第二十話
ロゼリアは慌てて涙を拭い、いつものロゼリアであろうとした。
だがリオは、その笑顔を一瞥もせず、ただまっすぐに彼女の隣へと歩み寄った。
「何か、探し物ですか。」
相変わらず、口調は素っ気ないけれど。
ロゼリアの姿は、今はっきりとリオの目に映っている。その事実が、何もよりも彼女の影を晴らしていった。
「その、いつもつけている髪留めを、落としてしまって…。」
するとリオは、服が汚れるのも構わず地面に膝をつき、辺りを探し始めた。
「お、おやめください!お召し物が汚れて…っ!
わたくし一人で大丈夫ですから…!」
「二人で探す方が早いでしょう。
もう夕方です、日が暮れる前に見つけましょう。」
黙々と茂みを探るリオの姿を、ロゼリアは倣うしかできなかった。
なぜ、どうして。
リオはいつだって周囲に無関心で、何も見ようとはしなかったのに。
ああ、でもきっと気まぐれだ。
それでも自然と、ロゼリアの心に一雫の温もりが波紋を描いていった。
「…リオ=ギルドラ様、こちらの草の陰も…。」
「今は、エスペールです。」
おそらく公的な場面以外で、リオは初めてその名を口にした。
リオには家名への執着などわからない。
それでも、片隅でずっと燻っていた。
「…以前、シュシュエールの名が呼びづらいと言ってあなたを怒らせてしまった。
何も考えずに…その、…ごめんなさい。」
すぐに地面へ視線を落とし、何もなかったように草むらを分けていったが。
リオは確かに、ロゼリアの目を見てそう言った。
ロゼリアは目を見開き、髪飾りのことを脳裏から手放しそうになる。
もう、何ヶ月の前の話だった。
終わったことだと思っていたのに。
今更だ。それでも。
「わ、わたくし、あの時は家名を侮辱されたものと思い込んでつい、あんな態度をとってしまったけれど…。
あなたに悪気がなかったことは、今ならわかっています…!
それに、もし…もしも、まだシュシュエールの名で舌を噛みそうなら…どうか、ロゼリアとお呼びください。」
「…検討します。」
そうして二人は、再び髪留めを探し出した。
数分後。
「あった。」
リオは髪留めについた土をハンカチでそっと払いのけ、ロゼリアへと手渡した。
それは小さいけれど可愛らしい、バラの形の髪留めだった。
「あ…!ありがとうございます…!
これ、母からいただいた大事なもので…!
本当に、本当にありがとうございます!」
ばあっと咲いた笑顔は、今まで見せてきたそれとは全くの別物で。
リオは、その笑顔を確かに知っていた。
お読みいただきありがとうございます。
ロゼリアもシュシュエールも言えるのにロゼリア=シュシュエールは言いにくいです。
次回、ロゼリアが女子トークします。お楽しみに。