134_白影の力
「さて……そろそろ、ダンテたちは気づいた頃かな。影の化身たちが持つ力に」
フエンは玉座から立ち上がり、黒影と白影が消えた方向へと視線を投げた。
その瞳には、期待と嗜虐がないまぜになった光が宿っている。
「楽しませてくれよ、二人とも。ここで終わってもらっては困る。……そうでないと、遊びにならないからね」
不気味な笑みを浮かべ、再び玉座に腰を下ろす。
影で形作られた肘掛けに身を預け、悠然と足を組んだ。
※※※
ワイトは、白影の異常な能力を前にしていた。
「……これは、なかなか骨が折れますね」
低く呟きながら、白影を見据える。
たしかに斬った。
確実に、肉を裂き、骨に届く一撃だった。
――にもかかわらず。
白影の裂けた身体は、ぬめるように蠢き、瞬時に塞がっていく。その様子を、白影は嘲るかのような歪んだ笑みで見返してきた。
高速再生。
致命傷すら意味をなさない、異常な再生能力。
「……なるほど」
ワイトは短く息を吐いた。
「開門」
その言葉と同時に、体内に蓄えたマナが解き放たれる。空気が震え、足元の砂がふわりと浮いた。
深く息を吸い、剣を構える。
「ここからは……少し本気でいきます」
次の瞬間、二人の姿が消えた。
残されたのは、爆ぜる砂煙だけ。
――ドオンッ!
重低音が大地を揺らす。
ワイトの剣を、影をまとった白影の太い腕が受け止めていた。
「……硬いですね。ですが」
ワイトの瞳が鋭く光る。
「その程度で、私の剣は止まりません」
剣に纏わせたマナが、刃をさらに研ぎ澄ます。
次の瞬間。
ズバッ、と。
白影の腕が、紙のように裂けた。
だが、白影は顔色一つ変えない。
むしろ、それを待っていたかのように、腕を捨てる動きで懐へ踏み込む。
「……躊躇がない。まるで私を殺すことだけを目的に作られた兵器ですね」
白影の拳が、一直線にワイトの左脇を狙う。
ワイトは、マナの質量を瞬時に移動させ、信じがたい速度で身を沈めた。拳は紙一重で空を切る。
「私も、剣神と呼ばれる身。こんなところで、終わるわけにはいきません」
「隙あり。こちらの番です」
反撃の瞬間。閃光のごとく速度でワイトの剣が、幾度も白影を切り裂いた。
次の瞬間、白影の身体は粉微塵に砕け散る。砂と影が宙を舞い、原形は完全に失われる。
(……これで、さすがに再生は)
だが、砕けた影は蠢く。粒子のようになった白影が集まり、絡まり、再び形を成していく。瞬く間に、元通りの姿へと。
「……なんということだ」
ワイトは息を呑む。
「今の攻撃でも無効……。となると」
視線が鋭くなる。
「おそらく、この化け物を止めるには、フエン本人を倒すしかない」
冷静に分析していた、その時だった。
ズドンッ!!
地面が割れる音とともに、何かが落下する。
舞い上がる砂ぼこりの中、巨体の影が蠢いた。
次の瞬間、それは飛び出す。
距離を無視した速度で、ワイトへ迫る。
「……っ!」
ワイトの視界を埋め尽くす、黒い巨躯。
「もう一体の化け物……ダンテさんは!?」
一瞬、ダンテのことが脳裏をよぎる。
その一瞬が、致命的だった。
(……まずい)
黒影は、まるでメイテツを模倣するかのように、左腕を変形させる。巨大な影の斧。
それが、容赦なくワイトめがけて、振り下ろされるのだった。




