67_夢と現実
恐る恐るテラは、目の前の現実を見まいと閉じた瞼をそっと開ける。
「剣士……」
テラは、一言そう呟いた。巨大な大剣を片手に構え、悠然とした様子で一人の男が立っている。その男は図書館に行く前に見かけた剣士の男性だ。
その剣士の男の近くには、ドラゴンの切断された腕が転がっている。ハンナは、ドラゴンに身体を圧迫され、殺されそうになったショックで気を失っている。意識を失ってはいるが、身体は無事だ。ドラゴンに完全に押しつぶされる前に剣士の男性が彼女を救っていた。
「痛い、痛いぃいいいいい!!!!無礼だ!!!お前はこの上なく無礼だ!!!突然、現れて腕を切るやつがあるかぁああああああ!!」
ドラゴンの頭から現れた魔族は、剣士の男性に腕を切られ、怒り狂う。こめかみ辺りの血管を浮かび上がらせながら、剣士に向かって罵声を浴びせる。
「うるせぇーな、鼓膜に響くんだよ、お前の声。だるいぜ。トトっと、終わらせるか」
剣士の男性は、面倒くさそうに後頭部に手をやり掻くと、重厚な大剣を片手で構え、横にさっと振った。すると、凄まじい突風が吹き荒れ、周囲の炎が一気に消え去る。
「ヒィ、ヒィいいいいい!!!何者だ、ただ者ではないだろ、お前ぇええええ!!!」
魔族は、剣士のほんの僅かな所作から剣士の男性の奥底にあるただならぬ実力を感じ取った。先ほどの威勢の良さは嘘のように震えた弱気な声を出して彼の方を指さす。だが、すでに指さした先には、剣士の姿はなかった。
「どこを指さしてんだ。隙だらけだぜ」
剣士の男は、魔族の背後へとすでに移動していた。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
男が大剣を天高く掲げると、曇天からいきなり稲妻が走り大剣に落ちる。そのまま稲妻を纏った大剣を魔族の身体めがけて振り下ろす。
「ま、まさか!!!この私が人間ごときにぃいいい!!!」
魔族は悔しさの入り混じった声を上げると、なすすべもなく稲妻を纏った剣に一刀両断され、屠られる。ドラゴンの巨体がドスンと横に倒れると同時に、剣士の男は、地面に着地した。
「か、かっこいい。やるじゃん、このおっさん」
テラは、自分やハンナを救ってくれた剣士の男の背中を見て、強い憧れと尊敬の念を抱く。
僕も、この人みたいに、誰かを救える人間になりたい……。
「あなたは一体……」
テラは、目の前の剣士の男に問いかける。
「俺か、俺はセナ。聖騎士をやっているんだ。よかったな、助かって。あそこに倒れてるの、お前の母親じゃないか」
セナが顔を向ける先には、テラの母親が倒れている。ドラゴンの巨体は魔族を倒したことで、光粒子となってきれいさっぱりなくなっていた。
「ありがとうございます」
テラはセナに頭を下げ感謝すると、地面に倒れる母親のもとに近づく。
きっと、生きてる、母さんは生きてる。
テラは、心のなかで言い聞かせながら近づいている最中、頭痛がして頭がくらくらした。思わず頭を抱え、目蓋を閉じる。
なんだ、この頭の痛みは……。
そう思い目を開け顔を上げると、突然、目の前の光景が一変していた。
地面は真っ白な雪に変わり、冷気を纏った突風が横から吹き荒れる。
ーーそして、先ほどまで母親が倒れていた場所には、ダンテが血を流して倒れていた。
そんな、ダンテ……。なんだ、これは、嘘だ。僕が、やったのか。
長い夢からようやくさめたテラは、真っ赤な血で染まった両剣を小刻みに揺らす。




