表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/45

第三話

朝、神様に祈りを捧げる時間。

リオはこの時間が億劫だった。

億劫だったが、何も考えずに済む、唯一の時間であったこともまた確かだ。


カーテンを開ける。真っ白なシーツに、陽の光がキラキラと反射する。

…眩しい。


冷たい水で顔を洗って、ふかふかのタオルでゆっくり拭いて。着慣れない服に袖を通して、跳ねた髪をなんとか正そうと押さえつける。


ふう、とついたため息を合図に、軽快な音が3つ鳴る。


「…どうぞ。」


するりと部屋に入った男は、リオの身なりを全て整え、品定めするように全身くまなくチェックする。


…嫌だなあ、動きにくいの。


「朝食の準備ができております。ダイニングへどうぞ。」


「…はい。」


…ああ、嫌だ。

なんでこんなところにいるんだっけ。

趣味の悪い金ピカの壺や皿が並ぶ廊下も、

獣のように目の前の食事をかっくらうこの醜い男も、

僕の目だけを見つめる骸骨みたいなこの女も、

…嫌だな。



読み書きのできる子供は、珍しい時代だった。

それも孤児ともなれば、天地がひっくり返ってようやく1人現れるかどうかといったところか。

彼は十二分に持ち過ぎていた。

読み書きのできる才も、整った容姿も、処世術も。

そして何よりもその目は、あまりにも貴重で。

孤児院に来てたった数日で、どこからか噂を聞きつけたどこぞの貴族が、彼を引き取りたいと申し出た。


それが、今まさにリオの「嫌なとこ」である、ギルドラ男爵家であった。



「…おはよ、うございます。」


「リオ、髪が目にかかっています。

朝食を食べ終えたらすぐにルドルフのところへお行きなさい。」


「…わかりました。」


「はは、厳しくしすぎじゃないか?

この目があるだけで素晴らしいことなんだ!

少しのことぐらい目を瞑って差し上げろ!」


いかにも面白いジョークだと言わんばかりに、

でっぷりとした腹を揺らして男は笑った。


反対に痩せすぎな女は、フンと鼻を鳴らして

再びリオの目だけを、穴の開くほどに見つめ続ける。


…嫌だ、見んなよ。

飯、食えなくなるだろ。


食事もそこそこに、リオは足早に部屋へと戻る。


本当に、どうして。

僕は、なんにもいらなかったのに。

読んでいただきありがとうございます。

次回、馬子にも衣装です。お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