第一話
始めました。
人間のメンタルが崩壊していく話が好きです。
中世ヨーロッパ風の世界観で、現実社会の片隅にある物語を書く予定です。よろしくお願いします。
雪が溶け、暖かな陽が顔を見せ始めた頃、
少年は公園の日向をぐるぐると追いかけていた。
母の手の温もりも知らない、小さな子ども。
その目は公園の出入り口を気にしながら、
時折、もう数週間もすれば花でいっぱいになるであろう花壇を物色していた。
「…あ、来た。」
マフラーに顔を埋め、温かそうな帽子を被ったまだ小さな女の子を先頭に、色とりどりの衣服に身を包んだ子どもたちが、彼女たちなりの精一杯の速さで、少年の元へ駆け寄った。
「…今日は何する?」
「これ!絵本!読んで!」
「…ああ、これか。」
ほんの少し、少年は顔を顰めた。
遊んだ方があったかいんだけどな、と呟くも、その声は子どもたちには届かない。
「わかった、それじゃ、いつものコレね。」
チャリン…と小気味良い音が、リオの目の前の小さな空き缶で小さく響く。
やがて音が途切れた頃、リオはページを捲り出す。
「むかしむかし、神様が世界を作った頃のお話です。神様はたくさんの宝物を持っていました。とても大事にして、宝物たちとずっと一緒でした。だけどある日、宝物は神様の手を溢れて、世界中に散らばってしまいました。」
「なんで、こぼれちゃったの?」
「…神様、泣いちゃったんだよ。」
子どもたちが息を呑む。
「抱えきれなかったんだ。…だから、神様は今でも探しています。世界の果てまで、山を越えて海を越えて、ひとりぼっちで探しています。散らばった宝物をまた両腕に抱えるために。」
「見つかったのかな…?」
ぎゅっと手を握りしめて、ある女の子は尋ねた。
リオはそっと目を伏せ、首を横に振る。
「まだ、だと思う、…だって、」
彼はゆっくりと目を開けた。長い髪の奥、その瞳に暖かい陽が差し込む。
「だって、もし見つかったなら、きっとこの世界は…もう少し、優しいはずだから。」
子どもたちはリオの言葉に聞き入った。言葉の意味なんてわからないけれど、悲しい声色は届くものだ。
ふう、とリオがため息をつく。
それを合図に、1人の子がそっと呟いた。
「じゃあさ、リオも宝物なのかな?」
「どうかな…、そうなら、いいな。」
リオは少しだけ笑った。
けれどもその笑みは、どこか遠くに向けられているようでもあった。
「…神様は、きっと幸せだよ。」
まだ、春は先だ。
神様は、今日も宝物を探してる。
自分の手で、世界中にばら撒いた宝物を…。
読んでくださりありがとうございます。
小さい頃読んだ絵本で心に残っている作品はありますか?私はからすのパンやさんです。
次回、リオがご飯食べます。お楽しみに。