第六話
あの目が。
あの光景が。
リオの喉奥を、焼き続けた。
酸っぱいのは好きじゃない。
流れる水音が、長い嗚咽をかき消した。
遠くに聞こえる笑い声、微かに鳴る楽器の音色さえも、今のリオを蝕むには十分すぎる種となった。
美しく整えられた髪が乱れることも厭わない。
ただ、すべてを吐き出すことだけに意識を注いだ。
「は…っ、うぅ、おえ…っ!
はあ…っ!
なんなんだよ、なにが…っ!何が神だよ…!
なにも、たったの一度も…!!」
顔を上げた先にあったのは、自身の目だった。
黄金に輝く目。散々に持て囃されてきた目。
尊厳を奪った目。お前自身に価値はないと、思い知らしめてきた目。
「あ、ああ、ぁ…あああああああああ!!!!」
鏡の割れる音。リオの絶叫。
それは誰にも届かない。
「見るな、見るな見るな見るな、見るなァ!!!!」
無数に散らばった神の目を、自らの目に突き刺した。
『きれいな目ね』
…はずだった。
ただ純粋に、きれいだと言ってくれたあの声が、花のように咲いたあの笑顔が、リオの心を保つ、唯一の記憶となって蘇る。
「ぁ…あ…なんで…いまさら、君のこと…」
手の怪我は、思ったよりも深かったようで。
ギルドラ夫妻からは手ひどく怒られ、
ルドルフからも冷たい視線を投げられた。
傷が癒えた頃、ギルドラ男爵はリオを呼びつけ、こう告げた。
「喜べ。貴様のような問題児でも行けるらしいぞ、貴族様の学園ってやつに。…1ヶ月後だ、わかったらとっとと失せろ!」
「…承知いたしました。」
黄金の蛇が見守る中、踵を返したリオの背中を、怨めしい声が鈍く打つ。
「…あの日の恥、忘れんぞ。」
睨めつけるような視線を、閉ざされた扉を隔ててなお、ジリジリと感じた。
…仕方のないことだろう。あの日、男爵家の家紋に泥を塗ったのは事実だ。
時が過ぎるのを待つその顔に、もはや感情と呼べるものは、ない。
読んでいただきありがとうございます。
久々にクラシックコンサートなぞ行きたいです。
次回、新キャラ出ます。お楽しみに。