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68/136

68_タナ

 眼前でガタガタ揺れる、真紅の血で染まった両剣。その震える両剣の奥に見えるのは、血の絨毯の上で眠るダンテの姿。

 

 テラはその光景にハッと我に返る。


 ーーそして、理解した。


 自分の手で、かつて共に戦った仲間ダンテを傷つけてしまった事実に。


 僕が……僕が、やったのか。大切な仲間を、この手で……。


 ふいに彼は、心臓を刃物でぐさっと一突きされひどく抉られたかのような思いに苛まれる。息は規則性を失い、心臓は揺れ動く心に呼応するかのように狂ったように躍動する。


 血を流しながら地面に倒れるダンテの傍らに急いで駆け寄るルーシェ。彼女の悲しく切ない声が、静寂に包まれた白銀の大地に虚しく響き渡る。


「ダンテ……!」


「……」


 ルーシェが彼の名前を叫んでも、ダンテはピクリとも動かず返事はない。


 実はダンテは、二刀流となったテラをギリギリまで追い込んでいた。攻防を繰り返した末、ダンテは風の力で周りの雪を操り、テラの身動きを封じることに成功したのだが、彼の奥の手を使われてしまう。


 反射の構え、すべての攻撃を倍にして返すカウンターの構えこそがテラの奥の手だった。


 渾身の一撃を与えようとしたダンテは、テラの反射の構えによるカウンターをまともに受けてしまい致命傷を負ってしまっていた。

 

 そんなダンテにトドメを刺そうと、テラの体が動き出す。


 体が勝手に動く……。


 あくまで彼の身体の主導権は、怨虫にまだあった。怨虫に操られ、テラの身体はルーシェの方へ、ゆっくりと着実に進んでいく。


 そして、ルーシェの眼の前まで近づくと立ちとどまり、持っていた黒い剣をゆっくりと掲げる。日の光を反射し、きらっと不気味に切っ先が光り輝く。


 まさか、この少女を襲いかかるつもりなのか……。この子には何の罪もないのに、駄目だ!止まれ!止まってくれ!!


 テラは必死に抵抗するが、掲げられた剣は無慈悲に振り下ろされる。


 キン!?


 剣と剣が激しくぶつかり合う音がした。甲高い金属音が、白銀の大地に轟く。


「私の妹に何をしている?」


 テラの振り下ろした剣の切っ先は、ルーシェに到達する寸前、動きを止められていた。


 間一髪のところでテラの剣を止めたのは、女性の剣士だ。


 突如、現れた彼女は、ルーシェの姉タナ。艶やかな長髪が、冷気の纏った風で美しく靡いている。凛々しい表情からは、幾度もの困難を乗り越えてきた逞しさをどこか感じさせる。


「お姉ちゃん!?来てくれたのね!!さすがだわ」


 ルーシェは、テラの剣から守ってくれた姉タナに向かって笑みをこぼしながら歓喜の声を上げる。


 タナは、すかさず息を吸って全身に力を入れると、止めていたテラの剣の切っ先を弾く。


 テラの体勢が崩れた瞬間。


 彼女はさっと左足にマナを宿らせると、その足でテラの右脇腹のあたりに強烈な蹴りを入れる。


 硬いな……。


 彼女は、蹴りの感触に、眉を寄せる。タナの蹴りを受けて、数十メートル程ぶっ飛んだものの、テラは、攻撃を受ける直前に、マゴを全身に纏わせて防御していたこともあり、大したダメージは入っていないように見える。


「ルーシェ、この魔族は、私が相手をする。その間あなたは、そこに倒れている男の人を助けてちょうだい」


 タナの言葉にルーシェは、力強く頷く。


「分かったわ!!!お姉ちゃん」


 ルーシェは、テラが、襲ってこないうちに勾玉に力を込めて、シールドを展開すると、ダンテの傷を治療する。


「久々に、少しは手応えのある奴と戦えそうだ」


 そう言うと、タナは久々に出会った強者との出会いに心躍らせる一方、妹を傷つけようとしたテラに対して闘志を燃え滾らせる。

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