第四話
ようやく貴族らしくなってきました。
「…なんだこれは。」
「旦那様主催のパーティーのご支度でございます。」
「僕は出席するなんて一度たりとも言った覚えはない。
…あんな場所、二度とごめんだ。
義父様にもそう伝え…いででで!」
「ふむ…このところきちんと梳かさずにご就寝されていたようで。奥様から寝癖についても言及されておられるというのに…屋敷に来られたばかりの頃が懐かしいですな。」
櫛の通らない髪を無理やり梳かしつけられたリオの姿は、それはそれは見違えるほどに完璧な貴族の令息であった。
「…ルドルフ、お前日に日に僕に対する扱い雑になってるよな?」
モノクル越しのルドルフの目が、悪戯っぽくきらりと光る。
「滅相もございません。
ささ、坊ちゃま、こちらへ。最後はご自身の目で確認することが身だしなみの心得にございます。」
「…いい、お前が完璧じゃないわけがない。
もう出る。」
相変わらず、買う奴の気が知れない装飾の隙間を縫うように、廊下の先、ギルドラ夫妻が待つ門扉へと向かった。
「おお、馬子にも衣装というものだな!
今日はお前の正式な社交界デビューなんだ、わしの後継人として恥をかかさんでくれよ!」
「まさかあのハビヒツブルグ公爵ご夫妻まで足を運んでくださるなんて…光栄なことよねえ。」
2人のやけに粘ついた笑い声が、どこまでもこだまする…気がした。
「…はは、まさか、僕なんぞのために公爵様が来られるなんて、何のご冗談を…。」
リオの両の目を舐めるような、ニヤついた顔が剥がれない。…ああ、そういうことか。
今から行われるのは、紹介式という名の公開処刑だ。
揺れる馬車の中、リオはもう、ひたすらに耐えるしかないのだと悟った。
真新しい獅子の意匠が、その姿を見送った。
読んでいただきありがとうございます。
顎ことカール5世、好きです。
次回、まんざらでもありません。お楽しみに。