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94_俺たちのダンジョン攻略へ

 ケトラとの戦闘後、タナの死がペンタゴンの剣士たち全員に伝えられた。タナは多くの剣士に慕われており、皆が彼女の死を悼んだ。泣き崩れるものもいる中、妹であるルーシェは、そういう素振りを見せず、普段と変わらぬように振る舞っていた。


「ルーシェ、大丈夫?」


 テラは、そんなルーシェが逆に心配になり声をかけた。それに対してルーシェはどこかぎこちない笑顔を浮かべて答えた。


「大丈夫よ、テラ!お姉ちゃんがいなくても私は大丈夫!大丈夫だから!私は誰だと思ってるのよ!本当に心配しなくてもいいから!だから、私のこと、構わなくてもいいわよ!」


 そういうと、ルーシェはテラから距離をとるように立ち去っていく。


「ルーシェ……」


 テラは彼女の遠ざかっていく背中を見て、心配が滲み出た表情を浮かべる。


 彼は、構わなくてもいいと言われたものの、ルーシェのことがやっぱりほっとけなくなって、彼女の後をバレないように追った。


 ルーシェは、一人廃墟と化した建物の裏側に向かった。


 ガタン!


 すると、ものが激しく崩れ落ちる音がした。何事かと慌ててテラは、角に隠れながら建物の裏側をそっと覗いた。


 椅子や棚のようなものが、地面に乱雑に転がっていた。廃墟となった建物の家具が、裏側に並んでいたのかもしれない。それがおそらく彼女が、やけになって倒したのだろう。


 ルーシェは、壁に背中を付けて、両足を折り曲げながら、俯いて溢れ出る悲しみを抑えられず止めどなく涙を流していた。


「ルーシェ、やっぱり……」


 テラは、たまらず悲しみに暮れるルーシェのもとに、行こうとした時だった。テラの肩に誰かが手をそっと置き、彼を止めた。


 さっと、テラは、振り向くとそばには真剣な表情で彼女を見つめるダンテの姿があった。


「彼女のことは構わなくていい。一人にしといてやれ」


 ダンテは、テラに落ち着いた口調でそう言った。


「でも、あんなにも、彼女は悲しんでるのに、何者かしないなんて僕には……」


 テラは、拳をぎゅっと握り躊躇していると、テラの肩を握るダンテの手に力が入るのを感じた。


「俺も、できればルーシェに声をかけたいよ。彼女を助けたい。だけど、彼女はタナに託されたんだ。後のことをな。タナに託されたことを無碍にするような人間じゃない。それに、ルーシェは強い女の子だ。このまま、悲しみに負けるような子じゃない。俺らは信じて待とう。悲しみを乗り越えていつもの彼女が戻って来ることをな」


 ダンテの言葉に、テラは納得しルーシェのもとに行くのを止めた。


「そうだね、ダンテの言う通り。今、僕たちができるのは、彼女を信じて待つことだけなのかもしれないね。彼女の悲しみを乗り越えられるのは、彼女だけだもんね」


「ああ」


 ダンテとテラの2人は、ルーシェのことを信じてその場を立ち去った。


 一人残されたルーシェは、悲しみに暮れるながら自分を責めていた。


 私を庇ったせいで、お姉ちゃんは……。私は、守るのが仕事なのに、お姉ちゃんを守れなかった……。私がいなければ、お姉ちゃんは死なずに死んだのに……。全部、私のせいだ、私のせい……私のせいだ。


 彼女は、虚勢を張って生きてきた。自分の劣等感を隠すように、強い自分を演じてきた。それは、弱い自分を受け入れる事が今までできなかったから。弱い自分を何よりも嫌っていたからだった。


 彼女はそのことを今まで自覚できてはいなかった。無意識でそうやって生きてきた。だが、自分を庇った姉のタナを失ったことで、ようやく自分が虚勢を張って生きてきたことに気づいたのだった。


 そうだ、いつもそうだ。私は、ずっと自分の弱さから逃げて生きてきたんだ。自分の弱さと、向かい合うこともせずに。


 ふと、ルーシェは、タナが最後に言い残した言葉を思い出す。


「ルーシェはルーシェにしかできないことがある。だから強く生きて」


 ルーシェは、さっと顔を上げる。空は変わらずその純粋な青さを持ってどこまでも広がっていた。


 私にしかできないことってなんだろう。強く生きるってなんだろう。


 彼女は、目を閉じて胸に手を当てて自分の心に問いただした。


 私にしかできないことは、きっと私がしたいことをやることだ。私には、守りたいと思う人たちがいる。私にしかできないことは、みんなを守ることだ。自分の弱さに打ちひしがれている暇はなかった。もうこれ以上、私の目の前で誰かを殺させやしない、絶対に。


 ルーシェは、目を開けると立ち上がった。彼女の目には、今までにない純粋な決意が宿っていた。


 ※※※


 ーーダンジョン攻略に向かう当日。


 ダンテたちは、ダンジョンでの戦闘に備えて広場に集まっていた。


「ダンテ、ルーシェの姿がまだないよ」

 

 テラは、周囲を見渡しダンテに話しかけた。


「大丈夫だ。ルーシェなら必ず来るよ」


 ダンテはそうテラに答えると、近くから声がした。


「なに、2人で話してるのよ!もしかして、私の話でもしてた?」


 2人に話しかけたのは、ルーシェだった。前とは違うどこか、殻を破った彼女のたくましい姿を見てダンテは、安堵の笑みを零した。


「どうやら、元気になったようだな、ルーシェ!」


「ええ、もちろんよ、ダンテ!」


 3人は、天高くそびえるダンジョンの方を見た。


「いよいよ、ダンジョンに向かうんだね」


 テラは、ダンジョンを見ながら呟いた。


「ああ」

「ええ」


 ダンテとルーシェは決意のこもった声で答えた。


 ペンタゴンの門が開き、前方にいる剣士たちがダンジョンの方に向かって歩き出す。


「行こう、俺たちのダンジョン攻略へ!」


 ダンテがそう言って歩き出すと、彼の背中を追うようにテラとルーシェは歩き出した。

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