第1章 ―― 生徒
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※たもかずか退学前。
校門が開き、俺はすぐ後ろを歩いていた。肩に自分の鞄をかけた生徒たちに続いて。
普通の生徒、普通の制服、普通の会話。ふつうの人たち。手首のブレスレット以外は、特に変わったところはない。
緑色のブレスレット。しかし、好ましくない色のものもあった。もちろん、良い色のものもある。
俺は自分の手首にある金属のブレスレットを見た。
(腕時計みたいなものだ。とはいえ、左手首には自分の時計もしているけどな。)
校門をくぐりながら、腕を伸ばして眠気が襲ってこないようにしていた。
あくびはもっと酸素を取り込むために必要だ。眠気に勝つために。
(コーヒーが飲めたらいいのに。)
歩きながら、俺は背の高い少年の後ろ姿を見つけた。
「坂本! くそっ! お前、また背が伸びたんだな?」
俺は腕を回して、彼の首に軽く絡めた。
坂本の身長はおよそ185センチ。俺は180センチだから、決して低いわけじゃない。
目立つ存在だったとは思うけど、この辺りは背の高い人が多いから、学校での私の身長は褒められたものではない。
「そんな余計なことにも気付くんだね。」
「君は友達なんだから、君の成長を見守ってあげたい。」
「それは本当にバカげている。」
坂本はいつもの真面目な顔のまま、落ち着いたが力強い声でそう言った。
彼の視線は、手に持った小さな本から一度も離れない。
(ラノベかよ……?)
「なあ、この野郎。お前のクラスの女子、どう思う? 俺、E-2の教室ちょっと覗いたんだけど、めっちゃ可愛い子ばっかじゃん。」
「お前こそ自分の成績を心配しろ。この数か月でかなり落ちてるだろ。ポイントを失うぞ。」
「おいおい、まだ新学期だし、4月だぞ!学校に行ってまだ2ヶ月だぞ。もっと休みがあってもいいじゃないか。この学校がこんなに厳しいなんて残念だ。」
「それで、どうしてここにいるの?成績が…だから、真面目に考えてないみたいだけど…」
「落ち着いて。後で取り戻せるから、そんなに深刻にならなくていいよ。今は楽しもう。教えて!教えて!好きな人いる?」
「美緒……」
「何? 聞こえなかったよ。」
「聞こえてるってわかってる。」
「美緒さん? 待てよ…美緒さんって桜さんと沙里さんの友達だよな? 桜さんと美緒さんってA-2の子だろ? お前終わったな、あの子はもっと頭のいい将来が約束された奴を選ぶぞ。」
「そんなことわざわざ言う必要ある?」
「落ち着けよ。冗談だって。お前、格好いいよ、坂本。きっと彼女のハートは落とせるさ。俺のアドバイス付きなら大成功だ。でもどうやら坂本は控えめな子が好きみたいだな。」
(本当は“控えめ”って表現はあまり正しくないけどな。)
俺は肘で彼の肩をつついた。
「黙れよ。」
「安心しろ、フラれたときはそばにいてやるよ。心配するな、坊や。」
俺は坂本の顔にほおを擦りつけた。彼はすぐに手で俺の顔を払った。
「やめろよ、バカ…俺はお前の坊やじゃないからな…」
「わかった、うるさくするのやめるよ。」
「わざとやってるだろ?」
「慣れてると思ったんだ。」
「慣れることなんてなかったわ。でも、ケイ、君を尊敬するわ。君は私より賢いし、たとえ押し付けがましいやり方であっても、人に近づき、コミュニケーションを取るのが楽なのよ。」
「そんなこと言うなよ。お前の方がポテンシャルあるだろ。俺は他人にあまり構わないタイプなだけだ。でも本当に、D-2に落ちたってまだ信じられないよ。あんなことになるなら、もっと間違えておけばよかった。そうすれば今頃同じクラスだったかもしれないのに。」
「そんなことできるみたいに言うなよ。」
「そうだな、できるわけないよ。少なくとも五割はマーク式の問題だったんだから。」
「それで正解できたのはラッキーだったの?」
「たぶんな。でもちゃんと勉強もしたし、知ってるだろ、必要なら頭は働くんだよ。」
私は腕を自分の首の後ろに回しながら言いました。
「君って変だね、ケイ。変なバカだけど、必要な時は賢いんだ。」
「それって、俺が特別である理由にはならないのか?」
「そんなに特別になりたいのか? むしろ注目を集めたいだけに見えるけどな。」
「俺は…」
一瞬、目を伏せて、この場にふさわしい答えを考えた。
「ん?」
その瞬間、紫色の髪をした可愛い女の子が脇を通り過ぎた。後ろ姿しか見えなかったが、まるで一目惚れしたかのような気持ちになった。
「ちょっと待て、坂本。すぐ戻るから。」
俺は彼女の方へ走ろうとし、肩に手を伸ばしたが、彼女は他の生徒の群れの中に入ってしまった。
「おい、待てよ!」
もう遅かった。彼女はふっと消えた。まるで一瞬だけ現れる影のように。
(どこ行ったんだ?)
