133_模倣
槍の力で、ルーシェとテラのもとへ一気に移動したかったが、その余裕はない。
(……先に、こいつを無力化するしかない)
落下する視界の端で、黒影が歪んだ笑みを浮かべるのが見えた。
その背中から、無数の影が生え伸びる。
影の先端は刃のように尖り、意思を持つかのごとく、一直線にダンテへと迫ってくる。
ダンテは、静かに目を閉じた。
視界を遮断し、感覚を研ぎ澄ます。
あの速度、目で追えば、反応が遅れる。
(今は視覚はいらない。無駄な情報を捨てる……最小の消耗で、確実に仕留める)
「メイテツ、俺のイメージ通りに、風の力を解き放ってくれ」
閉じたままの瞼の奥で、ダンテは語りかけた。
「分かったわ、ダンテ!」
迷いのない返答が、彼の背を押す。
(逃げ続けても、いずれ追い詰められる……攻めるなら、今だ。空中で、あいつも身動きが制限されているこの瞬間に)
ダンテは、メイテツを両手と両足へと纏わせた。
四肢すべてから風を噴き出す構成。
空中でも、最小限の動きで軌道を変えられる。
両足から風を放出する。
肌を裂く気流の中で、ダンテは影に宿るマゴの“流れ”を読む。
――来る。
ひとつ。
ふたつ。
みっつ。
紙一重。
影の刃が身体のすぐ脇をかすめ、空を切り裂く。
(直進だけ……変則はない。読める)
ならば、突き進むだけだ。
《槍の力》
メイテツが変形し、鋭い槍が形を成す。
ダンテは柄を強く握り締めた。
黒影の内部。
禍々しいマゴが渦を巻く“核”が、感覚の奥に浮かび上がる。
(……あそこだ。一撃で、終わらせる)
迫りくる影をすべて躱しきった。
残るのは、本体のみ。
ダンテは、目を開いた。
視界の中心に、黒影の巨体。
その奥に脈打つ、禍々しいマゴの核心。
(貫く!)
両足から、風を最大出力で噴射する。
距離が一瞬で消し飛ぶ。
黒影が防御の動作に入る。その前に、懐へ滑り込む。
「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
闘志を剥き出しにした咆哮とともに、ダンテは槍を突き出した。
移動用として使ってきた槍だが、今は純粋な“貫くための刃”。
マナをまとった槍先は、確実に黒影のマゴの核心を捉えていた。
――はずだった。
次の瞬間。
槍先は、空を裂いた。
「……何っ!?」
衝撃がない。
手応えが、ない。
息を呑んだ、その刹那。
視界の外から飛来した、影で形作られた“槍”が、ダンテの左肩を深々と貫く。
「ぐっ……!?」
焼けつくような痛みが走り、思わず顔が歪む。
必死に視線を向けると、数メートル先に、黒影の姿があった。
まるで最初から、そこにいたかのように。
(瞬時に、俺の《槍の力》を模倣して……自分の技として使った、だと……)
ダンテの背筋を、冷たいものが走った。
この化け物は、“学習する”。




