96_天使のわな
天を優雅に舞いながらゆっくりと迫りくる十体の天使のような姿をした魔物。白い翼を広げ、金の輪を頭上に浮かべたその姿は一見神々しい。だが、その瞳には感情も理性もなく、ただ冷たい殺意が宿っていた。
「来ます!あの輪っかには気をつけてください!」
ワイトは、天使たちの殺意をいち早く感じ取りダンテたちを含むギルドの剣士たちに警告する。
一体の天使が滑るように前方に進み出ると、鋭く指を突き出した。その指先が、剣士の一人を正確に射抜くように向けられる。同時に、天使の頭上の光輪が怪しく輝き、音もなく宙を滑るようにさっと動き出した。
「来るぞ、避けろ!」
ダンテが叫んだ。だが、剣士は動けなかった。想像以上の速度で、空から迫る光輪に戸惑い、反応が一瞬遅れる。
「輪っかを叩き落としてください!」
ワイトが叫ぶも、すでに遅かった。
光輪が剣士の頭上に触れた瞬間、激しい閃光が周囲に迸り、剣士の身体が硬直する。次の瞬間、彼の皮膚が蒼白に変色し、背中から羽が生え、光に包まれながら宙へと浮かび上がる。
「……天使にされただと……!?」
天使へと変貌を遂げた剣士は、そのまま味方に剣を向け、無感情に刃を振るった。隣にいた剣士が咄嗟に防御し、火花が激しく飛び散る。
一方で、輪を失った元の天使は羽ばたきをやめ、まるで糸の切れた人形のように地に堕ち、動かなくなった。
「そうか!」
ダンテは目を見開く。
「あの輪っかが本体なんだ、きっと!頭に触れた瞬間、意識ごと乗っ取られているんだ!」
「ええ。ダンテさんの推察通りです。天使の体ではなく、あの輪っかこそが天使の魔物の本体です」
ワイトが頷き、答えた。
「この魔物を倒す方法は、あの輪っかを破壊するしかありません。ただし、輪っかに頭の上に乗せられたらアウトです」
テラが息を呑み、声を震わせる。
「まじか……。また、厄介な魔物だね」
「じゃあ、天使された人は……もう戻れないの!?」
ルーシェはワイトに、問いかける。
「……戻せる方法は、今はありません」
ワイトの声が重く響く。
「あの天使たちは、……かつてこのダンジョンに挑んだ者たちなんです。今もなお、あの姿にさせられダンジョン内を彷徨わされています」
ワイトの言葉に一瞬、周囲は沈黙する。輪っかによって天使に変えられてしまったものは元にはもう戻れない。その重く、苦しい現実がダンテたちにのしかかる。だが、ダンテの瞳にはもう迷いはなかった。
「……わかった。なら、もう誰も奪わせやしない」
彼は左腕を剣に変形させ天使の群れに向かって歩き出す。テラもルーシェも、彼の背中を追うように歩いた。
すると――
天使たちは一斉に、ダンテたちに視線を向けると、全員が同時に指を伸ばした。
「また、光輪が来るッ!バラけろ!」
ダンテが叫ぶ。
次の瞬間、十の光輪が空に浮かび上がり、狙いを定めて一斉に滑空してきた。その軌道は速く、鋭く、まるで殺意の刃のように彼らの頭上を狙っていた。
「輪っかを絶対に頭の上に乗せさせるな!」
ダンテは跳び上がり、迫る光輪を剣で一刀両断した。火花が散り、輪は地に落ちて消滅する。
ルーシェは、輪っかの周りにシールドを展開し閉じ込めると動きを止める。テラは光の剣を作り出し接近してきた、輪っかを回避するとその光の剣で切り裂いた。
ーーダンテたちが天使の魔物と対峙していた頃。
「この気配、ようやく来たか。人間ども。そして、あの男、ダンテ。あの時の屈辱を晴らさせて貰うぞ」
彼らがいる草原から数十キロ離れた場所で、彼らのマナを感じ取り、一人の魔族が腕組みをしながらほくそ笑む。




