130_第三階層へ
「向かいましょう、ダンテさん。第三階層へ」
短い休息をとった後、静寂を破るようにワイトの声が低く響いた。
「ああ。テラやルーシェたちは、もう先に戦っているはずだ……。それに奴も、きっと待っている」
ダンテは険しい顔で、第三階層へと続く光の柱を見上げる。その光は、薄暗いダンジョンを力強く照らしていた。
「奴…?誰のことを言っているんですか?」
ワイトは眉を寄せ、まるで心当たりがないというように首を傾げた。
「エウノキ村を襲った、あの魔族の少年だ。……このダンジョンに来てから、まだ姿を見ていない」
ダンテの脳裏に、1000年後の世界で初めて相対した魔族フエンの不気味な笑みがよみがえる。
「そのフエンという魔族……このダンジョンに確実にいると?」
「いる。このダンジョンから、奴の“マゴ”を感じた。前に戦った時より、もっと禍々しいものを」
「なるほど。確かに……上層から凄まじいマゴが溢れてきています。それが、あなたの言うフエンのものかもしれませんね」
「間違いないと思う。……テラとルーシェたちなら大丈夫だと信じたいが、胸騒ぎがしてならない」
「不穏ですね。急ぎましょう。嫌な予感ほど当たるものはありません」
二人はほぼ同時に駆け出した。
休息をとったとはいえ、魔族との死闘で身体は悲鳴をあげている。万全には程遠い。
それでも、立ち止まるという選択肢はどこにもなかった。 石造りの建造物に囲まれた空間の中央、光の柱が天へと突き抜けるように伸びている。
眩い光は静かなのに、得体の知れない圧を感じさせた。
迷うことなく、二人はその中へ飛び込んだ。
瞬間、世界は白の奔流に飲まれた。
音が消え、視界が白に塗りつぶされる。
やがて、かすかな輪郭が浮かび上がり、真っ白な世界に影が差し込み始める。
細長い岩山がいくつも突きあがり、第三階層の荒涼とした舞台が姿を現したその時――。
ダンテとワイトは、息を呑んで硬直した。
地面には血が広がっていた。
その中に倒れ伏す、テラ、ルーシェ。そして、ギルドの剣士たち。
「テラ……ルーシェ……」
ダンテは拳をぎゅっと握りしめ、絞り出すように呟いた。
「ダンテさん……どうやら、私たちの嫌な予感は当たってしまったようですね」
ワイトの声も震えていた。
二人は周囲に漂う禍々しいマゴの濃度に、自然と剣を構える。
そこに――。
「久しぶりだね、ダンテ。わざわざ倒されに来てくれて……ありがとう」
低く、嘲るような声が岩陰から響いた。
ゆっくりと姿を現した魔族。
その目に浮かぶのは、残忍な笑み。
ダンテは、唸るような声でその名を呼んだ。
「……フエン」




