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プロローグ ――デビュー

....

(ついに来た。陵面学園に。まるで夢みたいだ。)


それが、俺の高校デビュー初日に思ったことだった。


一年かけて、この学校の仕組みを理解した。ブレスレットやポイントシステムのことも。確かに普通の学校じゃなかった。だが、それは最初から分かっていた。


入試を突破して、奨学金を手に入れるのは大変だった。点数を取りすぎてもいけない。問題の数は異常で、その日、陵面学園が日本で十番目の名門校と呼ばれる理由を知った。


五番目や三番目の学校の難易度なんて想像もしたくない。そこに通う生徒たちは天才と呼ばれ、支配する才能を持った神童だろう。


そんな学校にいる俺は特別な存在だと、最初は思っていた。けれど、一年が経つにつれて分かった。別に大したことはない。生徒たちは普通で、どこにでもいる人間と同じだった。


最初は戸惑ったが、やがて日常に慣れた。


廊下に無数のカメラが設置されていて、生徒の安全を重視しているのは分かったが、その代わりにプライバシーは失われていた。いじめに対しての厳しさも興味深かった。いじめをすればポイントが減り、さらに罰則もある。


しかし、誰かがそれを発見または報告し、さらに必要な証拠を持っている場合に限ります。


入学初日に全員に配られたブレスレット。欠席した者も翌日には必ず受け取った。


ブレスレットには会話を録音する機能があり、特定の時間帯――つまり授業時間中は解除できない。校長、あるいは管理者がその録音にアクセスできる。ただし、この事実を知っている者は少ない。


唯一の方法は、ブレスレットを外すこと。だが、それは校則で禁止されている。学校を出た後、例えば帰宅するときなら外してもいい。夜六時頃になると自動的に録音は停止する。


もし校内――教室でも廊下でも校庭でも――でブレスレットをつけていないのが発覚すれば、最悪の場合、退学になる可能性がある。


俺が一年かけて調べた限り、録音にアクセスできるのは校長ただ一人だった。だが、それも本当にそうなのかは分からない。校長のさらに上に、別の存在がいるかもしれない。ここでは彼を「創設者」と呼んでいる。匿名の校長。俺は一度も姿を見たことがない。だが、入学式では声だけがスピーカーから流れていた。


それが録音だとすぐに気づいた。とにかく、創設者は忙しく、姿を現さないらしい。さらに気づいたことがある。彼は生徒の活動に干渉しない。もし全てを録音できるのなら、問題を起こす生徒を特定できるはずだ。だが、干渉はしない。生徒たち自身に解決させる。


――ここではプライバシーは犠牲になっている。だが、それでも自由は残っていた。


入学の時、俺は署名した。500ページ以上の書類に。誰も全部は読んでいないだろう。だが、俺は一字一句確認した。多くの生徒は主要なルールだけ把握して、あとは気にしていなかった。


ほとんどの生徒が求めていたのは金と名声だ。陵面学園を卒業すれば、就職の可能性は格段に上がる。今の時代、仕事を見つけるのは難しいからだ。


20XX年、日本は深刻な人材不足に直面していた。学歴のある大人が減り、さらに労働が奴隷のように酷使されていた。テクノロジーが一部の仕事を奪い、資源は浪費され、人間がやるべき仕事も機械に取って代わられた。


多くの人がネットで働いている。しかし、それだけでは足りない。殺人、自殺、自然災害――地震や津波が頻発し、多くの大企業が崩壊し、家族を持つ多くの人々が死んだ。


財政難、都市の崩壊、家族の喪失――それが自殺の増加を招いた。母は夫を失い、子は父を失った。「壊れた家族」がそこにあった。


企業が消え、多くが失業した。だが、金がなく、適切なリーダーもいない。経済が低迷する中、全てが崩壊していった。資金を節約し、正しい人に投資すれば変えられる――そう考えられていた。


では、その「正しい人」とは誰か。未来の世代。俺たちだ。七年後には、すべてが変わるはずだった。


だが問題があった。学力は低下していた。未来の世代は国を導く力を持たない。経済は過去十年で大きく落ち込み、このままでは三十年から四十年で日本は崩壊すると予測されていた。まるで呪いのように。


だから数年前、「学術的未来計画」が立ち上げられ、大統領によって承認された。


目的は単純だ。若者を天才に育て、日本を救い、頂点に立たせる。そのために高難度の学校が作られ、報酬も与えられた。


「勉強して、働いて、稼ぐ」――そのシステムは変わった。

「勉強して、働かずに、稼ぐ」――それが新しいルール。


どうやって? ポイントシステムだ。十校の名門に通えば、在学中から金を得られる。


成績が良いほど金も増える。卒業すれば、貯めたポイントは現金に換わる。中には会社を起こす者もいるだろう。企業が増え、雇用が増え、投資が増え、商品が増え、売上が増え――結果、金も、生活の質も上がる。


金は市民の安全や経済改善にも使われる。少子化は別の問題だが。


だが、経済が低迷しているのに金はどこから来るのか? そこでデジタルポイントが導入された。卒業後に円へ換金可能だが、在学中は学園ストアで食事や服を買え、小額なら現金に換えることもできた。


学園ストアは街にも、ネットにもある。ただし、「学術的未来カード」を持つ生徒のみ利用可能。つまり、十校の生徒限定。


これは賭けだった。残った資金の全てを投入し、日本を救うか滅ぼすか。だが、彼らに迷いはなかった。失敗するはずがないと信じていた。必要なのは一人ではない。複数の人材――本当に日本を変えられる者たちだ。大規模な破壊を止め、殺人や侵略に対処できる者たち。


日本を導くために選ばれた者たち。感情を制御し、教育され、導かれ、王になるために育てられた王子のように――それが未来計画の真実。


そして、俺もその「学術的未来計画」の一員となった。


(本当にうまくいくのか? 普通なら無理だ。だが、計画通りなら失敗はありえない。)


――こうして日本に、新しい時代が訪れた。若き天才たちの時代が。

....

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