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66_ドラゴンに潜むもの

 テラの狂気的な憎悪の感情に誘われて、どこからか笑い声を含んだ不気味な声が聞こえてきた。


「クフフ、いいね、この溢れ出る力と憎悪!大好物だっ!!」


 突如、ドラゴンの頭部がボコボコと膨れ上がり、魔族が姿を現す。どうやら、この魔族がこのドラゴンの本体のようだ。


「味あわせてくれよ。君のち・か・ら」


 両手を広げ興奮した声で叫ぶと、ズルズルと口の周りに舌をやり舐め回す。


 その魔族は緑色のフサフサした髪を垂れ下げ、目の下は黒ずんでいた。笑みを浮かべ、上から覗き込むようにテラを見ている。


「……」


 憎悪に取り憑かれ、無心に駆けるテラは、突如現れた魔族のことを気にも留めず、ただひたすらに突き進んだ。ドラゴンの胴体に向かって光の剣を容赦なく振り下ろす。


 パキッ!?


 しかし、テラが力の限り振り下ろした光の剣は、強靭なドラゴンの肉体に当たった途端、ひび割れいとも容易く砕け散ってしまう。

 

 テラは、目の前で舞い散る光の剣の断片を見て、憎悪の感情から目を覚ます。ようやく自らの状況を客観視する。


 バカな……。僕の剣では、このドラゴンに傷一つつけられないのか……。

 

「おいおい、その程度なのか。拍子抜けだな。興ざめだな。先に君が僕を攻撃してきたんだ。僕に攻撃されても仕方ないよね」


 魔族は、テラの非力さに幻滅しぶつくさ呟いた後、ドラゴンの口に灼熱の炎を生み出し、テラに向かって放出しようとする。


 ドォーン。


 炎を今にも吐き出そうとしていたドラゴンの頭に、どこからか飛んできた氷の塊がぶつかった。


「テラ、あなたを見過ごすわけには行かない。一緒にここから逃げましょ。早く!!」


 ハンナの声が響く。実は、テラの危機を目の当たりにし、咄嗟に魔法で氷を生み出し、ドラゴンの攻撃を防いでいたのだ。


「でも、このドラゴンは、母さんを……」


 バシッ。


 ハンナは思いっきり、テラの頬をビンタした。


「ハンナ……」


 彼女にビンタされたテラは、徐ろに頬に手をやる。


「あなたの母親は、あなたに逃げてと言った。それは、あなたに生きてほしいと思っていたからのはずよ。その思いを踏みにじるつもり?それに、私も……あなたに死んでほしくない……とにかく、行きましょ」


 ハンナは、ぎゅっとテラの手を伸ばし一緒に逃げるように促す。


「ハンナ……ごめん、僕は自分の感情のままに動き過ぎていたみたいだ」

 

 テラも、手を伸ばし、ハンナの手を握ろうとした時だ。ドラゴンの巨大な手が彼女を襲った。


「ぐぅ……動けない」


 ハンナは、ドラゴンの手で地面に抑えつけられ身動きを封じられている。


「ハンナ!?」


 テラは、光の剣を生み出しドラゴンの手を攻撃し彼女を助け出そうとするが、今の彼の実力では幾ら攻撃しても切っ先が弾かれてしまう。


「氷による挨拶、まったく最悪だったよ!!!!横から邪魔する失礼な奴は死に値する」

 

 ドラゴンの頭から現れた魔族は、不満を漏らすとハンナをそのまま握りつぶそうとする。 


 このままだと、ハンナが殺される。僕が、逃げなかったから、感情のままに自分勝手に行動してしまったからだ。


 テラの中で、罪悪感が、蛆虫のように湧き上がる。


「やめろ!!!やめてくれ!!!」


 ジャキィーン。


 テラは目をつむり叫び声を上げた後、何かが切断される音が、殺伐とした空間を引き裂くように響き渡った。

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