135_策略
黒影の巨大な斧が、空気を引き裂きながらワイトの顔面へと振り下ろされる。
(――まずい。不意を突かれた……!)
ワイトは自覚する。
回避が、わずかに遅れた。
戦場では、その“わずか”が命を分ける。
――ガキィィン!!
金属同士が噛み合う轟音が炸裂した。
「俺を無視してんじゃねぇよ!お前の相手は、俺だろ!!」
斧を受け止めていたのは、ダンテだった。
左腕を剣へと変形させ、黒影の一撃を正面から受け止めている。
その瞳には、怒りと闘志が燃えていた。
「……ダンテさん。生きていたのですね」
ワイトの声に、ダンテはわずかに口角を上げる。
「ああ……なんとかな」
ダンテは即座に剣へ風を纏わせ、力を解放する。
ゴオォと唸りを上げた風圧が斧を弾き飛ばし、そのまま黒影の巨体を直撃した。
黒影は抵抗する間もなく遠方まで吹き飛ばされた。
ダンテとワイトは、咄嗟に背中合わせとなった。
呼吸を合わせ、戦場で得た情報を一気に交換する。
「あの黒い化け物……見た技を模倣してくる。下手に手の内を見せるとまずい。風の力も、もう一度使われる可能性が高い」
「白のほうは、異常な再生能力を持っています。粉微塵にしても、あの通りほとんど元通りです」
二人の視線の先で、白影の身体が、ぐにゃりと蠢きながら再構築されていく。
「……となると」
「ええ。この化け物を生み出したフエンを倒すのが一番手っ取り早いです」
ダンテは、遠方から再び接近してくる黒影のマゴを感じ取り、言う。
「そうだな、今のところそれ以外無さそうだ」
ワイトは一瞬だけ視線をダンテに向け、覚悟を込めて告げた。
「この二体と対峙しながら、フエンのもとへ向かいましょう」
「ああ」
二人は並び立ち、再び正面を見据える。
黒影は、恐ろしい速度で帰還していた。
白影も、完全に再生を終えている。
両者は、不気味な笑みを浮かべ、涎を垂らしながらこちらを見つめていた。
まるで、人間を喰らうことを心から楽しみにしている捕食者のように。
※※※
「ふふ……どうやら、影の脅威に気づいたようだね」
フエンは玉座に腰掛けたまま、愉悦の笑みを浮かべる。
「まだ遊べそうだ。僕のところまで来るつもりみたいだけど……無駄だよ」
その瞬間。
玉座の背後から、剣を構えた影が躍り出た。
迷いのない一撃だ。
ズバァン!!
玉座は、一刀両断された。
「へぇ〜」
フエンは、紙一重でその斬撃を避け、静かに立ち上がる。
「僕が一人になる瞬間を狙うとは……なかなか策士だね」
振り返ったフエンの視線の先には。
剣を構えるテラ。
そして、杖を構えたルーシェ。
二人は、決意に満ちた眼差しでフエンを見据えていた。




