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93_苛立ちと悲しみ

 ルーシェの悲鳴が静寂したペンタゴンの街に響く。 


「ぐっ……」


 タナは、ケトラに貫かれてもなお、強靭な精神力で意識を保ちルーシェの前に辛うじて立っていた。それが風前の灯であることをタナは自覚していた。ルーシェに向かって真剣な表情を浮かべ、こう言い残した。


「ルーシェ、愛してる。あなたは強い子だ。どうか、ルーシェにはルーシェにしかできないことがある。だから、強く生きて……」


 そう言うとタナは微笑みを浮かべ、瞳を閉じるとバタリと地面に、倒れこんだ。


「お姉ちゃん、いや、死なないんで、ねぇ、お願いだから……」


 ルーシェは、ブワッと瞳から涙を流しタナの下へと寄って悲しみに満ちた声をかける。だが、彼女の呼びかけにタナは答えることはなかった。


「彼女は、私の一部、筋肉となる。光栄に思うといい」


 タナを貫いた腕からニョキニョキとケトラの顔が現れて、悲しみに暮れるルーシェに話しかける。


 すると、タナの体はみるみるうちにケトラの腕に飲み込まれていく。


「えっ……」


 その悍ましい光景に、ルーシェは呆然とする。


「タナが肉体に吸収されていく……こいつをどうすれば倒せるんだ」


 ダンテもその光景に嫌悪を感じつつ当惑した。


 ケトラの上半身は、タナと下半身に腕を伸ばし取り込むと、元の筋肉質の体型へと姿を変える。


「遊びは終わりだ。お前たちの実力は存分に知れた。剣神の力も手に入れた。今日はここまでにしようかねぇ。君、まだ奥の手を出してないだろう。ダンジョンで待っているぞ」


 ケトラは、ダンテの方を見てそう言うと、地面に、両手を付く。そして、地面に、バキッと亀裂が入ったかと思うと、ダンジョンの方に向かって猛スピードで駆けていく。


「くそ!待て!お前はここで……」


 ダンテは、この場から立ち去るケトラの背中に向かって顔をしわくちゃにさせながら怒りの叫びを上げる。だが、そんなことはお構い無しで、建物を破壊しながら突き進んでいく。


 ルーシェは、顔に両手をやり溢れ出る涙を抑える。


「私のせいだ、私のせいでお姉ちゃんは死んだ!私は、お姉ちゃんを守らなければならないのに……。私のせいでお姉ちゃんを死なせてしまった……」


 ダンテも大切な仲間を守れなかった自分の弱さに苛立ちを隠すことが出来ず、ぎゅっと拳を握りしめる。


「くそぉおおおおおおおおおお!!!!!!」


 そう叫びながら、握りしめた拳を地面に力強く叩きつけた。


 そして、翌日、ついにダンジョン攻略に向けてペンタゴンの剣士たち一同が、動き出す。

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