辺りを見回しても、見つからなかった。
(まあいいや。ああいう目立つ子なら、いつでも見つかるさ。)
廊下で坂本と別れて、それぞれの教室に向かった。
「おはよう、ルルちゃん。」
部屋に入って、一番奥、壁際に座っている女の子に挨拶した。彼女は普段から元気いっぱいなので、からかうのが楽しい。
「することないなら、構わないでくれる?」
「だって友達だろ? テストの勉強してるの?」
「関係ないでしょ!」
俺は彼女の机に顔を近づけて、ノートを覗き込んだ。
「ここ、間違ってるよ。」
「知ってるかのように言わないでよ。しかも私のほうが頭いいんだから。あなたはクラスで成績30位、私は10位よ。」
「その通りですが、目がいくつか増えると、違った角度から物事が見えるようになると思いませんか?」
彼女に微笑んだ。
「いいや。君の目なんて意味ないさ。俺の目で十分だ。」
「そんなに真剣になるなよ。ほら、手伝ってやるよ。なんで根号を指数に直さないんだ?」
俺は間違っている部分を指で指した。
「必要あるの?」
「さあな。」
もう一度、にやっと笑った。
「うるさい! 邪魔ばっかりして! どっか行け!」
「わかったよ、ルルちゃん。でもさ、こんな問題に引っかかってちゃダメだろ。これ、小学校レベルじゃない?」
「黙れ!」
ルルちゃんは今にも拳を振り下ろしそうだったので、仕方なく退いて自分の席に座った。
「おはよう。」
隣に座る女の子に声をかけた。彼女の髪は赤色で、とても目を引く。
(彼女はいつも眠っています。時々、死んでしまったんじゃないかと思うほどです。だって、彼女は動かないし、呼吸も浅いんです。先生たちは彼女の行動に文句を言いません。なぜなのかは分かりません。彼女は謎に包まれていて、これから先も問題を起こしてほしくないんです。)
授業が始まってからは、ずっと退屈だった。だが、昼休みになるとようやく俺の好きなことができた。
それは、全ての教室――A-2、B-2、C-2、D-2、E-2、そして図書室まで観察することだ。
校庭にはたくさんの生徒がいて、情報が多すぎて全部を把握するのは難しい。
でも、俺は一人一人を観察するのが好きだった。
理由? もちろん秘密だ。
「この子、なんで毎日ここに来るの?」
「無視してるだけよ。」
「でも、あの視線の向け方が変だと思わない?」
「無視しろって言ったでしょ。D-2クラスの変態なのよ。毎日ここに来て女子生徒をチラチラ見てるのよ。」
「本当に気持ち悪い…」
女の子たちはC-2教室でおしゃべりしていた。俺の聴力はそこそこ良くて、話の内容を全部聞き取れた。文句は言えない。彼女たちの言うことには一理ある。だが、俺は女の子だけを見ているわけじゃない。人間そのものを観察しているんだ。それでも――やっぱり目が行くのは女の子たちだった。
胸が豊かな子も、丸くて形のいいお尻の子も、控えめで大人しい子も、全部見ていた。
図書館にも目を向けた。面白そうな子が通りかかることがあるからだ。いつものように昼休みにはおやつを買って、校舎裏で食べた。
そして休み時間は終わり、退屈な授業が始まった。
…
時間が来て、眠気と戦いながらなんとか耐えた。帰る時間だ。
でも、授業が終わると、事態は悪化しました。だって、私を追いかけてくる最高位の教師、チリモヤ・ウラケ先生がいたんです。彼女はすべての教師の責任者で、生徒や大人の間で最も権威のある人物です。彼女はいつも私にとって厄介な存在でした。
(またかよ…)
みんなが帰る中、廊下で彼女が腕を組んで待っていた。俺は肩に鞄をかけ、D-2教室を出たところだった。まさかの場所で立ちはだかる問題。
「ユロシ、最後にもう一度言いますが、あなたはクラブに参加する必要があります。」
「今日は無理っす。アディオス!」
俺は廊下の窓際まで走って、飛び降りるつもりで身構えたが、教師は素早く腰を掴んで止めた。
「バカか!?ここは2階だよ!」
「しまった、部活に入りたくない。先生、もし辞めさせてくれないなら、必殺技の『巨乳掴み』を使わなきゃいけないんだ」
「やめなさい。君のためにならないわ。いいから落ち着きなさい。」
教師が腰を離した隙に、俺は廊下を全力で駆け抜け、逃げ切ろうとした。
「問題児ねぇ…」
彼女の呟きには構わず、そのまま走り去った。
(逃げなきゃ!いや、ダメだ! 廊下を走って階段まで行ったら、防犯カメラに映ってしまう。それは最悪だ。少しだけ走って、先生を撒けば問題は小さく済むはず。待てよ! もっといい方法がある。一階まで行くんじゃなくて、隠れればいい! でも、どこに? どこだ?)
(普段は可愛い女の子から逃げたりはしないんですが、今回は例外です。)
A-2号室の近くにいたので、部屋に入って一番いい場所を探しました。テーブルの下なら簡単だけど、カーテンの後ろだと足と体の大部分が見えてしまうので…クローゼット?
(ここならいい。)
だが鍵がかかっていた。いや、むしろそれが完璧だった。
(先生が、鍵のかかったロッカーに生徒が隠れてるなんて思うはずがない。普段は閉まってるんだ。特別な日しか開けないし、清掃用のロッカーならともかく、これは常に閉じられてる。俺は鍵なんか持ってないから、本来なら開けられるはずがないんだが……)
「ユロシくん、お願いだから出てきて。話しましょう。」
(仕方ねえ! 力ずくでも開ける!)
指先に力を込める準備をした瞬間――なぜか簡単に扉が開いた。
「開いてる……?」
幸運なのかどうか分からない。でも、このチャンスを逃す手はない。俺は迷わず中を開けた。
だが、中にあったのは予想外の光景だった。
目を見開く。そこには――すでに誰かがいたのだ。
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