バ美肉の憂鬱と変わる世界
ーーー「みんなー!今日も来てくれてありがとう。また明日もいつもの時間に来てね!それでは、[おつかぶり!、]バイバーイ!」
……そっと配信終了ボタンを押し、私/俺はため息を吐き出す
どんな姿も自由自在。好きな姿で好きな事を配信するスマートフォンアプリ‐Rea・Tube‐でねこかぶり。という女の子のアバターで配信をしている
ボイスチェンジャーを利用して女のコになりきっているがバリバリの男である。
何故女の子で?そんなの男より可愛い女の子の方が人気出るだろうという安直な考えである
たまたまインストールしたのが2月22日だったからと安易にキャラ設定した結果が今の姿で、みんなー!などと言ってはいたがぶっちゃけリスナーは居なかった、いつもの事である。現実の自分は働いてはパチンコでお金を溶かすだけの生活をしているダメ人間だ。いつかトラックに轢かれて異世界に行けたらなぁとか考えてているがそんなことがあるわけがない。
SNSでアプリの存在を知り何となく始めてみた。始めた当初は色々な人が来てくれてリスナーや友達のような配信仲間も出来ていた、しかし半年を過ぎ徐々に挨拶だけして消えていく人ばかりになり初見もなかなか来ず、1年経った今では入室すらほとんど無い。「ま、所詮これが底辺配信者だよなぁ」と呟きながらいつものようにぼーっとSNSを眺める。投稿されている漫画や動画を見ているとある投稿を発見する
「新ゲーム!配信アバターでバーチャル世界を楽しもう!ゲームや冒険をしながらVR世界でそのまま配信もできちゃう![バーチャルワールドオンライン]明日21時よりサービス開始!VWOで皆楽しもう♪」
3ヶ月前に発表され少し楽しみにしていたがもう明日なのか、これは腐っても配信者として初日からログインしなくては、そう決めて俺は寝る準備をする。明日も普通に朝から仕事なのだ「仕事終わりの楽しみが出来たな」と呟き布団に入ると意識はすぐに遠のいて行った、、、、
次の日。仕事終わりに電気屋に寄りVR用の機材を購入して帰り軽く食事を済ませてからパソコンや環境を整えながらダウンロードをする。どうやら10分前から配信しながらの待機が出来るようだ。初めてのVRゴーグルを被り配信をつける。
いつもの真っ赤な髪にねこみみの付いた可愛いアバターに身を包む「へぇ、VRってこんな感じなんだぁ、さて、みんなどうしてるかなぁ」とフレンドのオンライン状況をなれない手つきで開く「お、あの人もログインしてる、えっあの人くるやめてなかったのか、とゆうかみんなやっぱ配信つけてるよなぁ、、、」数少ないリスナーとしていつも来てくれる人達も配信中。つまり誰も来ないであろうという現状をいつものことだと飲み込みサービス開始までのカウントダウンを眺める。
10秒前!と軽快なアナウンスが流れカウントダウンが始まる。誰かいればコメント欄は数字だけなんだろうなぁと思いつつとうとうサービス開始時間となる。すると唐突に光が激しく点滅しザーーーー!と大きな音が鼓膜を突く。「わぁあぁあ!」と間抜けに叫ぶと慌ててゴーグルを外そうとする。するとあるはずの頭にVRゴーグルが触れない。これはおかしい、いくらVRとはいえ所詮映像だけのはずだ五感をキャンセルしてゲーセンに入るようなフルダイブなんて漫画やアニメでしかない技術だ、現実にあるわけがない。だが実際今起きている身体や周りの変化はよく聞くフルダイブ状態でしかない。「な、で、は?え?」と混乱していると光も音も落ち着き足元には草が生い茂り(比喩では無い)目の前には草原に続く道と街が見え、心地のいい風が吹いている。「フルダイブなんてあるわけが無いしそもそも買ってきたのも安物のVRゴーグルだ、そんな隠し機能があるわけがない。しかもこの風に土の匂い、まさか、いやそんなことが?」何度も思考を重ねるが同じ答えにしか辿り着かず遂に叫んでしまう「異世界転生ってことですかぁぁぁぁ!!!?!?!」
ピコピコと動くねこみみや尻尾、40cmは低いであろう身体に慣れないままふらふらと街へと歩きながら呟く「まさか本当に異世界に来れる日が来るなんて、しかも自分で作ったアバターでだなんて夢だったら覚めないでほしいな」先程気づかなかった違和感をおぼえる。「って、なんでボイチェンは無くなって声が男のままなんだよ」美少女の体から男の声を出している事実にさらに困惑しつつおもむろに視界に映る2つのスイカを揉んでみる。「自分で作ったとはいえこう見ると馬鹿でけぇ胸だよなぁほんと誰かにも言われてたけどこれじゃ奇乳だな、」止まらない独り言を呟きながら歩きつずけ街の入口まで到着する。視界の端の赤い丸の点滅に気づくのはもう少し後の話である
ザワザワと活気溢れる街の中へ踏みこもうとすると、重装備の門番に止められる。「ここは首都アリティだ。貴様名前は?」俺はどう名乗るか悩むと「俺の事は[かぶり]とでも呼んでくれ」と配信中のあだ名を告げる。門番は少し驚いた口調で「お前、小柄な獣人のメスような見た目で男みたいな声と喋り方だな」と、怪しむ声をあげる「身分証は何か持っているか?」と聞かれるが生憎さっきこの世界に来た俺にそんなものは無い「えっと、何も無いんだけど入るのは無理なのかな?」と聞くと門番は目を細めると一瞬目が緑に光った気がする。すると「まぁいい、多様性がこの街と王のポリシーだ。どうやら怪しいものも持ってなさそうにみえる。入っていいぞ」なんかスキル的なもの使われたのだろうか、そんなのがあるなら俺も使いたいなぁ、、、と思いながら「あ、ありがとう」と伝え門をくぐる。後ろから「ここではいいが他の街では必要になる事もあるだろうから冒険者ギルドか商業ギルドにでも行って登録するといいぞー!」と門番が叫びながら手を振ってくれる「ありがとう!行ってみるよー」と手を振り返し街へと進んでいく。視界の端の赤丸の点滅気付くのは少し先の話だ。
‐こいつ順応性早いな‐
‐裏山けしからん状況だな‐
‐てか絶対配信中なの気づいてなくて草‐
‐今北産業…って街入ってるやん‐
‐他より圧倒的に早く順応。絵に書いたようなバ美肉。多分最速で街に入ってる。‐
‐解説ありがとナス!ここからに期待やね‐