73_目覚め
テラは、柔らかな光に包まれてハッと目を覚ました。 ぼんやりとした視界の中に、木製の天井が映り込む。 どうやらどこかの室内のようだ。ベッドの上で横になりながら、テラは戸惑いを覚えていた。
「ここは……?」
ここはどこなのか。どうして自分はこんな場所にいるのか。状況が何一つ分からない。
テラはゆっくりと上体を起こし、周囲を見渡した。 部屋には古びた家具がいくつか置かれているものの、誰もいないように見える。
記憶を辿りここにいる経緯を思い出そうとすると、パッと脳裏に浮かんできたのは、ダンテの姿だった。 血にまみれ倒れていたダンテの記憶が、じわじわと蘇る。
そうだ、ダンテは……無事なのかな。やっぱり僕がこの手で……くっ、考えるのはやめよう。悔やむのは真相を知ってからでいい。
テラは目を閉じぐっと堪えると、ベッドから降り、とりあえず立ち上がろうとする。だが、うまいこと全身に力が入らず、バランスを崩して危うく倒膝から崩れ落ちてしまう。
「……なんだ、体が……」
慣れない感覚に戸惑いながらもなんとか姿勢を整える。
その時、背筋に冷たいものが走った。
何かの視線を感じたのだ。 テラは思わず息を呑む。心臓の鼓動が速くなり、冷や汗がじわりと背中を伝える。
視線はベッドの下から感じられた。テラは慎重にしゃがみ込み、ゆっくりとベッドの下を確認する。
男は、刀のようなものを抱え、黒く沈んだ目でテラを見つめていた。
「気づきましたか……」
低く抑えた声が静寂を破る。異様な雰囲気を放つ男に、テラは思わず声を上げた。
「う、うわぁああっ!!!!!!」
後ずさりしようとするも、体が思うように動けず、腰を考えたままその場にへたり込む。体を強張らせた。
「誰……だ?」
問いかけるもの、相手の表情は変わらない。淡々とした様子でテラを見つめ続けている。その冷ややかな瞳には、何か底知れぬ闇が宿っているようだった。
「驚かせてしまい、すみません。私はワイト……あなたに、危害を与えたりしません、安心してください」
ワイトは静かにそう名乗った。そんな彼からはただならぬ雰囲気を感じられた。
何者なんだ、この人。確かに敵意は感じないけど、得体のしれないやばさを感じる。
テラは、彼を見つめ、沈黙し佇む。
その様子を見てか、ワイトはゆっくりと立ち上がり、刀を腰に差した。 そんななりげない所作であっても一切の無駄がない。長年の鍛錬を積んだ者特有の洗練された動きだ。
間違いなく目の前の男は、ただの人間ではない。
「怪しむのも無理はないです。どうしてか、最初は不審な目でみられがちなんですよね、こう見えて私」
ワイトは、黒髪に手をやり、くるくると髪を絡め取りながら言った。
「こう見えて……」
思わず、テラは、口から言葉を漏らす。
「先ほど話しましたがあなたには、危害をあたえるつもりはないんです。私は、寝ているあなたに魔物たちが、襲われないようにベッドの下で見張っていただけですから」
ワイトは嘘をついているようには思えない。少しテラは心を開き彼に問いかける。
「状況がいまひとつ分からないんだよね。ここはどこで、誰がここまで僕を運んでくれたの?」
ワイトは、真っ黒に淀んだ目を向け冷静な声で答えた。
「ここは王都ペンタゴンの中にあるギルドです。タナという仲間から、あなたを守るように頼まれましてね。彼女から聞いた話によると、あなたをこの場所まで運んだのはダンテという男性のようですが……」
ワイトの言葉にテラはハッとなる。
「そうか、ダンテが……」
テラは彼が行きていたことに安堵しながらそう答えた。
「ええ、そのダンテという男性は、今、この王都にある神殿に向かっているようですよ」
「神殿だって……ここにも神殿があるの?」
テラは、神殿と聞き虹の神殿と白の神殿がパッと頭に浮かんだ。
「はい、赤の神殿と呼ばれる神殿ですよ。とは言え、選ばれたものしか中には入れませんが。ダンテは、神殿に選ばれしものと聞きました。とても興味深いですね」
ワイトがそう言うと、テラは黙って思考を巡らせる。
神殿の試練を受けに行っているの、ダンテのやつ、大丈夫かな……。
※※※
一方その頃、ダンテはしばしの休息した後、ルーシェにつれられ、王都にあるという赤の神殿に来ていた。
ここが、赤の神殿か……。
ダンテが見上げる先には、神聖な雰囲気を漂わせる赤いレンガづくりの巨大な神殿が建っていた。神殿は壮大でありながら、どこか不気味さも感じさせるものだった。赤いレンガでできた壁は年月を経てなお強固で、入り口には大きな扉がそびえ立っていた。
ダンテたちは、その扉の前に立ち、しばらくの間無言で佇んだ。
この先に待つ未知の出来事への期待と不安を胸に抱きつつも、ダンテは意を決して扉に手のひらを当てた。
ガタッ!!
その瞬間、大きな音が響き渡り、扉がゆっくりと開かれた。
「行こう」
ダンテが静かに言うと、ルーシェは頷いた。
扉の奥からは冷たい空気が流れ出し、薄暗い神殿の内部が見える。彼らは一歩、また一歩と慎重に足を踏み入れた。神殿の中は広く、神秘的な雰囲気に包まれていた。薄暗い中に無数の古代文字が刻まれた柱が並び、天井には神々を描いた壁画がかすかに見える。
「なんだか神秘的な場所ね……。この先に何が待ち受けているのかしら」
ルーシェが小声で不安を口にする。
「分からない。だけど、どんな困難が待ち受けていようともきっと俺たちなら乗り越えられるさ」
ダンテたちは前を見据えながら歩みを進める。その先に待つものを知るために。




