えられた課題。

 なので、今日のように本物の戦場に身を投じるのは初めて。

 ましてやイレギュラーな奇襲による戦場。

 こうして生きていること自体やはり奇跡としか言いようがない。

 移動途中。

 三人の適合者が星野を囲むように歩き、周囲を警戒し守ってくれている。

 自分にそこまでする価値はあるのか?

 心の中にある罪悪感から生まれる感情に申し訳なくなってくる。


「優秀な異世界転生者すなわち隊長でも死ぬことは珍しくないわ」


「そうなんですか?」


「えぇ。だけど隊長や隊長候補を命を賭けて守るのも私たち適合者の役割でもあるの」


 まるで星野の顔に悩みが書いてありました、と言わんばかりの言葉に心が少し救われる。

 福永は心理学に長けた適合者なのだろうか?


「多くの異世界転生者は副隊長として活躍する。隊長と大きく違うのは扱える加護の種類や大きさ、後は権限の問題。つまり護られる価値があるってわけ」


「唯の言う通り。さっきからブツブツと独り言で心の声が漏れてる」


「あはは……そうでしたか……」


 星野の心は自分でも気付かないぐらいに追い込まれているらしい。

 どうやら福永が心理学に長けた適合者とかではなかったみたいだ。


「仕方がないわ。とりあえずコレ飲みなさい」


 美琴がポケットから薬と水を渡す。


「副作用はあるけど、飲んだ方がいい。見た所頭痛と吐き気が酷いんでしょ? 顔色が悪い」


「あ、あぁ……」


 過去に何度か任務で一緒になったことがあり、この中で一番の理解者と呼べる美琴の言葉に星野は頷いて水で薬を飲む。


「軽度の手足の痺れが出てくるかもだけどそれは薬の副作用だから気にしないで」


「わ、わかった」


 星野は頷いた。

 むしろ軽度の手足の痺れで頭痛と吐き気が収まるなら安い。


「随分と信頼関係が構築されている様子ね」


「えぇ。夜空とは最近ずっと同じ任務に出ているから」


「和田さんから見たら不思議?」


「……そうね」


 和田は視線を戦場の空に移した。

 その声はどこか悲しい声だった。

 空は静かで何も答えない。

 陽が沈み始め、少し肌寒い風だけが吹く。

 肌寒い風が教えてくれる。

 自分たちがまだ生きていることを。

 それと耳から聞こえたもう一つの声がソレを教えてくれる。


「……ぁ……ぁ……すか?」


 耳に付けていた通信機からソレは聞こえた。

 壊れたラジオのようなザザッ音に人の声が混ざっている。

 数秒後。

 通信が安定し始め、ノイズ音だけが消える。


「こちらアヴァロン。こちらアヴァロン。荒巻隊の皆さん聞こえますか?」


 若い女性の声が聞こえる。

 『ファーレン』が破棄した基地から離れたことで通信が復活した。


「こちら荒巻隊福永。ラクス聞こえる?」


「はい。通信が途絶えてからの状況を教えてください」


 福永が淡々と説明していく。

 その間も周囲を警戒しながら離脱ポイントに向かう。

 

「現在緊急離脱ポイントに向かってる。正直武器も限界であと一戦が限界ってところ」


「そうでしたか。急に通信が途絶えた時は皆さん死んでしまったのかと思いました」


「結果荒巻隊長が死んだわ。それでどうしてファーレンがこんなにもいるのかしら? 当時の作戦概要では資源回収のファーレンはいないことを確認していたから私たちが現地調査に来たのよね?」


「えっ? そんなはずはありません。少なくとも荒巻隊長には任務前に今回敵資源回収部隊がいる可能性を示唆した文面を送っていたはずですが?」


 その言葉に思わず全員の足が止まる。

 それだけここにいる者にとっては予想外の言葉だった。


「はっ?」


「ラクス悪いのだけれど、今すぐそのデータをこちらにも送ってくれない?」


「了解しました。少しお時間を下さい。見つけ次第皆さんの端末に送ります」


 どうやら驚いているのはラクスも同じようだ。

 カタカタと操作音が無線機から聞こえてくる。


「星野夜空さん。初めまして。私はアヴァロン情報部オペレーターのラクスと言います。臨時隊長の件、確認取れました。今から荒巻隊の指揮権は正式に星野さんに引き継がれます。問題ありませんか?」


「問題ないです」


「では撤退作戦を継続でよろしいでしょうか?」


「はい」


「わかりました。今から撤退ルートの確保を始めます。皆さん二十三秒そこで止まって下さい。こちらでルートを確保致します」


 その言葉に従い、星野たちは足を止めたまま次の指示を待った。

 だけどなにもしない。

 ただ待つだけの二十秒ていどの時間がこんなにも落ち着かい日は今までになかった。

 なにもしない不安が恐怖を大きくするからだ。

 それと地面が僅かに揺れているように感じるのが、余計に不気味だ。

 




皆様のブクマ、評価よろしくお願いします!

では次話でお会いしましょう!

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