第二十一話
あれから数日、ロゼリアは周囲から「以前のロゼリア、それ以上に気品に満ちている」と囁かれた。
優雅な立ち振る舞い、洗練された言葉遣い。
彼女のミルクティー色の髪が揺れるたび以前に増して艶めき、あの時の彼然り、一部の男子生徒たちが嘆くほどだった。
リオの周りには相変わらず令嬢たちが群がっていたが、ロゼリアはそれにすら微笑みを向けることができた。
「あら?その髪留め、見つかったのですね…!
あなたの落ち込みようと言ったら…とても心配でしたの。」
「ご心配、ありがとうございます。
…この子が導いてくださったのかもしれません…なんて。」
「まあ、何かいいことが?
近頃のご様子、とってもお綺麗でいらっしゃるものね…!」
「ふふ、…何かがあったとしたら…また今度、こっそりお話ししますね。」
ロゼリアもまだ14歳の少女だ。
友人たちとの会話に花を咲かせ、笑い合うこともある。ようやく彼女の手のひらに、そんな日常が舞い戻りつつあった。
「ロゼリア」
ふと、誰かの呼ぶ声が聞こえた。
振り返るとロゼリアは、驚きのあまり口元を手で覆ってしまった。
「っ、り、リオ、リオ=エスペール様…!?
どうなさったのですか…!?」
まさか、あの群衆をかき分けて、リオがロゼリアの方へと近づいてくる。
周囲はひそひそと、二人に視線を注ぎ、囁き合った。
「エスペール?リオ様の新しい家名…?」
「ええ?公にはされていないはずでしょう?」
「それにあのご令嬢の名前…!わたくしが先に呼ばれるはずだったのに…!」
そんな野次には耳を貸さず、リオは中庭を軽くしゃくり、少し歩こうとロゼリアを誘い出した。
中庭を二人の歩く姿は、まるで絵画のようだったと、のちに生徒たちは語った。
しばらくすると、リオは振り返りロゼリアへと向き合った。そして口を開くも、彼にしては妙に歯切れが悪い。
「その、あー、…聞き齧ったことで恐縮なのですが…。」
「はい、なんでしょう?」
ロゼリアの目は希望に満ちている。
これからどんな言葉が降ってこようと、ロゼリアには受け止める覚悟があった。
「…ロゼリア、あなたが昔孤児院にいたというのは、本当でしょうか?」
その瞬間、ロゼリアの顔から笑みが消えた。
彼女は素早く視線を落とし、その表情を見られまいとしながらも、背筋を伸ばし気丈に振る舞った。
「…申し訳ございません。
体調が優れないので、医務室へ参ります。ごきげんよう。」
ロゼリアは踵を返し、足早にもと来た道を戻っていった。
リオは付き添おうと言いかけたが、ロゼリアの後ろ姿はもう、手を伸ばしても届かないほどに小さくなっていた。
お読みいただきありがとうございます。
ロゼリアはリオの1つお姉さんですね。
次回、アーセルにっこりです。お楽しみに。