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133/145

133_模倣

 槍の力で、ルーシェとテラのもとへ一気に移動したかったが、その余裕はない。


(……先に、こいつを無力化するしかない)


 落下する視界の端で、黒影が歪んだ笑みを浮かべるのが見えた。


 その背中から、無数の影が生え伸びる。


 影の先端は刃のように尖り、意思を持つかのごとく、一直線にダンテへと迫ってくる。


 ダンテは、静かに目を閉じた。


 視界を遮断し、感覚を研ぎ澄ます。

 あの速度、目で追えば、反応が遅れる。


(今は視覚はいらない。無駄な情報を捨てる……最小の消耗で、確実に仕留める)


「メイテツ、俺のイメージ通りに、風の力を解き放ってくれ」


 閉じたままの瞼の奥で、ダンテは語りかけた。


「分かったわ、ダンテ!」


 迷いのない返答が、彼の背を押す。


(逃げ続けても、いずれ追い詰められる……攻めるなら、今だ。空中で、あいつも身動きが制限されているこの瞬間に)


 ダンテは、メイテツを両手と両足へと纏わせた。

 四肢すべてから風を噴き出す構成。

 空中でも、最小限の動きで軌道を変えられる。


 両足から風を放出する。

 肌を裂く気流の中で、ダンテは影に宿るマゴの“流れ”を読む。


 ――来る。


 ひとつ。

 ふたつ。

 みっつ。


 紙一重。

 影の刃が身体のすぐ脇をかすめ、空を切り裂く。


(直進だけ……変則はない。読める)


 ならば、突き進むだけだ。


《槍の力》


 メイテツが変形し、鋭い槍が形を成す。

 ダンテは柄を強く握り締めた。


 黒影の内部。

 禍々しいマゴが渦を巻く“核”が、感覚の奥に浮かび上がる。


(……あそこだ。一撃で、終わらせる)


 迫りくる影をすべて躱しきった。

 残るのは、本体のみ。


 ダンテは、目を開いた。


 視界の中心に、黒影の巨体。

 その奥に脈打つ、禍々しいマゴの核心。


(貫く!)


 両足から、風を最大出力で噴射する。

 距離が一瞬で消し飛ぶ。


 黒影が防御の動作に入る。その前に、懐へ滑り込む。


「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 闘志を剥き出しにした咆哮とともに、ダンテは槍を突き出した。


 移動用として使ってきた槍だが、今は純粋な“貫くための刃”。


 マナをまとった槍先は、確実に黒影のマゴの核心を捉えていた。


 ――はずだった。


 次の瞬間。


 槍先は、空を裂いた。


「……何っ!?」


 衝撃がない。

 手応えが、ない。


 息を呑んだ、その刹那。


 視界の外から飛来した、影で形作られた“槍”が、ダンテの左肩を深々と貫く。


「ぐっ……!?」


 焼けつくような痛みが走り、思わず顔が歪む。


 必死に視線を向けると、数メートル先に、黒影の姿があった。


 まるで最初から、そこにいたかのように。


(瞬時に、俺の《槍の力》を模倣して……自分の技として使った、だと……)


 ダンテの背筋を、冷たいものが走った。


 この化け物は、“学習する”。


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