第十七話
あの日を境に、ロゼリアの目に野心が灯った。
リオのこと、ギルドラ家のこと。
彼女が手を伸ばせる限りの情報を洗い出し、あらゆる知人・旧友へと手紙を綴った。
しかし現実は甘くはないことを、彼女は思い知るだけだった。
「やはり何も…見つからないのですね…。」
ロゼリアは手紙の束を握り締め愕然とした。
リオという人が世間に認知されてから今現在に至るまでの、彼の軌跡。
それらがあまりにも少なすぎる。
リオが孤児だったこと。
ギルドラ男爵の後継としての紹介式で失態を犯したこと。
その後、学園へ入学したこと。
ほんの数週間前に、ギルドラ家が、没落したこと。
それでも学園に所属し続けている事実から、リオがギルドラとは別の爵位ないしは家名を賜っただろうということ。
この国で貴族として生きていれば、誰もが耳にするような、ほんの上澄みばかりだった。
「…アーセル様に、相談しなくては。」
もはやロゼリアが頼れるのは、アーセルだけとなっていた。
「うーん、リオの新情報?僕もリオにはあんまり構ってもらえないからな〜。」
紅茶を啜りながら、のんびりと答えるアーセル。
それは予想していた通りの反応でも、今のロゼリアにはもどかしくて仕方がない。
「そうだな〜…、ディナ、何か知ってる?」
「…個人情報を容易に広めるような真似は、あまり感心しませんね。」
その言葉に、ロゼリアはぎくりとたじろいだ。
わかっている。どれほど自分勝手な理由で、他人の領域に足を踏み入れようとしているか。それでも。
「…わかっています。わたくしが、いかに自分本位か。
そんなことは承知しています。
だけれど、わたくしにはもう…っ」
何を口走ろうとしたのだろう。
己の保身のために出かかった言葉を抑え込むように、ロゼリアは咄嗟に口元を覆った。
そんなロゼリアの姿を、表情ひとつ変えずにアーセルは眺めていた。
「うんうん、そうだよね。君はリオのために必死なんだもんね。
…ディナ、これは人助けだよ?」
ディナの瞳が、ほんの僅かに揺れた気がする。
不本意だと言いたげに目を伏せたのち、それでも彼は口を開いた。
「…リオ様の住まいは存じ上げませんが、当面は王宮が保護する、との噂を耳にしております。」
その夜、ロゼリアは一人、宙に話しかけていた。
「王宮が…保護…?そうであれば生活面に問題はない…。だけれど、ディナ様でさえ知らないお住まい…誰も…?
それなら、彼はまた、ずっと一人なの…?
私は…何を…。」
突然、ロゼリアの頬に熱が戻った。
自分にしかできない。自分だけが理解者になれる。
「わたくしが、守らなくては…!」
彼女はそう信じて、疑うことはなかった。
お読みいただきありがとうございます。
手紙どころか最近はペンを持つことすらないです、字の書き方忘れてます。
次回、のほほん回です。お楽しみに。