92_違和感
ケトラの背中から姿を現した存在に、ダンテの振り下ろそうとしていた切っ先がピタッと止まる。
それを見た瞬間、ダンテの中で1000年前の光景が頭のなかで不意に展開される。生まれ育った村が大気を揺るがす轟音とともに、一瞬にして吹き飛び、大切な人たちを失ったあの日の記憶。その胸を引き裂くような記憶の断片にいた、おぞましい存在。
「クロノ!!!!」
ダンテは、ニヤリと笑みを浮かべるクロノの顔面に向かって怒りをあらわにする。
「どうした?ダンテ」
タナは、明らかに様子のおかしいダンテに向かって叫んだ。
「戦況を最も左右するものは、何だと思う?それは心だよ」
ケトラは、そう言うと背中の一部から槍のごとく身体が動きダンテの方に向かって飛び出す。ダンテの心は、かつての宿敵を目の前にし激しく揺れていた。そんなダンテは、咄嗟にケトラの攻撃を反応する事が出来なかった。
しまった……。
ダンテの顔面目掛けて、ケトラの槍のように飛び出した腕。その腕が彼の命を貫かんとする中、緊迫した雰囲気を打ち破るようにタナの叫び声が響く。
「そうはさせるか!」
タナは、ダンテの危機に冷気を纏わせた剣をケトラの腕に向かって振った。彼女の振った切っ先が、ケトラの腕に触れた瞬間、ケトラの身体は一瞬で凍結する。
タナのおかげで、槍のごとく変形したケトラの腕は、ダンテの身体を貫く寸前にピタリと動きを止めた。
「いけ、ダンテ!その剣でそいつを断ち切れ!」
タナは、風の剣を構えたダンテに向かって叫ぶ。
ダンテはタナの声にハッとなって、気を引き締める。
今度は断ち切る。イメージするんだ。この肉体を断ち切るイメージを。
ダンテは目をつむり、先ほどまで激しく燃え盛る怒りの感情を静かに燃えたぎる怒りの感情へと変える。そして、ケトラという悪しき存在を断ち切るイメージする。
ケトラを倒すイメージが鮮明になったところで、パッと目を開け、横一文字にさっと剣を振った。
風をまとった剣は、ダンテのイメージした通り、凍りついたケトラの身体を難なく断ち切った。
一刀両断されたケトラは、上半身が滑りガタンと地面に落ちた。
「やったわね!ダンテ」
近くで見ていたルーシェは満面の笑みを浮かべてダンテに叫んだ。
だが、ダンテは安堵の表情を浮かべてはいなかった。相変わらず警戒心を滲ませている。というのも、違和感を覚えていたからだ。
確かに切った。だけど、不思議と倒した感覚がなさすぎる。これほどの邪気を持つ魔族がこんなに簡単にやられるものか……。
ダンテが頭の中で抱いていた不安は、すぐさま的中する。
ケトラを覆っていた氷がパリンと割れると同時に切断された上半身の背中から勢いよく近くにいるルーシェの心臓に向かって先端を尖らせた腕が飛んでいく。
グサッ。
次の瞬間、グロテスクな音が響く。
思わず、ダンテは口を開けて、目の前の惨状に絶望した表情を浮かべる。彼の瞳には、タナが妹のルーシェを守るため、盾となり心臓の辺りを突き抜かれた光景だった。
ルーシェは、眼前でタナの心臓を突き抜かれ、悲しみで震えた声で甲高い叫び声を轟かせた。
「お姉ちゃん!!!!!!!!」




