第十九話
一年が巡り、進級の季節となった。学園の教師陣にもちらほらと新しい顔が増えている。
真新しい制服に身を包んだ新入生たちも、期待に胸を膨らませていた。
【神の目】がいるという、歪な期待に。
あの日の毒は、未だ令嬢たちを蝕んでいる。
学園内ではところ構わず、リオを見つけるや否や周辺に人だかりができた。
神の目であるリオ、容姿端麗なリオ。
彼女たちの心に火をつけるには十分すぎる理由だろう。
「わたくしこそ、リオ様の婚約者に相応しいです!」
そんな騒音が、連日リオの鼓膜を叩いていた。
今年の新入生は、どうにも肝が据わりすぎているようだ。
「…また…、あの方を見ておられるのですね。
無礼を承知で申し上げますが、あなたのような方が…。あなたが、そこまで憂う理由が、僕には…理解、できません。」
視線の先には、いつもリオがいた。
今はもう、群衆の頭越しにしか、見つめることもできないけれど。
周囲からなんと言われようとも、ロゼリアの目に映るのはリオの姿ばかりで。
「…理解していただく必要はございません。
わたくしは、幸せですよ。」
男子生徒の顔が、歪んでいく。
ロゼリアの葛藤も、己の葛藤も、痛いほどに理解してしまった。
それ以上は、何も言えなかった。
ふと一瞬だけ、リオと目が合った気がした。
すぐに背を向けてしまったから、思い過ごしかもしれない。それでも、ロゼリアはほんの少しだけ、微笑んだ。
その日の昼食時、談話室にて。
一番ふかふかなソファを陣取りながら、アーセルは天井を見上げていた。
「君さ、リオのためにーとか、リオを守れるのは私だけーとか豪語してなかった?
それが何?リオは君のことなんとも思ってないって言ってたよ。何も変わらないじゃん。」
「…申し訳、ございません…。
その、なに分、ご本人との接触以外に、方法が見つからず…。」
震えながらも言い訳をするロゼリアを、アーセルは壊れたおもちゃを投げるように、もう興味がないと言いたげに、大きく息を吐いた。
「接触回数多ければ好感度増すって嘘じゃん…。
いいや、もう。君じゃリオは願わない。
あとは勝手に頑張って。」
一人取り残された空間で、ロゼリアはただ立ち尽くすしかなかったが、やがて、ゆっくりと歩き出した。
その数刻後、
リオが帰宅するために学園の庭を進んでいた時。
目の前の茂みがガサガサと動いているのが目に止まった。
なんの気まぐれか、リオはその茂みに近づくと、見覚えのある令嬢がいる。
リオの気配に気付き振り返ったその人は、目に涙を溜め、必死に何かを探しているロゼリアだった。
お読みいただきありがとうございます。
ニコニコしてる人ほど怖い。
次回、青春じゃ〜〜!お楽しみに。