88_タナとルーシェ
凍てつく冷気を纏ったタナの剣が、ケトラの肉体を捉えた。刹那、ケトラは巨大な氷柱の中に閉じ込められ、その動きを封じられた。
「終わったか……」
タナは、ようやく訪れた静寂に安堵の息を漏らし、さっと背を向けた。だが、彼女の安堵は一瞬にして打ち砕かれる。
氷が激しく裂ける轟音と共に、氷柱が内側から砕け散った。大気に舞い散る氷の破片の中から、ケトラが姿を現す。その拳には、目の前の標的を打ち砕かんとする殺意が宿っていた。
ケトラは、タナの隙を見逃さず、渾身の力を込めた拳をぐっと伸ばす。
タナは、咄嗟に防御の姿勢を取ろうとするが、その動きはケトラの速度に追いつかない。
万事休すかと思われた瞬間、タナの耳に、妹ルーシェの声が響いた。
「お姉ちゃん!私に任せて!」
ルーシェは、首から下げた勾玉に、自身のピュアな魔力を注ぎ込む。勾玉は眩い光を放ち、それに呼応するように、タナの勾玉も輝き始めた。
ケトラの拳がタナに届く寸前、ルーシェの守護の力が発動し、タナを中心に強固なシールドが展開された。ケトラの拳とシールドが激突し、火花が散る。
シールドは、ケトラの猛攻に一時は耐え忍んでいたが、次第にその表面にヒビが入り始める。
「今まで、シールドが破られたことなんてない。大丈夫、お姉ちゃんを守るのが私の役目。私には、それしかないんだから」
ルーシェは、心の中でそう呟き、タナを守ることに全神経を集中させた。だが、その願いは無情にも打ち砕かれる。今まで、一度も破られたことのないシールドが、パリンという音と共に砕け散ったのだ。
「お姉ちゃん……!」
ルーシェは、崩れ落ちるシールドと共に、タナに向かって手を伸ばし、叫ぶ。
タナは、ルーシェの方を振り返り、答える。
「逃げて、ルーシェ……」
彼女の切ない声がした直後、肉を穿つような鈍い音が響き渡った。ケトラの拳は、彼女の心臓に向かって直進する。
「お姉ちゃん!!!!」
その光景を見たルーシェは、目元から水滴をこぼし顔をしわくちゃにさせる。心底からブワッと溢れ出た悲しみが叫びとなって口から出る。
彼女の叫びが届いたのか、どこからかケトラの顔面に向かって槍が勢いよく飛んできた。驚異的な察知能力で、ケトラは飛んでくる槍の存在にすぐに気づく。
槍の軌道を予測し、彼は首を傾け容易に回避してみせた。槍は、そのまま直進し近くの地面に突き刺さる。
「なんだ、この槍は……」
ケトラは槍の攻撃に思考を巡らす。その間、タナに向けられた拳は、ピタッと止まっていた。
「人々を襲っているのは、お前か!」
そんな声がした後、ケトラは顔面に強烈な蹴りを食らう。思考する最中でも、彼は周囲の警戒を怠ってはいなかった。まるで、突然、目の前に、何かが現れ蹴りを入れられたかのような感覚。それはケトラにとって初めて味合わされた感覚だった。
「ダンテ!!」
ルーシェは、突如現れた人物に向かって歓喜の声を上げた。
そう、ケトラに蹴り食らわせたのはダンテだった。
赤の神殿攻略により得た槍の力でこの場へと瞬間移動し、彼は風の力を纏わせた足でケトラに一撃を加えていた。
ダンテは、蹴りを食らわした後、スタッと地面に着地するとルーシェの方を見て一言言った。
「待たせたな、もう大丈夫だ!」




