131_黒と白
ダンテとワイトの全身に、ぴんと冷たい緊張が走った。
――今だ。
二人は同時に悟った。これは、フエンが見せる“最大の隙”だと。
剣を構えた瞬間、二人の姿が掻き消えた。
次にフエンの目の前に現れた。
目にも留まらぬ速度。二人は、ほぼ同時に斬撃の間合いへ踏み込んでいた。
(この威圧感……前とは比べものにならない。今までの魔族の誰とも違う“壁”がある)
ダンテの胸を焦りが締め付ける。
フエンの身から溢れる禍々しいマゴが、皮膚に刺さるように痛い。
ほんの僅かでも手加減すれば、気を緩めれば、一瞬で首を刎ねられる。
そんな確信が、脳髄から背骨まで冷たく駆け抜けた。
ワイトも同じだった。
眼前にいるのは子供の姿をした魔族。
だが、そこに“遠慮”の二文字はない。
フエンは、二人から振り下ろされた刃を前にしても微動だにしない。
むしろ、その横顔には余裕すら感じられる。
「いいね。ナイフのように研ぎ澄まされた闘志と殺意。でも……それじゃあ、僕には届かない」
嘲るような声とともに、フエンの足元の影がふくらんだ。
ぐにゃり、と影が歪む。
次の瞬間、地面を破るようにして二つの巨影が跳び出した。
黒と白。
どちらも筋肉が岩のように盛り上がり、眼窩を持たない無機質な“怪物”。
ガキンッ!!
二人の剣が、それぞれ黒と白の巨体にぶつかった瞬間、激しい火花が散り、衝撃が腕を伝う。
(なに……弾かれた!? 本気で振ったのに……なんて硬さだ!?)
ダンテは目を見開く。その横で、ワイトが低く声をかけた。
「ダンテさん、落ち着いてください。……私もいます」
その声にダンテがわずかにハッとなった瞬間。
「行け。黒影と白影」
フエンの冷たい呟きが響いた。
「ぐぅおおおおおおおお!!!!!」
黒と白の怪物が、裂けるような雄叫びを上げた。
地面が震え、空気が振動する。
黒影がダンテへ、白影がワイトの方へと大地を割り、空を裂く速度で突っ込んできた。
次の瞬間、マゴをまとった拳が二人を襲う。
咄嗟にダンテもワイトも剣を盾代わりに受け止めたが。
ドガァァァンッ!!
あまりに強烈な一撃に二人は勢いよく吹き飛ばされた。
木々をなぎ倒しながら、互いに正反対の方向へ。
砂塵が尾を引き、視界から二人の姿が消える。
二人は完全に分断させられた。それはフエンの狙い通りだ。
「さて……今回は、何秒持つかな」
フエンは影を操り、自らの背後に漆黒の玉座を形作る。ゆっくりと腰掛け、足を組む。
そして、指を軽くパチリ、と鳴らした。
その瞬間、黒影と白影の姿が掻き消えた。二つの影は、二人が吹き飛ばされた先へ向かう。
ただひたすらにダンテとワイトの命を奪うためだけに。




