プロローグ第2章 事件後
怨霊武者事件解決後。
堺県のとある警察署の取調室にて。
「いやまさかね。捕まるとは思わなかった」
一人の男が取り調べを受けていた。
顔からして四十代後半から五十代前半くらいの男だ。
男は余裕の表情で取り調べ担当の警察官と向き合っている。
それだけ犯罪の場数を踏んできたが故の余裕……もあるかもしれないが、どこが諦めの感情も含んでいる顔だった。
「いろいろあって家をなくして以来、苦肉の策で泥棒を始めて様々な家――留守であったり、住人が避難しなくちゃいけないような大きな事件が起きたために住人がいなくなった家とかから調度品を……それこそ家の住人でさえも後から気づかないように注意しながら盗み続けて、もう二十年近くは経ったか。そんでもってそんな生活を全国規模で続けてきたというのに……ここらが年貢の納め時ってヤツかね」
男は泥棒だった。
しかも火事場泥棒だった。
殺人などではないものの……犯罪は犯罪だ。
にも拘わらずなぜ男はそこまで余裕でいられるのか。
対面している警察官は不思議でならなかった。
「いやホント……まさかあそこで怨霊武者に遭遇するとは思わなかったね。
事件が起きてる中、連中の動きを高みの見物で隠れて確認して。それでしばらく連中が近寄らないと思った家で物色している時だったよ。足軽だったけど……その怨霊武者が現れたのは。
えっとなんだっけ? 名のある武将はそれなりに人格を持ってたんだっけ?
一方で、足軽にはそこまで人格はないと。一言で言えば、操り人形みたいな感じだっけ?
とにかくそんな足軽と家の外で鉢合わせしてさ……いやぁビビったね。
足軽は操り人形で人間らしさがないからさ。その顔もまた怖かったけど……躊躇なく俺を襲ってきたあの動きもまた怖かったね。まるで殺人マシーンだったよ。
そんでその後ね、なんとかその場から逃げたよ。
いろんな家から頂戴した戦利品が途中で落っこちたり、足軽の振るう武器で壊れたりしたけどなんとか逃げたね。
そんで俺が追い詰められた時だった。
足軽が武器を振り上げてさ、俺は咄嗟に横に避けたね。
まだ避けれる余裕があるほど、道のスペースに余裕があったんだ。
するとだよ、足軽は俺の背後の物を切っちゃうワケでしょ? そこからなんだよ問題は。
その後、足軽は俺の背後にあった……壁に武器をめり込ませちゃうんだけど……この後いったい何が起こったと思う?
なんと。
足軽がそこで武器から手を離して、頭を抱えて絶叫したんだ。
俺は一瞬、何が起こったのか分からなかったね。
だけど、ゆっくりと背後を……暗かったし、逃げるのに必死でちゃんと確認していなかった逃げた先を確認したら。
あの『匝枢館』の周りをぐるっと囲んでいる塀だったよ。
いったい何が起こったのか。
それは今となっても全然分からないけど。
でもとりあえず逃げる隙ができたから逃げようとして……あとはご存じの通り。
その足軽はたまたま通りかかった特命遊撃士にやられて。
そんで俺はその特命遊撃士についでに怪しまれて御用になったってワケ」
そこまで話すと、男は溜め息をついた。
かと思えば、真剣な表情を目の前の警察官に向けた。
「なぁねーちゃん、正直に全部話したんだから少しは刑期を減らしてくれよ。
というか窃盗はやったけど物を壊したのは俺じゃねぇって。物を壊したのは足軽の方なんだよ」
「いやどっちにしろ盗みなんて余計な事したから壊れたんでしょうが」
怨霊武者という人知を超えた存在……しかも最終的には警察、自衛隊、人類防衛機構の防人の乙女、そして霊能力者の活躍によって殲滅できた存在が関わっているため、男の言う足軽が男を襲っていた事を証明するのはもはや不可能。
塀の破損も、前からあったと言えばそれまでだ。
なので男が物を破損させたのか否か……その辺りの判断がつきかねる、正直頭が痛くなる案件だった。
故に思わず警察官――かつて人類防衛機構に所属していたOGである女性の警察官はその声に思わず怒気を込めていた。
しかし、同時に彼女は疑問に思う。
もしも男の言う事が事実だったとして……その足軽に何が起こったのかを。