98_本体の在処
「――遊びは終わりだ。容赦はせぬ、人間ども。一網打尽にしてやる」
地鳴りのような声が大地に響く。ひび割れた天使の魔物の身体から、漆黒の球体が現れ、ギラリと不気味な光を放ちながらダンテたちを睨み据える。次の瞬間、その球体が身体の一部を変形させ、鋭利な針のような突起を伸ばして一気に襲いかかってきた。
「来るぞ!」
ダンテの声と同時に、ギルドの剣士たちは散開。素早く回避行動を取るが、数名が回避しきれずに針の一撃を受け、呻き声を上げて倒れ込む。傷口からは黒い霧のようなものが漏れ出し、見る間に彼らの身体が痙攣を始める。
「くっ……あれはただの攻撃じゃない」
眉をひそめるダンテ。その横で、テラも険しい表情を浮かべていた。
「マゴを流し込まれてる……下手をすれば、あのまま魔物にされる」
悲鳴が上がる中、一人の少女が音もなく駆け出した。ルーシェだ。彼女は苦しむ剣士のもとに膝をつくと、すぐに両手をかざし、淡い光を放ち始めた。
「私の出番ね。絶対に、救ってみせる!」
彼女の回復魔法は、これまでならば魔族の力を取り除くことはできなかった。だが今は違う。妖精の泉の成分を解析し、新たに編み出した浄化の術。その光が剣士の体に染みわたり、内部に潜むマゴを浄化していく。
やがて、苦悶の表情だった剣士の顔から苦しみが消え、穏やかな呼吸を取り戻す。
「よし……間に合った」
ルーシェが小さく息をついたとき、ダンテはすでに戦場の空気を再び読み直していた。あの球体……どこかで見たような感覚が頭をよぎる。
(……エウノキ村で戦った、あの目玉の魔物だ!)
ダンテはその時の記憶をたぐり寄せる。前回、目玉の魔物は、本体ではなかった。ならば、今回も……。
「マナ感知」
目を閉じ、意識を集中させるダンテ。球体から発せられる禍々しい力と、同質の気配を探る。
そして、彼は感じる。はるか遠方、数十キロ先から放たれる、同じ波動を。
「いた……!」
ダンテが目を開け、まっすぐにその方角を見据える。テラが隣で小さくうなずいた。
「その顔……見つけたんだね、親玉を」
「ああ、あの本体を倒さない限り、この魔物は止まらない」
「僕も行かせてくれ。アイツには、どうしてもケリをつけたい」
「もちろんだ。2人で終わらせよう」
ダンテは一歩前に出て、仲間たちに向き直る。
「すまない! 俺たちは本体を叩きに行く。この場は任せた!」
その言葉に、ワイトが口元に微笑を浮かべながら、静かに刀を納めた。
「安心してください。ちょうど、この目玉の化け物は――倒したところです」
その直後、球体にぱっくりと裂け目が走る。空間を裂くような鋭い一太刀が、球体の中心を真っ二つにしていた。
「ば、馬鹿な……!」
驚愕の声をあげる球体。すでに、目玉の魔物との決着はついていたようだ。
「さ、さすが……。やっぱりすごいな」
ダンテも、ワイトの圧倒的な技量に息を呑む。
「私たちは、先に光の柱に向かいます。また上の階層で会いましょう」
ワイトは、遠くに輝く光の柱を見つめながら静かに言う。
「ああ、必ずまた会おう」
ダンテはメイテツから生み出した槍を構え、意識を集中させる。遠方に感じられる禍々しい気配。その源に向け、狙いを定める。
「行くぞ……!」
風を裂く音とともに、槍が轟音を立てて放たれた。目指すは、遥か彼方、魔族の本体が潜む岩山――。




