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80_決着の拳

 魔法使いの石像はトンと、杖をつくと、神殿の床の一部が、ふわりと浮かび上がり、赤く変色すると炎の玉に形を変えた。


 こっからが本番ってわけか。


 ダンテは、眉間にしわを寄せ、注意深く魔法使いの石像の出方を観察する。


 来る。


 複数の炎の玉が、弾丸のごとく一直線にダンテの方へ迫る。彼は、迫りくる火の玉に物怖じせず、魔法使いの石像に向かって接近を図る。


 距離が離れているほど、火の玉の絶好の的になってしまう。なるべく早く接近戦に持ち込むこと。それがダンテの狙いだった。


 火の玉の軌道を見極めて、紙一重のところで躱しながら、なんとか魔法使いの石像のところまで行くとすかさず、メイテツを剣に変形させ、勢いよく振った。


 カキン!?


 魔法使いの石像は、ダンテの一撃を炎を宿らした杖で、しっかりと、受け止め防御する。


 やっぱり、そう簡単には一撃を食わさせはくれないか。なら……。


「メイテツ、俺がこの石像の杖を抑えている間に、攻撃できるか」


 ダンテは、心のなかでメイテツに話しかけ確認する。


「ええ、少しずるい気もするけど、手段は選んではいられないわね。任せといて!」


 メイテツの元気のいい返事が、返ってきた。ダンテの指示通りに、メイテツは彼の左腕からニョキニョキとスライム状の身体を生やしてハンマーのような形に変形する。


 さすがに、このメイテツの攻撃は予想外だったのか、魔法使いの石像は驚きの感情を顔面ににじませる。


「いけぇええええ!!!!メイテツ!!!!」


 ダンテは魔法使いの石像の杖を剣で押さえながら、メイテツに向かって力強い叫び声を上げる。メイテツは彼の気持ちに、答えるようにハンマーの形に変形させた身体を魔法使いの石像に向かって叩きつけようとする。


 これで決着がつく。そう思われた時だった。


 ダンテの背中に、何かが勢いよくぶつかったと思うと、瞬時に炎が燃え上がる。


 熱い……。まさか、さっき避けた火の玉を背中にぶつけてきたのか。


 ダンテの考え通り、魔法使いの石像は、ダンテに一度回避させた火の玉の動きを操り彼の背中にぶつけていた。火の玉の直線的な動きを一度、ダンテに見せることで、火の玉は複雑な動きはできないという先入観を植え付けることに成功していた。見事に、ダンテはその不意を突かれてしまった。


 ダンテの瞳に、杖を構える魔法使いの石像の姿が映る。


 まずい、このままだとやられる。


 杖の先には、マナを集め濃縮している。魔法使いの石像は、おそらく、自身の出しうる最大火力の魔法を使いとどめの一撃を、放とうとしているのだと彼は直感した。


 まともに喰らえば、確実に命を失う。


 背後から食らった不意打ちに、ダンテは服の一部が破れひどい火傷を負っていた。


 凄まじい身体の痛みに気を張り詰めなければ、意識が遠のいてしまいそうな状況ではあったが、彼の集中力は凄まじかった。咄嗟に魔法使いの石像によるとどめの一撃を両手を下にやる。


 風の力ー通常モードー


 魔法使いの石像が持っている杖の先端から、濃縮した炎のエネルギーを放つコンマ数秒前。

 

 ダンテは、両手を緑色に変色させ、生み出した猛烈な風を、地面に向かって解き放った。その風による上昇気流で、神殿の天井付近までダンテの身体は浮かび上がった。


 ブゥオオオオオオオオオ!!!!


 浮かび上がった直後に、魔法使いの石像の杖の先端から火炎放射のごとく眼前のあらゆるものを焼き焦がす灼熱が解き放たれた。放たれた灼熱の通った地面は、黒く焼き焦げて、その威力の凄まじさを物語る。


 魔法使いの石像は、勝ちを確信していたこともあり、油断していた。風の力で飛び上がったダンテの姿を、完全に見失う。


 今だ。このチャンスを逃すわけには行かない。


 ダンテは、ぎゅっと拳を握りしめると風の力を纏わせる。飛び上がっていた彼の身体が、重力に引っ張られ落下していく。落下と同時に、魔法使いの石像の方を見つめ、呼吸を整えると意識を集中させた。


 これで終わりだ!


 魔法使いの石像は、地面に映るダンテの影を見て彼が上へと移動したことにようやく気がつく。


 ーーだが、時すでに遅し。


 その刹那、ダンテの風を纏った拳が石像の顔面にめり込んだ。


 そして、落下による勢いも、威力に加算された彼の強烈な拳は、いとも容易く魔法使いの石像の強靭な身体を木っ端微塵に打ち砕いた。


「な、なんとか……倒した」


 地面に転がる魔法使いの石像の破片を見ながら、ダンテは、安堵のこもった声で呟いた。念の為、破片が集まり復活しないか注意を向けていたが、さすがにもう復活はしないようだ。


 彼が、勝ちを確信したところで神殿の主の声が響く。


「よくぞ、この神殿の試練を乗り越えた、進むがいい、この扉の先へ」


 そんな声がした後、神殿内部にあった巨大な扉がひとりでに音を立てて、動き出しこの先に進めと言わんばかりにガタンと開いた。


「ダンテ、頑張ったわね、かっこよかったわよ」


 ダンテの激闘を近くで見ていたルーシェが、そっと彼の近くまで来て優しい口調で言った。


「ありがとう、ルーシェ。俺一人じゃ、この試練を乗り越えられなかった。君のおかげで乗り越えられたよ。……ところで、ルーシェ、君の回復魔法で身体の傷を治療してくれると助かるんだけど、お願いできる?」


 神殿の試練で重傷を負っていたダンテは、彼女に助けを求める。


「ごめん……ダンテ。シールドの保持時間30分を過ぎちゃったの。再び展開できるのは必要なピュアの力がたまる、5分後ね」


 ルーシェが申し訳なそうに彼に言うとダンテは、何とも言えない表情を浮かべ一言言った。


「マジか……」


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