第五話
「まあ!あの子が…!」
「なんと美しい黄金の目…本当にあれが…」
「神からの祝福だわ…!」
誰から始まるでもない。
その場にいる皆が、リオの目を見て囁いた。
神の加護だと。神からの愛だと。
リオは必死に、ただ前を見続けた。
「やあ、ギルドラ男爵閣下殿…随分と大層な催しですな?…いや失敬、妻がどうしても噂の目を見たいと聞きませんもので…」
「これはこれは!ハビヒツブルグ公!
いやあ是非是非、坊の目、せっかくですから近くでご覧くださいましな!」
「…これはどうも、ご丁寧に。」
遥か遠くで、そんな会話が聞こえた。
…まるで貴族と商人だ。
「まあ、まあ、まあああ…!!
これが、神のご加護ですのね…!
あなた、もっとよく見せてちょうだい!」
「…はは、眩しくて、見えないかもしれませんよ。」
どっと笑いが湧き上がる。
なんてことだ、さすがは神の目だ、センスまで持ち合わせておられるとは…!
…ああ、もう。
キン…とマイクが鳴り響き、一斉に静まり返る場内。
ギルドラ男爵がその腹を揺らしながら、
相変わらず、ギラギラと不気味に輝く指を見せつけながら、ゆっくりと一歩踏み出した。
「えー…皆々様、本日は我がギルドラ家のパーティーにお越しいただき…」
挨拶が始まるも、皆、その目だけは、
リオの目を見つめている。
思わず、半歩後ずさる。
だがギルドラ夫人は、それを見逃しはしない。
「…私たちに恥をかかせるおつもりかしら。皆、あなたの目を見にいらしたの…決して逸らしてはなりませんよ。」
絡みつくような、ねっとりと、それでいて氷のような声が、リオの耳元を漂った。
…もう、嫌だ。
「…さあ、ご紹介いたします。リオ=ギルドラ、我が【神の目】でございます!」
呼吸が、浅くなる。
獲物を漁るような目。
品定めするような、値踏みするような、そんな目だ。
それでも、もうどこにも行き場はなかった。
助けを求める術は、持ち合わせていなかった。
「あああ、なんて美しい目でしょう…!」
「もっと、もっと近くで見せておくれ…!」
「素晴らしい…金色の、神の色の目だ、これは本物だ…!」
リオの喉奥はもう、限界だった。
読んでいただきありがとうございます。
ハゼなんかは瞳孔がハート型らしいですね。
次回、リオが説教されます。お楽しみに。