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第八話

夕陽が差す頃、馬車の中。

言いようのない疲れに、リオはただゆっくりと身を沈め、深く息を漏らした。

心地いい静寂は、むしろ鮮明に記憶の門を叩くものだ。


「…本当に、なんだったんだ…。」


いまだ、リオの頭ではあの奇妙な光景が陣取っている。

耳の奥に残る喧騒は、拒絶するにはあまりに強烈で。



「なんでだよお…!仲良くしたいなら贈り物が良いって言ったのはディナじゃんか〜…!」


「歯は贈り物に含まれません。思いつきだけで行動する癖を慎むようにと何度言わせるおつもりですか。」


まるで不毛なやり取りが、放課のチャイムが鳴り響く廊下の隅で、まだなお、繰り広げられていた。

一歩たりとも動かぬディナ。

その足元で、アーセルは子犬のように震えている。

不意に、アーセルの目が、こちらを捉えた。


輝く金と、深淵の黒。

二つの視線が交差する。


ほんの少し。視界が揺らいだ、気がした。


するとディナも気付いたのか、外の景色に目をやった。


「…ああ、もうそんな時間ですか。ほら、行きますよアーセル様。」


言うが早いか、ディナはアーセルをむんずと掴み、小脇に抱えてそのままくるりと向き直す。


「それでは、ごきげんよう。…リオ様。」


「リオー!また明日ねー!!」


…見なかったことにしなければ。

そうして足早に帰路へ着き、よくやく一息、声を漏らしたいとまとなった。



同時刻、とある名家にて。

華美には飾らず、洗練された家具が揃うその部屋に、似つかわしくなく佇むクマのぬいぐるみと、1人の少女。

ひそひそと、内緒話が聞こえてくる。


「ええ、ええ、本日です。

本日昼下がり、やっと叶いました…。

あのお三方のお姿を拝することが叶ったんです…!」


ああ、この胸の高鳴りを止めてくれるなと言うように、手を組み少女は言葉を紡ぐ。


「ああ…、本当に目の保養、

あの方々こそ、神の最高傑作に違いありません…!

アーセル様の天真爛漫で天使のような可愛らしいお姿に、おとぎ話の王子様を彷彿とさせる佇まいでいらっしゃるディナ様…!そして、ああ、名前を呼ぶことすら恐れ多い、凛々しくも儚い、触れたら壊れてしまいそうな美しさを持つリオ様…!あのきれいな目に見つめられたなら…っ、わたくし、この学園を選んで本当に…!己の選択を、心から誇りに思いますわ…!」


何も応えぬぬいぐるみをよそに、

ただ一晩中、夢中で語り明かすのだった。

読んでいただきありがとうございます。

夢中で語れるほど好きなもの、良いですよね。

次回、紋章のお勉強です。お楽しみに。

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