第二十四話
第三章スタート
進級の季節も過ぎ、ロゼリアがいなくなって数ヶ月後。
あれだけリオの周辺に群がっていた女子生徒たちは、何一つとして進展のない状況に嫌気がさしたようだ。
代わりに今ではリオを遠巻きに眺めながら、彼の顔色の悪さを噂し合うことが日常となった。
「リオ様、今日も酷い顔色…。」
「彼女が退学されてからずっとあの調子ですね…。」
「ああ、わたくしがあの方の代わりになれたなら…!」
その声がリオの耳に届くことはなかったが、周囲が心配するほど疲れが顔に滲み出ていることは、紛れもない事実だった。
「ねえリオ、顔色悪いよ。風邪?」
「大方睡眠時間が足りていないのでしょう。」
今日も変わらずアーセルとディナはリオの部屋で、新しい茶葉を吟味している。
その隣では椅子に腰掛け、天を仰ぐリオがいた。
「…睡眠時間が足りないのは誰のせいだと思ってるんだ。」
リオの言葉にディナは視線を逸らし、アーセルは茶菓子を貪りまるで聞いていない。
あらかたこの二人が、特にアーセルが原因であろうことは容易に想像がつく。
この家に越してすぐ、リオの生活が心配だからとアーセルが寝袋を持参したことがあった。リオはなんとか追い返したが、今度は庭を拡大してアーセル専用の小屋を建てようと画策し、リオとディナは数日寝ずに妨害するという、なんとも愚かな攻防をその後度々繰り広げている。
そもそも学生のうちは特別措置として、王宮からの仕事依頼の対価に生活全般が援助される運びとなったことは、アーセルも承知していたはずだ。
何をどうして小屋を立てる結論に至ったか、リオがどれだけ頭を捻っても理解が追いつかなかった。
「…それに、最近ずっとセラフ先生につけ回されてる。」
「セラフ先生?今期赴任された?」
「ああ。学園中を毎日毎日…やけに紅茶も勧められる。」
セラフの噂は、ディナもある程度は把握していた。
異常な猫背で陰気臭く、前髪で目が隠れているにも関わらず不気味な眼光を放っている…と。
ディナは菓子盆を頭上へ避難させ、考え深げに顎に手を当てた。アーセルが周りをぴょんぴょんと飛び跳ねるのを気に留めている様子もない。
「アーセル様、菓子に対する執着を凡人程度に下げてください。…あの男、少しばかり気になります。」
「セラフはっ、悪い人っ、じゃっ、ないから!
リオもっ、甘いの食べればっ、寝れるよっ!」
確かに以前、アーセルは一度にケーキを大量に食べたせいで気絶したことがあった。
あれは睡眠ではなく気絶だと教え込んだはずだが。
ディナは小さく息をつき、今にも寝そうなリオに視線をやると、アーセルを担ぎその日はリオ宅を後にした。
それから学園内では、リオの言っていた通り、一定の距離を空けてはいるがリオの後をつけているセラフの姿があった。長身だが猫背がひどく、羊のようなモサモサ頭の男がコソコソと身を隠している様は、なぜ今まで気付かなかったのかと不思議なほどに目立っていた。
ただアーセルはまったく無関心で、一人で行動するわけにもいかずディナは横目でその姿を追うだけだった。
しかし数日後、リオが行方不明となった。
お読みいただきありがとうございます。
まだ第三章全然書けてないので、途中からペースめちゃくちゃ落ちる可能性大です。
申し訳ないです。
次回もよろしくお願いします。